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Fair Play for Housing Right

Center on Housing Right and Eviction (COHRE) ed. 2007. Fair Play for Housing Right: Mega-Events, Olympic Games and Housing Rights. Geneva: COHRE.

 

本書はオリンピック関係の文献でよく引かれるもので,COHREという国際NGO団体が出版し,ウェブサイトを通して無料で配布されている。「居住権と立ち退きに関するセンター」という名前からも分かるように,人権の一つとしての居住権に関する世界的な調査・研究を行っている機関である。
オリンピックや万博などの世界的なメガイベントの開催に伴って,開催都市において大規模な開発が行われ,その土地の居住者は立ち退きを強いられるというのはよく知られている。その実態を継続的に調査し,報告している。本書は1988年のソウル大会から,出版当時予定されていた2008
年北京大会,計画されていた2012年のロンドン大会までの夏季大会の事例研究に基づいて,それを総括する内容である。
本書の企画出版はジュネーヴ国際学術ネットワークなる団体から支援を受け,国連とも関係し,ジュネーヴの建築大学やトロント大学,ニューヨーク法科大学,ウィスコンシン州メディソン大学などが参加しているとのこと。

略語一覧
謝辞
序文
概要
I
はじめに
 1.方法論
 2.国際オリンピック委員会との関連
II
メガイベントと居住の権利
 1.メガイベントとその居住へのインパクト
 2.メガイベント誘致と計画における最善の実践
 3.メガイベントに適用可能な人権法の枠組み
 4.メガイベントと居住権に関する結論
III
オリンピック運動の事例
 1.オリンピック運動の原則と住宅関連への関与
 2.人権標準との適合
 3.人権からのアプローチ
 4.開催都市の選挙過程および居住へのオリンピック大会のインパクト:原則は現実と一致しているか?
 5.オリンピック大会が与える現地居住への負のインパクトに対する責任説明
 6.オリンピック運動の過程に対して考慮すべき居住権を含む結論と勧告
IV
 オリンピック大会と居住権の研究
 1.オリンピック大会の演出:居住権に関連する共通の特徴
 2.オリンピック開催都市の20年の経験
  2.1 ソウル(1988年)
  2.2 バルセロナ(1992年)
  2.3 アトランタ(1996年)
  2.4 シドニー(2000年)
  2.5 アテネ(2004年)
  2.6 北京(2008年)
  2.7 ロンドン(2012年)
 3.オリンピック誘致と準備における居住の最善の実践
 4.根拠の要約:オリンピック大会とその居住権享有へのインパクト
V
結論と勧告:居住権を保護し訴えるための「オリンピック」の機会と「メガ」可能性
 1.結論
 2.勧告
VI
 メガイベントおよび居住権の保護と訴えに関する複数利害関係者の手引き
 1.概観
 2. メガイベントおよび居住権の保護と訴えに関する複数利害関係者の手引き
オリンピック大会および他のメガイベントの居住へのインパクトに関する概略表
文献表
 メガイベントと居住に関する資料
 法的文書および条約・協定
付属書I:用語集
付属書II:居住権に関する法的資料

細かい内容はともかく,IIを読むだけでも得ることは多い。IIではオリンピックに限らず,世界中の多くのメガイベント開催に伴って,多くの人が家を追われ,立ち退きを強いられている事実が報告される。その対象となる人の多くが低所得者であり,エスニック・マイノリティであり,ホームレスである。実際にイベントに必要な施設の建設用地だけではなく,そのイベントによって国際的な観光客インバウンドを見込んでいるため,その周辺の美化も含め,そうした低所得者層が目障りとして追い出されるのだ。オリンピックの他,万博やワールドカップといった文化的イベント,スポーツイベントだけでなく,本書でよく登場するのはIMF/国際銀行の会議である。それらは政治的イベントと分類されている。そして,本書の特徴は単なる学術調査の報告だけでなく,ではそういう居住権の侵害をなくすためにはどうしたらよいかの指針や手引きを示すことにもある。
IIIでは,本書でいうところの居住権(Housing Rights)が丁寧に説明される。まずは,人権の内容における居住の問題が整理される。また一方で,オリンピック大会の原則のなかで居住に関する扱いを確認する。そして,そのオリンピック運動の原則が居住権を遵守しているかが確認されるが,もちろん近年のオリンピックでも(2020年東京大会を含め)立ち退きの事例はなくなっていないので,居住権は最優先事項とはされていない。
IVでは,1988年のソウル大会から,まだ準備期間であった2012年ロンドン大会まで,夏季オリンピックの事例が紹介される。COHREでは,これら7大会分の報告は別途出版されていて,ここではそれらに基づいて概要をまとめている。細かい内容までは忘れてしまったが,2020年の東京大会と比較的に通った状況なのはバルセロナ大会のようだ。ロンドンを始めとする多くの都市では,都心部のインナーシティのような地区の再開発をオリンピックという景気を利用して推進するということだが,バルセロナ,そして東京は湾岸地域の開発が中心となっている。アテネではロマ族のような少数民族,そして移動生活を基礎とする民族が立ち退きの対象となる。またホームレスは犯罪化とされる。これまで黙認していたホームレスを取り締まり,居住していた場所から排除するということだ。また,「美化」ということもあり,オリンピックはテレビ中継による放映により,その街が全世界的にまなざしの対象となるため,ホスト都市はそれに恥じないような風景を作り出す。その風景の汚点となるべき存在を取り除くというのが美化であり,それには古びた低所得者向け住居や路上生活者が排除の対象となる。
本書は実情の報告だけでなく,それに向けてどう対処したらよいのかのガイドラインを示すことがむしろ中心である。正直言って,これだけの調査に基づいて,具体的な方策を示しているのだから,これを利用しない理由が分からない。日本オリンピック委員会(JOC)はこの報告書の存在を知らないのであろうか。国際オリンピック委員会(IOC)は当然知っていて意図的に無視しているのだろうが,この団体COHREは何もIOCを批判したり,アンチ五輪を掲げているわけではない。基本的な人権を守るにはどうしたらよいのかを真摯に考え,提言しているにすぎない。こうした正統な声がなぜ政策に反映されないのか,不思議で仕方がない。

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