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領土・権威・諸権利

サスキア・サッセン著,伊藤 茂訳 2011. 『領土・権威・諸権利――グローバリゼーション・スタディーズの現在』明石書店,524p.5,800円.

 

最近,リスケーリングという言葉が一部で流行っている。サッセンの研究はようやく最近になって読み始めているが,本書はそうしたリスケーリング論で取り上げられることも多いので読むことにした。スケールの大きい本で大著であり,その途中に先日紹介した英文の報告書を読んだり,レポートの採点などもあり,読了するのに時間がかかってしまった。

1章 はじめに
1部 ナショナルなものの集合
 第2章 ナショナルなものの構成の際の領土・権威・諸権利
 第3章 帝国地理を基礎としたナショナルなポリティカルエコノミーの集合
2部 ナショナルなものの脱集合
 第4章 転回点――新たな組織化論理に向けて
 第5章 脱ナショナル化する国家のアジェンダと民営化される規範形成
 第6章 政治的メンバーシップをめぐる基本的テーマ――ナショナルな国家との今日の変化する関係
3部 グローバルなデジタル時代の集合
 第7章 デジタルネットワーク,国家の権威,政治
 第8章 混成的な時間-空間秩序の集合――理論化のための諸要素
 第9章 結論

サッセンの本にはいつも驚かされる。正直,『グローバル・シティ』を読んだ時には彼女のすごさをそれほど感じなかったのだが,冊数を重ねるごとにその関心の広さに感嘆してしまう。本書は,副題にあるようにグローバリゼーション研究における根本的な欠陥を指摘することを出発点としている。それは,グローバルとナショナルを対比させることの誤りである。
それを正すために,本書では歴史の再検討を含んでいる。参考文献にはアブー=ルゴドの『ヨーロッパ覇権以前』も含まれるが,都市研究も手掛けるアブー=ルゴドとサッセンは世界都市に関するシンポジウムでも顔を合わせており,親しいのかもしれない。そして,この本から影響を受けているのかもしれない。
第2章では,国民国家成立以前の中世における領土を考察するために,11-12世紀におけるフランスのカペー朝を検討している。私も地名研究で,日本の国内領土の政治的区分が,現在の一筆書き境界とその連続的空間へと移行する歴史的過程を詳細に知りたいと思っているのだが,サッセンの本章の目的はそれに近いのかもしれない。本書の一つのテーマが領土であり,他のテーマ権威と諸権利を主権にかかわるものだと解釈すれば,連続的領土を基礎とした主権国家を自明なものとしない手続きとして捉えることもできる。
続く第3章は「帝国地理」と題して,イギリスが議論される。この帝国は隣国のオランダやフランスと競合し,国内としてはスコットランドを併合する。もちろん,その競合はグローバルに展開する植民地をめぐってだ。本書前半ではウォーラーステインがかなり登場する。第3章の最後にはその植民地から登場したアメリカ合衆国の存在が議論される。
領土,権威,諸権利の三つ巴をTARと略し
議論は,能力(capabilities),転回点(tipping points),組織化論理(organizing logics)という三つ巴の観点から論じられる。転回点と題された第4章ではブレトンウッズ体制について議論されているが,残念ながら私の知識が足りず,追い付けない。ただし,これはサッセンのいうグローバリゼーションの大きな原動力である金融分野の基本であり,本書のその後の理解にも大きく影響する。第4章の終わりにつけられた付表がまた興味深い。私的にはこの「組織化論理」という観点が重要だと感じた。ナショナルなものを超えたグローバルなもの。それは国際組織であり,国際法である。国内においては,国家がつかさどっていた公的なものが私的なものに移行される。または私的なものを公的なものが取り締まる。付表で示されているのは,アメリカ合衆国における機密情報に関する事実だ。
ちなみに本書でよく使われる「集合」という言葉はassemblagesの訳で,原著では副題にも使用されている。第5章では法と経済の国内とグローバル,公的と私的の関係が議論される。第6章のタイトルでは「政治的メンバーシップ」とあるが,シティズンシップに関する議論が展開される。
第3部ではデジタル時代の話ということで,コンピュータネットワークの技術と国家との関係が論じられるが,よくあるグローバリゼーション論とやはり一線を画した興味深い議論になっている。そうした技術の肯定派でもなく一方的な批判派でもなく,サッセンの立場は複雑で捉えがたいが,そこにさらに金融に関する話が展開されるので,理解が追い付かないというのが正直なところ。しかし,まさにそのことがグローバル市場という私たちの身近でないところで規模で起こっている現象の本質だといえるのであろうか。冒頭にリスケーリングの話をしたが,この辺りでスケールに関する議論も展開されている。第9章ではありがたいことに,この大著のまとめがなされているが,まとめを読めば理解できるというわけでもない。ともかく,一読で理解できるような本ではないので,また機会を見つけ読み返すことにしよう。

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