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東京大都市圏におけるハウジング研究

久保倫子 2015. 東京大都市圏におけるハウジング研究――都心居住と郊外住宅地の衰退』古今書院,208p.3,500円.

 

2020年の東京オリンピックは湾岸地区を中心に施設が新設されることになっている。例えば選手村に関してはこれも公的な土地が極度な安価でオリンピックのために開発され,その後宅地に転用されるらしい。そんなことを理解するのに,東京大都市圏全体の不動産事情と,湾岸地区におけるマンション建設の動向を理解したいと思っている。そんな時に,本書の存在を知った。本書の著者はこれまでもよく名前を見ていたが,実際に論文をきちんと読んだことはなかった。しかし,コンスタントに論文を書いているし,本書のタイトルが,由井義通さんの『地理学におけるハウジング研究』を意識しているし,実際に由井さんと共著論文も書いているので,信頼できると思い,読み始めた。ちなみに,カバーの写真も東京湾岸部のタワーマンションから撮影された写真になっている。

 1章 序章
第1部 マンション居住の進展とその意義――水戸市中心部と幕張ベイタウンにおけるマンションの役割の分析から
 2章 日本における住宅市場の変化とマンション居住の浸透過程
 3章 東京都心部における1990年代以降のマンション供給の変化
 4章 水戸市中心部におけるマンション購入世帯の現住地選択に関する意思決定過程
 5章 幕張ベイタウンにおけるマンション購入世帯の現住地選択に関する意思決定過程
 6章 マンション購入世帯の現住地選択に関する意思決定過程からみたマンションの役割
第2部 郊外住宅地の衰退と持続可能性
 7章 郊外住宅地における居住環境の変化
 8章 成田ニュータウンにおけるミックス・ディベロップメントの実態
 9章 成田ニュータウンにおける地域社会の特性と住宅地の持続性
 10章 海外都市の居住環境に学ぶ――第2部の結びにかえて
 11章 結論――東京大都市圏における居住地域構造の変容に関するハウジング研究の成果と課題

しかし,2日の通勤電車で読み終えてしまい,けっきょく私の希望は果たせない読書だった。確かに3章では東京大都市圏全体のマンション供給について,地図とグラフで示されているが,これはその後の水戸,幕張,成田の位置付けをするための導入にすぎない。湾岸地区の細かい話など分からない。
ともかく,200ページ足らずの本で11章もあるので,各章は事例の紹介自体もコンパクトにされていて,考察という考察は各論でしかない。そもそも,本書における総論と各論は抽象度の問題ではなく,スケールの問題なのだ。読み終える頃に,やはりいい意味でも悪い意味でも筑波大学の地誌学の伝統の延長線上にある研究者だなと思うと,実際に結論部で地誌学の有効性を謳ったりしている。しかし,だからといって今この時代に地誌学を謳うことの意義や,その方法論について議論されているわけではない。
本人も「おわりに」で書いているが,著者の境遇を非常に羨ましく思うことが大きい読書だった。学振の研究員に関しては,私の時代よりも多くの人がなれるようになっているが,著者は若手向けの科研費をいくつも獲得していて,また共同研究者にも恵まれ,本書のように学会の助成で本を出版している。もちろん,それは本人の努力なしに獲得できるものではなく,私はそういう努力を避けてきたが,正直研究のために他人のお金を使ったことは,現在のオリンピック研究以外にはない。そういう意味でも,このような研究が社会的に要請されているものだといえるのだろうか。ちなみに,私も著者校正が苦手な人なので偉そうなことはいえないが,2箇所の誤植を発見。

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