« 経済的徴兵制をぶっ潰せ! | トップページ | アニメ作品2つ »

パリ:モダニティの首都

デヴィッド・ハーヴェイ著,大城直樹・遠城明雄訳 2017. 『パリ――モダニティの首都 新装版』青土社,441p.4,800円.

 

日本でも地理学の枠を超えて翻訳されている地理学者ハーヴェイの地理学者による翻訳本。原著は2003年であり,訳者による「新装版のためのあとがき」にもあるように,それ以降矢継ぎ早にハーヴェイは著作を出版し,その翻訳が日本でも続いている。一応地理学者として,『ポストモダニティの条件』までの翻訳されている著作は読んできたが,正直いつも斜に構えて読んでいた。近年の翻訳本もいくつか読んでいるが,自分の研究に直接活かすようなつもりでは読んでいない。しかし,本書には脱帽だった。この大著を翻訳した訳者にも頭が上がらない。そういう読書だった。

序章 断絶としてのモダニティ
Ⅰ 表象 パリ1830-1848
 第1章 モダニティの神話 バルザックのパリ
 第2章 政治的身体(政体)を夢見て 革命的政治とユートピアの企図1830-1848
Ⅱ 物質化 パリ1848-1870
 第3章 プロローグ
 第4章 空間関係の編成
 第5章 貨幣,信用,金融
 第6章 地代と地主階級
 第7章 国家
 第8章 抽象的かつ具体的な労働
 第9章 労働力の売買
 第10章 女性たちの状況
 第11章 労働力再生産
 第12章 大量消費・スペクタクル・余暇
 第13章 コミュニティと階級
 第14章 自然との関係
 第15章 科学と感情,モダニティと伝統
 第16章 レトリックと表象
 第17章 都市変容の地政学
Ⅲ コーダ
 第18章 サクレ=クールのバシリカの建設

第18章にあるサクレ=クールの歴史分析はもともと1978年に発表された論文で,翻訳もあったので知っていて,本書がそれ以降のハーヴェイによるパリの歴史研究であることは知っていた。もともとの本書の訳本は2006年に出ているが,評判がよく重版が続いたのだろうか,昨年新装版ということで,おそらく訳文にもいくらか手を入れて出版された。訳者の一人,大城氏と何気ない会話の中で,今回バルザックなども結構読んだよ,みたいな話を聞いていた。本書を読む前だったので,話半分で聞いていたが,おそらく前半で登場する表象分析の対象である作品群をきちんと読んだということだろう。
まあ,ともかく訳文が素晴らしく,ストレスのない読書だった。前半の表象分析はまさに日本でも1980年代に流行った文学作品を通して都市を読む的な方法論によく似ているが,ハーヴェイの思考には常にマルクスがいて,常にそこに戻ってくる点がかつての記号論的都市論とは大きく異なっている。前半の表象分析はバルザックを中心として,フロベールやボードレール,ボードレールを論じたベンヤミン(なお,周知のことだが,ベンヤミンには「パリ 19世紀の首都」という文章があり,本書のタイトルはそれを借りているといえる)などの作品分析を,ドーミエという風刺画家のイラストを挿入しながら展開される。
その表象分析から「Ⅱ 物質化」で実在としてのパリの歴史分析に移行する。物質化とか物質性というのはちょっと前の英語圏の地理学で流行ったいいまわしで,私はそのことに違和感を抱いているのだが,ハーヴェイのこの使い方は正統である。そもそも,物質(
material)という言葉は,マルクス主義がよって立つ唯物論(materialism)と深い関係があるはずで,物質というのは物体ではなく,マルクスの場合には経済というものと大きなかかわりがあると私は思っている。経済というのはもちろん物体としての貨幣を媒介とするものだが,近年における貨幣の電子化をいうまでもなく,経済の中心である貨幣を媒介とした売買というものは,生産や流通といったものほど物体を感じないが,それを含めての物質であり,唯物論なのだと思う。
前半では各章の冒頭に,バルザックやベンヤミンの引用がつけられていたが,第4章以降は必ずマルクスの引用から始まる。目次を読むだけでは,都市の構成要素を次々と論じているだけの印象だが,各章の接続が非常になめらかで,時間軸に沿うのではなく,パリの歴史が見事に物語化されている。オスマンによるパリの大改造の話はそこそこ知っていたが,本書は本人の思想を含めて周囲の評価,さまざまな人物の都市思想を明らかにすることで詳細な情報を読者に提供している。実際に何が起こったかということを知る前に,さまざまな人がこの都市をどうしたいのかという思想=表象が論じられているので,理解しやすい。いろいろ書きたいこともあるが,きりもないのでこの辺にしておこう。ともかく,本書は理想的な都市記述の姿だと思う。

|

« 経済的徴兵制をぶっ潰せ! | トップページ | アニメ作品2つ »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/218863/67096753

この記事へのトラックバック一覧です: パリ:モダニティの首都:

« 経済的徴兵制をぶっ潰せ! | トップページ | アニメ作品2つ »