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経済的徴兵制をぶっ潰せ!

雨宮処凛・入江公康・栗原 康・白井 聡・高橋若木・布施祐仁・マニュエル・ヤン 2017. 『経済的徴兵制をぶっ潰せ!――戦争と学生』岩波書店,93p.660円.

 

今年に入り,首都圏大学非常勤講師組合に加入しています。この存在を知ったのは,早稲田大学で非常勤講師を始めてから。非常勤講師用のポストに組合のチラシやらが入っていたのだ。労働契約法が改定され,有期雇用者が継続して5年間契約した場合に無期に転換するというやつだ。この法律ができ,早稲田大学は非常勤講師の継続契約の上限を5年とすることを決め,それに対してこの組合が戦いを挑み,勝利を勝ち取ったのだ。とはいえ,労働契約法改定後の契約は変わっていて,あくまでも無期契約に転換するのはそれ以前から勤めていた人であり,私は対象外である。
この話を書き始めると長くなるのでやめておくが,今年度初めてこの組合の総会に参加したのだ。その会場で販売していたのが本書。タイトルからするとなぜ,大学非常勤組合が本書と関わりがあるのか分からないが,本書は上に書いた,早稲田闘争による組合側の勝利を報告するために開催されたシンポジウムの記録だという。
「はじめに」の言葉が非常に印象的だ。大学の非常勤講師の処遇は非常に厳しいが,それにもまして近年は学生の立場が脅かされていて,その状況を放っておけないから,その改善を訴えるというのが,このシンポジウムの目的だという。

はじめに(大野英士)
序章 学費・奨学金が学生を食い殺す(入江公康)
第1章 戦争と学生のリアル(白井 聡)
第2章 しのび寄る「経済的徴兵制」(布施祐仁)
第3章 アメリカの大学と戦争と「条件なき大学」(マニュエル・ヤン)
第4章 最低賃金1500円運動から考える(高橋若木)
第5章 大学バカ一代――チクショウ!(栗原 康)
座談会 戦争法と経済的徴兵制にどう対峙するか
終章 究極の貧困ビジネス・戦争。(雨宮処凛)

本書は学術研究に携わる人たちによるものだが,決して,学術的な内容を有する報告ではない。とはいえ,その語り口は整然としていて説得的で,薄い本ながら非常に刺激的な読書だった。本書の論旨は明確である。現在,大学生は数十年前から数倍に跳ね上がった学費に追われ,約半数の学生が奨学金という名の借金を卒業時に背負わされる。在学中は学業をおろそかにせざるを得ずにアルバイトに時間を費やす。そのアルバイトはいわゆるブラック企業による搾取も含め,非正規雇用の最底辺を大学生たちが担っている,というもの。まあ,その辺りはよく知られていることではあるが,本書はその弱い立場に立たされた学生がどうするか,あるいは社会がそうした若者をターゲットに何をしているのか,というところを訴える。韓国や米国の事例から,そうした若者は徴兵の対象になるのだという。韓国は基本的に国家主導による,いわゆる徴兵制があるが,今日では国家による強制的な徴兵制まではできなくなる一方で,経済的な徴兵制が進んでいるのだという。つまり,経済的に将来を閉ざされた若者が,選択せざるを得ないものとしての軍隊への加入ということだ。日本においても,そうした若者をねらった自衛隊による勧誘が後を絶たない,という。
本書の議論で記憶に残ったことが2つあった。いずれも漠然とした議論で,その真偽は問われる内容ではあるが,感覚的には正しいようにも思う。一つは大学非常勤講師の給与体系の起源について。今日でも大学で非常勤講師をする人のなかには,本務校を持っていて,他の大学でも1,2コマを担当するという兼務という形がある。大学という企業はタイムカードなどで勤務時間を管理していなければ,就業規則にも何時から何時までが就業時間だという規定がないらしい。基本的に企業には就業時間があり,その就業時間内に他のアルバイトをするなんてもってのほかだ。給料の2重取得ということになる。しかし,大学の場合はそういうものがないので,平日の日中であろうと,堂々と本務校を抜け出し,別の大学で教えて給料をもらう。そういう具合だから,そもそもは給料というものではなく,謝礼金程度のものだったというのだ。まあ,本当のところは非常勤の起源がそういう兼務にあるかどうかはきちんと調べる必要があるが,納得させられてしまう記述だった。
2つ目は,学生が厳しい立場に立たされながらも,かつての学生運動のように,声を上げて運動をするような学生が少なくなっていることの理由を論じている箇所があった。大学生に限らず,近年の若者は,社会のなかで消費者としての振る舞いをするような教育(あるいは社会化)がなされているのだという。確かに,それは私にも当てはまる。保育園や幼稚園から小学校,中学校,義務教育であっても,行政サービスを受ける受益者としてのわたしたち。もちろん,高校以上になれば,教育サービスを提供する学校とその消費者である生徒・学生,その保護者。社会人になっても,社会に流通する商品の生産者という意識は乏しく,企業に労働力を提供するだけの,労働市場における消費者。いつだって,物事を決めるのは生産者側であり,消費者はせいぜいクレームをいれるだけ。自分たちの意思で物事の仕組みを変えることができるようなものだとは思いもしない。そういう社会のなかで成長した人間は,選挙権を持った主体としても,結局自分の投票権をどの政党に売却するのか,そんな視点になってしまうのであろう。恐ろしい世の中だ。

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