« 追悼,樹木希林 | トップページ | 中世とは何か »

君はオリンピックを見たか

天野恵一編 1998. 『君はオリンピックを見たか』社会評論社,230p.2,200円.

 

1964年の東京オリンピックをめぐっては探せばけっこう資料があるようだが,実はあまり手を付けていない。しかし,本書は出版年が1998年ということで,中古で格安だったこともあり,入手して読んでみた。本書は1998年に開催された長野オリンピック冬季大会に対する「長野冬季オリンピックに反対するネットワーク」という団体の作業から生まれたものでもあるという。その団体の代表者が第二部の執筆者であり,本書の3分の1は招致・計画段階の長野大会批判にあてられている。編者もそのメンバーであったが,それは「天皇制運動連絡会」という団体としての参加であるということで,いわゆる左翼系の現代社会批判を行っている知識人たちも執筆している(私が知っているのは池田氏と小倉氏ぐらいだが)。
ある意味でそんな偏ったものではあるが,そういう思想にも触れておきたいし,また,具体的なところでも得るところの多い読書だった。

第一部 誰のためのオリンピックか
 五輪神話の仕掛人とその背後関係(天野恵一)
 「動員」の構造――ナチのベルリン・オリンピック(池田浩士)
 オリンピック「動員」にどう対抗するか(岡崎 勝)
第二部 長野オリンピックのここが見所(江沢正雄)
 税金はどこに流れたのか
 メディアじかけの利権屋の祭典
 犬のフンとファシズムのはざまで
 こうして「聖火」が長野にやってくる
 [コラム]「天皇行事」のオリンピック 象徴天皇は“国家元首”か?(天野恵一)
第三部 東京の灯よサヨウナラ 天皇制と東京・札幌オリンピック
 リニューアルされた日の丸・天皇 シンボルが東京オリンピックで(野毛一起)
 大衆動員に使われた聖火 官僚の描いた日本地図の中心(小倉利丸)
 ナショナリズム形成のアイテム 重ね焼きされる皇族のパフォーマンス(浅見克彦)
 治安体制強化の口実として 国家イベントを支える自衛隊・警察(土方美雄)
 都市再活計画・1964・東京 垂直イメージにみる天皇制の陰影(高島直之)
 スポーツの無償性・映画の芸術性 映画「東京オリンピック」をめぐって(天野恵一)

まず,基本的に金にまみれたIOC(国際オリンピック委員会)を代表とするオリンピック関連組織を本書では「オリンピック・マフィア」と呼ぶのだが,そのような論調は既にあって,翻訳された書籍もいくつか紹介されている。例えば,シムソン, V.ジェニングズ,A.著,広瀬 隆訳 1992. 黒い輪――権力・金・クスリ オリンピックの内幕』光文社.という本だ。日本でもスポーツ記者による,石川泰司 1990. 『もう金メダルはいらない』河合出版.なる本があるようだ。まあ,この手の話は詳しくは知らないが,マスコミも好きな話だし,想定以上のものはない。1936年のベルリン・オリンピックもナチにうまく利用されたということはよく語られる。聖火リレーはこの大会で導入されたものだが,それがナチの侵攻ルートの事前調査になったとか,という話は少し眉唾物だが,そもそもオリンピックの理念とナチス・ドイツの政治的理念とは一致しないという議論はなかなか興味深い。
長野オリンピックの分析である第二部は資料が充実している。基本的には費用と財源に関する詳細だが,外国人取り締まりに関する資料は,2020東京大会でも作成したら面白い。また,第二部ではないが,長野大会時の子どもたちの「動員」についての岡崎氏の文章も興味深い。岡崎氏は実際に小学校の教員であり,大会が盛り上がっていることをアピールするために児童が動員された事実を訴えている。
第三部は1964東京大会を含めた内容で,著者たちの熱のこもった議論となっている。1964年大会に復帰前の沖縄が聖火リレーの国内(?)出発点に選ばれたという話は近年の論文もあるが,小倉氏の文章もかなり詳しいものだった。また,土方氏による五輪大会に対する自衛隊・警察の協力については,これまで私はほとんど考えておらず,刺激的だった。最近の都市研究の文脈におけるメガイベント研究の中心テーマである都市計画との関連についても触れられているし,市川 崑の映画に関する文章もあり,本書から学ぶことはなかなか多かった。

|

« 追悼,樹木希林 | トップページ | 中世とは何か »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/218863/67323710

この記事へのトラックバック一覧です: 君はオリンピックを見たか:

« 追悼,樹木希林 | トップページ | 中世とは何か »