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オリンピック,メガイベント関連文献(英語編3)

Gold, J. R. and Gold, M. M. (2008): Olympic Cities: Regeneration, City Rebranding and Changing Urban Agendas. Geography Compass 2 (1): 300-318.
http://www.umsl.edu/~naumannj/professional%20geography%20articles/Olympic%20Cities%20-%20Regeneration%2C%20City%20Rebranding%20and%20Changing%20Urban%20Agendas.pdf
同タイトルの編著書を持つゴールド夫妻ですが,2007年の初版を書いた後に,2012ロンドン大会についても書きたくなったのでしょうか,こんな論文があります(なお,編著書の方は2011年に第2版が,2016年に第3版が出されています)。とはいえ,副題にあるブランド化などテーマを絞って詳しく議論されているかと思いきや,全般的な話が中心で,最後に若干ロンドン大会を4年後に控えた状況などが報告されています。

 

Boykoff, J. (2011): Space Matters: The 2010 Winter Olympics and Its Discontents. Human Geography 4 (2): 48-60.
https://core.ac.uk/download/pdf/48845602.pdf
ボイコフは『反東京オリンピック宣言』にも『New Left Review』に2011年に掲載された「反オリンピック」という論文が訳出され,今年は彼の著書『オリンピック秘史』が出版され,日本でも注目されてきた,元プロサッカー選手という異色の社会学者。なお,本誌は「新たなラディカル雑誌」と銘打った『Antipode』を意識したように2008年に創刊されたようです(この論文を知るまで知らなかった)。ともかく,おそらく地理学者の要望に応えて寄稿したものだと思われますが,同じ年に発表された「反オリンピック」と同様に2010年にバンクーバー冬季大会の反オリンピック運動を取り上げ,特にこの論文では空間論を展開します。具体的にその運動の空間的な展開を分析するわけではなく,ルフェーヴルの空間の生産論やニール・スミスのスケール論などを参照して抽象的な空間論が展開されます。とはいえ,バンクーバーに関しては,先住民から奪った土地でオリンピックを行うことを反五輪運動家が告発し,空間的正義を主張します。各国を回る聖火リレーについても言及され,また反五輪活動家たちは国境を越えて,ソルトレイクシティからバンクーバーに集まるといいます。まあ,思っていた以上にボイコフの文章は洗練されていて読み応えがあります。

 

Kolotouchkina,O. (2018): Engaging Citizens in Sports Mega-events: The Participatory Strategic Approach of Tokyo 2020 Olympics. Communication & Society 31 (3): 45-58.
英語圏でも2020東京大会の研究が出てきました。ただ、掲載されている雑誌からも、都市研究ではないことは分かる。アブストラクトをざっと読むと、東京大会で行われている、マスコットを児童による投票で決めたということ、金メダルを携帯電話などの小型家電のリサイクルから作るということ、そして無償による大会ボランティアという試みをポジティブに評価するもので、あまり期待はせずに読み始めた。
しかし、前半のレビューではメガイベントの負の側面についてもきちんと目配せされている。その上で、この論文のアプローチは市民参加という観点であり、近年のグローバル化した都市における市民のあり方、また市民参加のあり方のオルタナティブを模索する目的であることが分かる。そうしたことについては、草の根からの市民運動が思い浮かぶが、それだけではなく、ある意味政治・経済権力主導のメガイベントをうまく利用して新しい市民参加のあり方を考えるというのは確かに重要だと思う。
もちろん、東京大会はまだ開催されていないので、この論文は開催以前の調査になる。文献調査にソーシャル・メディアのモニタリング、2017年に行われたオリンピックでの広告をめぐる国際会議などでの資料収集、東京オリンピック委員会や電通、ウェーバー・シャンドウィック(米国の広告代理店)の人物などに聞き取りを行っている。これはまだ入手出来ていないが、2016年にはKassens-Noorによる東京大会の論文が出ているようで、それによれば、東京大会では空間情報システムや次世代ロボット、インテリジェント交通システム、高精密度テレビ、長期進化技術、先進ビデオ解析など、技術的な挑戦が試みられるという。また、ジェンダーバランスやバリアフリーも謳っているらしい。
上で書いた、東京大会での市民参加の試みは大体知っている内容だが、改めてメダルの材料をリサイクルから得るという試みの進捗を調べたら、すでに銅メダルは100%、金が54.5%、銀が43.9%集まっているといいます。なかなかバカにできませんね。ちなみに、大会ボランティアについても、予定人数を超える応募があったという報道がありましたが、リオ大会では有償だったそうです。

 

Finlay, C. (2014): Beyond the Blue Fence: Inequalities and spatial Segregation in the Development of the London 2012 Olympic Media Event. Interactions: Studies in Communication & Culture 5: 199-214.
2012
年ロンドン大会が,ロンドンでも外国人労働者や貧困層の集住するイーストロンドンの再開発でメインスタジアムなどが建設されたという話は有名である。建設中は,内部が見えないように青いフェンスを立てるのは普通の措置だと思うが,このフェンスをめぐる抵抗運動を論じたのが本論文。ルフェーヴルの空間生産論を論拠としています。2つの事例が示されていて,1つ目の事例は政治的なものです。オリンピック関連の再開発地区であるイーストロンドンには該当する5つのバラ(Borough:イギリスの行政単位)がありますが,その区議会(?)議員に関する話で詳しくは忘れてしまいましたが,オリンピック準備中にかれらが作った名刺の分析をしています。こういう時に,かれらはどういう肩書で自らをアイデンティファイするのか。なお,その議員は再開発に伴う立ち退きの当事者だったそうです。
2
つ目の事例がその青いフェンスへの落書きです。落書きによる政治的抵抗についてはよく語られることですが,今回の場合はすぐに消されてしまうとのこと。しかし,ソーシャルネットワークの時代,すぐに消されてしまっても,それを撮影し,ネットで世界に拡散することで,その抵抗運動は新しい意味を獲得したという議論です。そこから新しい抵抗運動の形が作られ,ネットを介した不特定多数の運動主体が現れるという,結果的にロンドン大会に修正を迫るような大きな効果は見られなかったが,今後こうした抵抗運動の力はどんどん増していくという。ボイコフとは異なる形での反オリンピック運動の報告でした。

 

Munoz, F. (2006): Olympic Urbanism and Olympic Villages: Planning Strategies in Olympic Host Cities, London 1908 to London 2012. The Sociological Review 52 (s2), 175-183.
翻訳もされた『俗都市化』の著者である,スペインの地理学者ムニョスによるオリンピック研究論文。思いの外さっと読めました。難しい話は少なく,もっぱら選手村の歴史的事実と建築類型に関する議論です。選手村という観点からのオリンピック史というのはありそうでないですね。1932年のロサンゼルス大会では,テイラー主義,フォード主義の影響下で大量生産の住宅であったという。1936年のベルリン大会では合理主義の「快適さ,単純さ,清潔さ」が優先された。戦後の1960年代になると機能主義からラディカリズムへと移行する。高層のプレハブ住宅が登場します。1964年東京大会はメタボリズム建築家によるものだとされます。1970年代に入ると,オリンピック公園が都市のレジャー施設と化していく。1980年代にはポストモダンの影響下で,都市計画全体の文化的象徴として建築が用いられる。

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