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都市への権利

アンリ・ルフェーヴル著,森本和夫訳 1969. 『都市への権利』筑摩書房,221p.700円.Lefebvre, H. 1968. Le Droit à la Ville. Paris: Anthropos.

 

先日紹介したハーヴェイ『反乱する都市』もそうだが,近年「都市への権利」が流行っている。それはもちろん,原著が1968年に出版された本書を再読・再評価するということだが,地理学者のドン・ミッチェルも「都市への権利」をタイトルに含む著作を出版しているようだ。なんだかんだいって,皆さん流行りものが好きなんですね。本書は筑摩書店から出ていたこともあり,最近ちくま学芸文庫からも再販されたようです。ともかく,手元にある本書とルフェーヴル『都市革命』(原著1970年),ハーヴェイ『都市と社会的不平等』(原著1973年)を,原著が出版された順に再読してみよう。

まえがき
工業化と都市化 はじめの概観
哲学と都市
細分化された科学と都市現実
都市の哲学と都市計画イデオロギー
都市の特殊性 都市と作品
連続と非連続
現実と分析との諸水準
都市と田舎
危機的な点の周辺において
都市的形式について
スペクトル分析
都市への権利
展望か前望か
哲学の実現
都市,都市的なるもの,および都市計画についてのテーゼ

本書の冒頭に挑戦的なことが書かれている。本書は読者の皆さんがもっている頭の中の体系を破砕することを望んでいるのだと。しかし,前半ではけっこうオーソドックスなことが書かれている。「工業化と都市化」と題され,都市の発展の歴史が概観されるのだ。「危険な点の周辺において」の冒頭には「都市化の零」と「100%の都市化」との対比があり,また「都市と田舎」についても論じられている。それらによれば,現所的な人間の生活は農村的なもので,ギリシアのような政治都市ができ,商業都市があり,工業化が進むといった理解だ。住居に関しては田舎の基本的な一戸建てが都市では団地のような集合住宅になり,都市で生活を営みながら一戸建ての理想をかなえるために郊外化が進む,のような。ルフェーヴルの都市史の理解は非常にオーソドックスで,これだったら以前紹介したジェイコブズ『都市の原理』(原著1969年)の方がよっぽど私の体系を破砕した。「はじめに都市ありき」という発想の転換だ。
とはいえ,本書における常識の破砕に関しては,都市計画批判というところが大きい。といっても,私は本書より先に『都市革命』を読んだので,ルフェーヴルによる都市計画批判や「都市的なるもの」の議論はあまり新鮮ではなかったし,本書でこれほど議論されていたという記憶はなかった。ともかく,都市とは何かという定義が何度も何度も登場するのだ。
今回読み直して意外だったのは,本書がかなり「都市の記号学」的な議論を展開していることだ。ロラン・バルトの「記号学と都市の理論」は1971年の文章だし,イタロ・カルヴィーノの『見えない都市』は1972年だ。そういう意味では,本書における「都市は作品である」から始まる記号論的考察は先駆的なのかもしれない。また,ハーヴェイはルフェーヴルによる1970年前後の都市論の影響下で自身の「資本の都市化」という議論を構築していくわけだが,本書にはあまりマルクス主義的な考察や政治経済学的な考察は濃厚ではない。むしろ,「都市的なるもの」という概念も含め,記号論的な捉え方もどちらかといえば文化的な側面が強調される。ハーヴェイにおいて文化的な側面がとりこまれていくのは『ポストモダニティの条件』の1989年だから,その辺りのハーヴェイとルフェーヴルの関係はちょっと興味深い。まあ,すでにどこかで論じられてはいるだろうが。近年のルフェーヴル研究によれば,翻訳されていない『リズム分析』などという著書があるようだが,本書にもその片鱗を感じさせる記述もいくつかあるが,本書では「スペクトル分析」なる言葉が何度か登場する。
後半にようやく「都市への権利」と題された文章があるのだが,読み始めてもなかなか期待するような記述は見当たらず,終わりの3ページでようやく登場する。「都市への権利は,たんなる伝統的な諸都市への訪問あるいは回帰の権利として構想されることはできない。それは,変貌させられ,維新された都市生活への権利としてしか定式化されることはできない。出会いの場所であり,使用価値の優位性であり,諸々の財貨のなかの至高の財貨の位へと昇った時間の空間のなかへの刻み込みである《都市的なるもの》が,その形態学的土台,その実践的=感覚的実現を見出しさえするならば,都市の織り目が田舎とか農民生活から生き残っているものを締めつけるとしても,大したことではない」(pp.174-175)といった具合である。その後も何度かそれらしい文章は出てくるが,本書の中でこのテーマが深く掘り下げられると期待するのは難しい。むしろ,それだからこそ今日の研究者があれやこれや論じたくなるのかもしれない。

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