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オリンピック,メガイベント関連文献(英語編4)

Muller, M. and Stewart, A. (2016): Does Temporary Geographical Proximity Predict Learning?: Knowledge Dynamics in the Olympic Games, Regional Studies 50: 377-390.
またまたミュラーによる面白いオリンピック論文。今回はオリンピックメインではなく,経済地理学の新潮流である知識に関する議論がメインのような論文です。タイトルには近接性という語がありますが,そもそも地理学とは近接性を議論する学問で,経済地理学であれば企業の集積,すなわち経済主体が近接して立地することによって産業あるいは都市が発展するような議論があり,それが徐々にさまざまな技術によって分散しても成立するようになったりするという議論。そして,さまざまな遠隔的なコミュニケーション手段が発達してもやはり対面コミュニケーションが大事なんだといわれたり。ともかく,地図上で表現できる地理的近接性がまずあります。しかし,それは企業が近くに立地しているという永続的なものか,あるいは担当者が移動して面接するような臨時の近接性もあります。そうした人間の接触を通してさまざまな情報が流通するわけですが,単なる情報ではなくそれを「知識」と捉えます。この論文では,ミュラーが手掛けてきたオリンピックでのステークホルダーへのインタビューがデータとして用いられ,定量的な分析がなされています。オリンピックはスイスを本拠地とするIOCがあり,実際の開催に関しては各国のNOCがあり,現在では4年に一度,大陸をまたいで離散的な開催地で実施される大会です。通常は企業活動の売り上げや,特許取得などが知識の効果を測る指標になると思いますが,オリンピックの場合はこの辺りがはっきりとしません。正直なところ,前半の知識の経済地理学に関する議論は面白かったけど,後半のオリンピックの事例はよく理解できなかった。

 

Gaffney, C. 2016. Gentrification in pre-Olympic Rio de Janeiro. Urban Geography 37 (8): 1132-1153.
著者は2010年,2013年とリオ大会関係のオリンピック論文を持つ地理学者だが,2013年時点ではそれこそリオの大学の所属していた。それが,この論文では所属がチューリッヒ大学になっている。まさに,ここでも紹介しているミュラーの所属する大学だ。そして,この論文はタイトルからも分かるように,ジェントリフィケーションをテーマにしていて,この分野の研究者である,ロレッタ・リースやヒュン・バン・シンらに誘われてこの分野のセミナーで報告した内容のようだ。前半ではいわゆるジェントリフィケーション研究の基礎的知識が紹介され,リオデジャネイロの住宅市場の動態などが示される。そして,オリンピック関連の開発がなされる4地区を選定し,現地写真とともに開催前の状況が報告されている。ブラジルでは映画の『シティ・オブ・ゴッド』でも描かれる貧民窟「ファベーラ」というのが有名だが,Barra da Tijucaという地区では,2007年のパンアメリカン競技大会時に選手村の建設でファベーラが撤去され,2016年オリンピック大会の開催が2009年に決定すると,2010年には市当局が2012年までに撤去するファベーラの119に及ぶリストを公表する。実際の解体風景の写真や,オリンピック公園に建設中の建物の写真も掲載されている。「永続的なジェントリフィケーション」や「サブージェントリフィケーション」,「新築のジェントリフィケーション」など,これまでの研究で世界中で観察されたさまざまな種類のジェントリフィケーションがこの時期のリオでも観察されている。市政府は1990年代以降の新自由主義的な中央政府の戦略に追随し,その結果一連の主要な文化・スポーツ・イベントの獲得を目指している,という。

 

Miyoshi, K. and Sasaki, M. (2016): The Long-Term Impacts of the 1998 Nagano Winter Olympic Games on Economic and Labor Market Outcomes, Asian Economic Policy Review 11: 43-65.
愛知学院大学の三好向洋氏と大阪大学の佐々木 勝氏という2人の経済学者による1998年長野大会の長期的な経済効果の分析。ちなみにこの雑誌は日本経済研究センターが出しているもののようです。英文ではありますが,準日本的論文。ただ,方法について丁寧に説明されていてありがたい。とはいえ,私には難解な箇所もあり,正確にどのようなデータをどのように解析してその結果が出ているのかは分からない。結論からいえば,この論文で推計しているのは,長野オリンピックが開催されなかった場合の各指標の推移。それと実際の推移を比較することで,長野大会の経済効果を測定できる。その指標とは県民総生産(一般的にGRPと呼ぶと思うが,この論文では地域限定GDPのように読んでいる)と人口,地価,求人数。生産額に関しては,建設業とサービス業,不動産業を示している。地域区分としては,長野県とそれ以外の46都道府県,オリンピック関連施設は長野県北部に集中しているため,代表して長野市という単位でもいろいろやっているようだ。期間は1985年から2010年。多くの指標に関しては,明らかにオリンピックが正の効果をもたらしているが,建設業に関しては,2002年あたりで逆転する。長野での開催が決定した1991年から開催年までは建設業のピークがあるが,それ以降は下火になっていく。地価についても同様の傾向。求人倍率についてはあまり効果は見られない。

 

Andranovich, G. and Burbank, M. (2011): Contextualizing Olympic Legacies, Urban Geography 32: 823-844.
地理学の雑誌だが,政治科学部に属するアメリカの研究者2人によるオリンピック論文。私の知らなかった論文も含め,前半のレビューはよくまとめられていて勉強になります。IOCが本格的にレガシー=遺産ということを言い出したのはそんなに古い話ではありませんが,この論文ではIOCの言葉とは関係なくとらえています。以前から,オリンピックのような規模のスポーツイベントが開催されると,その時だけ使って,大会後は使われなくなってしまう施設が残るという話は以前から指摘・批判されてきました。そんな施設のことを「白い象」と呼んだりします(この論文ではこの言葉は出てきませんが)。都市再開発に巨額をつぎ込んだ例として,1964東京(97%!),1992バルセロナ(67%),2008北京(65%)などが挙げられています。研究者によるレガシーとの具体的な捉え方についても1984-2008年までに発表された7編の論文についてまとめています。
さて,本論文の本論は米国で開催された1984ロサンゼルス大会と2002ソルトレイクシティ大会のレガシーを分析することになっています。ロサンゼルス大会は商業的に成功した大会として有名で,これ以降テレビ放映権の高騰や,スポンサー企業による商業化などが加速します。しかし一方では,巨額の公的資金をつぎ込んで新しい施設を建設するということには歯止めをかけ,多少施設は分散するが既存の施設をうまく活用し,また当時は大学が利用されましたが,今後の利用を含めた私的企業による施設建設・運営ということが行われました。それが現在のロサンゼルスのスポーツ空間(施設同士のネットワーク)を形成しており,それが大きなレガシーだといいます。ただこの論文では,ロサンゼルスは2028年の開催が決定していますが,そこにいたる招致活動について説明されています。さて,ソルトレイクシティに関しては私はほとんど知識がなく,あまり理解ができませんでした。新聞記事の分析を中心にソルトレイクシティの知名度やユタ州との関係,施設の配置などの問題があるなかで招致運動を重ね,2002年の開催に至ったとのこと。レガシーとしてはソルトレイクシティの知名度向上などイメージの話が主のようです。ともかく,オリンピックのようなメガイベントはその経済効果が期待されていますが,それは「経済発展」というイデオロギーに支えられたものであるということを考えさせられる論文でした。レガシーに関しては日本のオリンピック研究でも比較的議論は盛んで,有形・無形のレガシーがあるということですが,経済的次元に捕らわれない捉え方への可能性がある概念ではあります。

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