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グローバル・シティー・リージョンズ

スコット, A. J.編,坂本秀和訳 2004. 『グローバル・シティー・リージョンズ――グローバル都市地域への理論と政策』ダイヤモンド社,365p.,4,800円.Scott, A. J. eds. 2001. Global City-Regions. Oxford: Oxford University Press.

 

本書の著者は地理学者である。世界都市をめぐる議論としては,同様に地理学者によって組織された会議の記録である,ノックス&テイラー『世界都市の論理』が1995年に出版され,日本語訳が地理学者も参加して鹿島出版会から1997年に出版されている。一方,本書は原著が2001年に出版され,翻訳家によりダイヤモンド社から2004年に出版されている。本書は『世界都市の論理』ほど明確に国際会議の体をなしているわけではないようだが,第2部は「グローバル都市地域学会」(p.32)での会議講演とされている。その登壇者は経営コンサルタントという肩書の大前研一,世界銀行総裁のウォルフェンソン,そしてカナダ・ケベック州知事のブシャールという面々なので,それなりの規模の大きい学術会議が開かれたと思われる。とはいえ,訳者あとがきもなく,詳しいところは分からない。会議自体は1999年に開催されたようす。

第1部 序論
 第1章 グローバル都市地域(スコット, A. J.・アグニュー, J.・ソージャ, E. W.・ストーパー, M.)
第2部 グローバリゼーションと都市地域の発展に関する実際的問題について:三者による本会議講演
 第2章 グローバル経済から地域に繁栄を呼び寄せるには(大前研一)
 第3章 世界銀行とグローバル都市地域:貧困層に手を差し伸べる(ウォルフェンソン, J. D.)
 第4章 グローバル都市地域の時代のケベック(ブシャール, L.)
第3部 グローバル都市地域は新しい地理的現象か?
 第5章 21世紀のグローバル都市地域(ホール, P.)
 第6章 グローバル都市とグローバル都市地域:その比較(サッセン, S.)
 第7章 グローバル都市地域の経済的役割と空間的矛盾:機能・認識・進化の側面から(カマーニ, R.)
 第8章 グローバル時代における都市間ネットワーク(フリードマン, J.)
第4部 グローバル都市地域の競争優位
 第9章 地域、そして競争の新しい経済学(ポーター, M. E.)
 第10章 北米の地域国家としてのオンタリオとグローバル都市地域としてのトロント:NAFTAの挑戦に応える(クーシェイン, T. J.)
第5部 アジアのグローバル都市地域:政治的、経済的課題
 第11章 都市間の競争と経済的弾力性の問題:グローバリゼーションとアジアの危機(ダグラス, M.)
 第12章 都市地域の地位再考:経済危機後の韓国(キム, W. B.)
第6部 グローバル都市地域の新たな集団秩序
 第13章 統治する都市と地域:グローバル時代における地域的再編(キーティング, M.)
 第14章 シリコンバレーの教訓:グローバル都市地域における統治(ヘントン, D.)
 第15章 地域の統治と対立の管理:ブラジルのクラスターから映し出されるもの(シュミッツ, H.)
第7部 結び:環境問題
 第16章 発展途上のグローバル都市地域における環境の持続可能性とサービス(パナトヨウ, T.)

第1章は米国の地理学者4人によって書かれているが,目新しいことは書いていない。本書はやはりこれまで提示されていた世界都市(world city)でも,グローバル・シティ(global city)でもなく,最後に「地域」とついているのが地理学者によるこだわりだと思うが,第1章にそれに関して突っ込んだ議論はない。なぜだか,第3部に入って一応地理学者ともいえると思うが,英国のホールや,グローバル・シティの提唱者サッセンが,この概念について議論をしている。それはまた詳しく見ることとして,第2部は各人によるそれほど長くない講演である。大前研一は当時出版された新著『新・資本論』の宣伝が中心で,タイトルに掲げられた問いには答えていない。それにしても,恐るべき自信家だ。第3章は,世界銀行の総裁ってそんなこともしてるんだ,という感じで世界各地の貧困地区を訪れ,話を聞いたということが報告されている。かれらは生きる力があり,「斬新な考え」(p.53)を持っており,少し手を差し伸べるだけでその能力を発揮するという。ケベック州知事の講演はとても短いが,それでもこれだけ教養のある知事を羨ましく思う。東京都知事も猪瀬や舛添など,教養人だったはずだが,その教養が都政に活かされていたとは思えない。
第3部では,まずフリードマン以前に「世界都市」概念を使っていたピーター・ホールによる第5章。フリードマン以降,ノックス&テイラー『世界都市の論理』,そしてテイラーらが参加したGaWCに続く研究に言及し,それらのデータを使いながら世界都市ランク的な話を展開し,21世紀の新しい都市の形態について論じています。第6章は『グローバル・シティ』のサスキア・サッセンが自分が論じたグローバル都市の考え方について整理しつつ,本書で提起されている「グローバル都市地域」という概念との比較をしている(のでしょうか?)。『グローバル・シティ』はロンドン,ニューヨーク,東京に関してさまざまなデータを用いてその類似性や彼女のグローバル都市の定義に合致することを根拠づけているが,一方でフリードマンが主張していたような都市間ネットワークという観点は希薄である。しかし,確かに当書では都市間競争よりも都市間の補間や協働という側面を強調していた気がする。本書で提起されるグローバル都市地域という考え方は,フリードマンの都市間ネットワークを含みつつも都市内ネットワークも包括する概念である。とはいえ,やはりサッセンは自分の議論が正しかったことを強調していますね。第7章のカマーニという人物はミラノ工科大学の教授ということですが,グローバル都市の認識論的側面,象徴的存在という議論が面白いです。特に,p.120に提示された図7.2は,グローバル都市の役割と題し,空間的論理を領土的アプローチとネットワーク・アプローチに,認識論的論理を機能的アプローチと象徴的アプローチに二分し,4つの象限に分類しています。タイトルにある「空間的矛盾」については通勤と不動産についてデータを示しながら論じていますが,イマイチ分からず。第8章にはフリードマンが登場します。彼は「都市地域」を「機能的に統合された地域という意味で使っている」(p.142)としています。そして「統治」という側面をここでは強調し,その主体が国家に限らず超国家的組織,また回国家的な自治体,都市政府などの役割を示しています。なぜか事例として「黄海地域共同区」の事例を挙げています。
本書の特徴は、都市の問題を都市単体としてではなく、地域としても捉えることにあり、そこに地理学者たちによるこだわりがあるのだと思う。とはいえ、地域という言葉は地理学者の専売特許ではないし、むしろ場所とか空間なども使う地理学者に対し、地域という言葉はコミュニティと置き換え可能な形で社会学者がこれまでよく使っていた概念でもある。なので、本書に寄稿した研究者はさまざまな分野の人のようだが、その辺りがこれまでの都市関係論集とは少し異なった特徴を有している。
第9章の著者マイケル・ポーターは翻訳書もある経済学者ということだ(『競争戦略論』ダイヤモンド社、1999年)。この章ではクラスターという概念を強調している。経済学者は都市間競争といっても、実際には都市に所在する企業間の競争にすぎない、と考えることも多い。しかし、著者はそれは企業単体ではなく、ある業種の企業であれば、その関連企業や下請け企業などが関連したクラスターを都市内で形成しているという。第10章の著者トマス・クーシェインはカナダの経済学者とのこと。この章ではトロントというカナダの都市を取り上げるが、カナダという連邦国家のなかの、オンタリオ州の州都ということで、オンタリオ州を地域国家ととらえ、トロントに関しても、行政上の都市としてだけでなく、グレーター・トロント・エリア(GTA)としても捉える必要がある。さらにアメリカ合衆国と五大湖を挟んで接しているこの地域においては、トロントという都市は、バッファローやデトロイトといった合衆国の都市との関連性が強い。ということで、単なる都市の経済だけでなく、さまざなま公的機関の政策が関わっている。
本書を含む近年の都市論の特徴は、数十年前のこうした議論は国際的といえども欧米中心であったが、欧米以外の地域を無視できない状況がある。本書の出版時点ではまだ中国の発展はまだまだだったが、第5部はアジアが取り上げられている。第11章の著者マイケル・ダグラスは日本研究者らしく,日本の話題がちょくちょく出てくる。とはいえ,この章は日本のみの話ではなく,東アジア,東南アジアについて,特に1990年代後半の経済危機について説明し,その後の復興を企業の合併・吸収を代表とする金融的戦略として示している。大阪がさまざまな巨大プロジェクトに手を出して危機に陥ったという話もあります(2008年のオリンピック招致も含む)。第12章は韓国の研究者による韓国の話題。
第6部に入って,統治の問題が議論される。第13章はよく覚えていないが,「制度分析」なるものが登場する。これは「近年における新たな流行としてもてはやされており」(p.291)とあるが,原語が示されておらず,何のことだか分からない。マニュエル・カステルのことも「キャステルス」などと表記されていて,少し翻訳に疑問が残る。第14章は米国シリコン・バレーの事例,第15章はブラジルの靴産業クラスターの事例で分かりやすい。第7部は最後の部だが,第16章のみで,しかも環境問題に特化していて本書のなかでは少し異質な感じ。とはいえ,途上国の都市発展に欠かせない話題であり,基本的な知識は提供してくれる。編者によるまとめもなく,訳者あとがきもない。少し尻切れトンボ感のある読書でした。

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