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オリンピック,メガイベント関連文献(英語編8)

Khakee, A. (2007): “From Olympic Village to Middle-class Waterfront Housing Project: Ethics in Stockholm’s Development Planning,” Planning, Practice & Research 22 (2): 235-251.
先に書くと,この論文はオリンピック研究とはいえない。タイトルにオリンピックとはあるが,間接的にしか関わっていない。ストックホルムは1912年に一度オリンピックの開催都市となっている。まあ,その頃の大会は規模が小さいのでレガシーなんてものはないのだろうけど,この論文には一切その記載はない。ストックホルムは2004年夏季大会の招致運動をしていたが,アテネに決まった。論文タイトルから理解されることは,招致段階に計画されたオリンピック村が,招致失敗に伴って中流階級のウォーターフロント住宅に変更されたということ。しかし,その具体的な経緯が検討されるのではなく,設計事務所や建設会社に属する5人に計画理念に関するインタビューをしている。オリンピック村として計画されていた敷地限定というよりは,その南ハンマビー地区に関する議論となっている。オリンピック村の計画時点では「世界で一番持続可能な街」という修辞を用いていたが,「都心と臨海を一緒に感じられる街」へと変更された。もちろん,IOC向けの美句と住宅市場の消費者向けの美句とは異なる。この論文では,そこの部分は確認されただけで,もっと抽象的な計画理念の検討が中心。人間,社会,民主主義,生態学的な倫理について,5人の計画者の回答を検討する。環境に対する配慮に関しては強く意識されているものの,社会的弱者の居住権やマイノリティに関する権利などの意識はまだ低いようです。なお,この論文では結局この地区がどのように整備されたかについての情報はありませんが,ウェブで調べると,日本語でも結構出てきますね。

 

Waitt, G. (1999): “Playing Games with Sydney: Marketing Sydney for the 2000 Olympics”, Urban Studies 36 (7): 1055-1077.
1999年という早い時期に発表された地理学者によるオリンピック研究。1990年代には「場所を売る」というテーマ(その後は場所のブランド化)でいくつか論集が出てたりして,ハーヴェイの場所論や都市の企業家主義政策などの議論に乗った論文。前半はちょっと古臭い議論が続き,都市間競争におけるシドニーという,シドニーという都市内の差異に言及しない,地理学的でない印象を受ける。この論文は実際にオリンピック大会が開催される前に発表されていることもあり,競技施設の配置などの詳細を検討するものではない。しかし,その招致活動で発信されたシドニーのイメージや大会コンセプトの検討は詳細で,地理学者らしい分析になっている。この大会で招致委員会は多文化主義政策をとっていたオーストラリアを売りにして,多様性を前面に押し出し,また豊かな自然というオーストラリア全体のイメージを活かしたグリーンな,環境に配慮した大会をアピールしている。しかし,実際は難民の受け入れも行っているオーストラリアであり,先住民や移民の問題は大都市シドニーにおいては深刻である。特に,2つの地区を取り上げ,ベトナム系移民の集住地区につけられた負のイメージなどを解説する。また,環境の問題についてもシドニー近郊の大気汚染や海洋汚染の実態について報告される。

 

Nauright, J. (2004): “Global Games: Culture, Political Economy and Sport in the Globalised World of the 21st Century,” Third World Quarterly 25 (7): 1325-1336.
先日紹介した雑誌Third World Quarterlyからもう一本。グローバル化の文脈でオリンピックを考えた時,2004年大会に立候補したヨハネスブルクの例があるが,今後第三世界での開催があり得るかどうか,招致運動の状況などを知ることができるかと思ったが,かなり一般的な議論だった。「スポーツ-メディア-観光複合体」(p.1326)という興味深い概念はあった。著者は南アフリカの研究をしているようで,ヨハネスブルクがアパルトヘイト後の南アフリカ共和国における観光および経済発展の助力として大規模なスポーツ・イベントを利用としたという説明はある。後半はスポーツのプロリーグの組織と機能が1980年代から1990年代にかけて変容し,メディア産業など別業種の参入により,グローバルな電脳空間上で展開するようになった,という議論になってしまった。

 

Ferguson, K., Hall, P., Holden, M. and Perl, A. (2011): “Introduction – Special Issue on the Urban Legacies of the Winter Olympics,” Urban Geography 32 (6): 761-766.
Urban Geographyによるオリンピック冬季大会の特集号巻頭言。2010年バンクーバー大会を前にして,「招致,計画,そして現実」という調査ワークショップを2009年7月に立ち上げたという。都市計画者や,過去の開催都市の委員長2人,バンクーバー芸術共同体のメンバー,地元のジャーナリストから成るものだった。2009年10月には「グローバル競技大会とローカルなレガシー」というタイトルのシンポジウムを開催し,カルガリー大会の開催当時の市長も呼んで,本号に収録された研究発表がなされたとのこと。この特集号は,冬季大会に関すると題していますが,そんなに限定はされてないようです。だいぶ前に紹介した,Andranovich and Burbank (2011)も収録論文ですし(1984年ロサンゼルス大会と2002年ソルトレイクシティ大会に関するもの)。そして一方ではIOCが本格的に「レガシー」概念を出してきたのが2010年からということで,それも大きなテーマとなっています。

 

Retchie, J. R. B. (1984): “Assessing the Impact of Hallmark Events: Conceptual and Research Issues,” Journal of Travel Research 23 (1): 2-11.
地理学者の友人が勤める大学にこの雑誌の所蔵があり,複写してもらってようやく入手。オリンピック研究は英語圏ではメガイベント研究の文脈でなされることが多い。メガイベント研究は以前,ホールマークイベント研究と呼ばれていたが,その代表的な理論的論文。1984年時点でかなりうまく整理されています。掲載雑誌がTourismではなくTravelだというのも時代を感じさせます。しかも,この著者リッチィはその1974年にも同じ雑誌に共著でホールマークイベントをタイトルに掲げる論文を書いています。
この論文の冒頭でホールマークイベントを以下のように定義しています。「期間限定の一度きり,あるいは繰り返し開催される大きなイベントであり,主として短期あるいは長期滞在の観光目的地を意識やアピール,収益性を高めるべく発展してきた。このようなイベントは,興味を創り出し,注意を惹くのに十分な固有性や優位性,時代的な重要性における成功に依っている。」(p.2)そして,イベントを以下の7つに分類します。1.世界博覧会,2.カーニバルや祭典,3.主要なスポーツイベント,4.文化・宗教イベント,5.歴史的な事件,6.商業的・農業的イベント,7.政治的要人の集まるイベント。しかも,それぞれに順位を与えています。次に,イベントが社会に与えるインパクトも6つに分類し,本文で詳しく解説されます。1.経済的,2.観光・商業的,3.物理的,4.社会文化的,5.心理的,6.政治的。これらは優先順位というより,これまでの研究で優先されてきた順番という感じでしょうか。そして,それぞれに対してそのインパクトを測定するにはどんなデータがあり,そのデータによってどんな指標が測定され,またデータ解釈時の問題などがそれぞれのインパクト分類において表にされています。タイトル通り,概念を分類するだけでなく,調査指針も示されており,さすが引用されることの多い文献です。

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