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オリンピック,メガイベント関連文献(英語編7)

Gratton, C. and Preuss, H. (2008): “Maximizing Olympic Impacts by Building Up Legacies”, The International Journal of the History of Sports 25 (14): 1922-1938.
以前から名前をよく見るPreuss氏の論文をようやく入手。レガシーキューブというのは先日紹介した川辺謙一『オリンピックと東京改造』で登場したのを初めて見たが,出典は示されていなかった。すると,この論文に全く同じ図版で登場します。こちらにも直接の出典は示されていないが,Cashmanという人の2000年シドニー大会に関する2005年の著作についての説明の中に出てくるので,こちらがオリジナルだろうか。あるいはもっと一般的に知られている図式だろうか。ともかく,「レガシー」なるものを計画的/偶発的,ポジティブ/ネガティブ,有形/無形という3次元で捉えようとするもの。この論文ではイベント前後の時期を5つに分け,「イベント構造」なるものを6つの項目で整理します。時期:1.着想と実行可能性,2.招致過程,3.建設とイベントの組織化,4.イベント開催,5.イベント・レガシー。項目:1.インフラストラクチュア,2.知識・技術開発・教育,3.イメージ,4.感情,5.ネットワーク,6.文化。この論文での事例研究はオリンピックではなく,2002年にマンチェスターで開催されたコモンウェルス大会です。都市開発の規模としてはオリンピックとそう大差はないが,グローバルな規模での報道などの発信としては比べ物にならない。最後の文章が興味深いので引用しましょう。「開催国政府はオリンピック大会を開催した場合の真のレガシー効果を真の意味での科学的に評価することを歓迎しない政治的立場がある。」(p.1933)

 

Olds, K. (1998): “Urban Mega-Events, Evictions and Housing Rights: The Canadian Case”, Current Issues in Tourism 1 (1): 2-46.
ようやく入手した論文。この雑誌のこの年次のものを所蔵する大学は2つしかなく,そのうち1大学には地理学者が在籍していたので,はじめましてのメールで依頼をしたところ,快諾してくれて入手。ありがたいです。著者のOldsはカナダの地理学者Leyとの共著で万国博覧会の論文があり,大学院時代に読んでいた。そんな彼がオリンピック関連の論文も書いていることを知ったのはCOHREの報告書を通じてであったが,その報告書が2007年であることを考えると,1998年の段階でこのテーマで書かれたこの論文はかなり先駆的だといえる。
本論文はオリンピックだけでなく,カナダで開催されたメガイベント,1986年のバンクーバー万博,1988年のカルガリー冬季オリンピック大会,そして1996年の夏季オリンピック大会はトロントが招致活動をしていて,これら3つのイベントを考察対象としている。
バンクーバーは2010年に冬季オリンピック大会が開催され,ボイコフの研究でも反オリンピック活動が盛んだった大会で知られる。1986年の万博における貧困層の立ち退きが激しかったということがこの論文で分かり,2010年につながっていくのだと理解できる。カナダも連邦国家だが,居住権に関する法律は州によって異なるようだ。バンクーバーの位置するブリティッシュコロンビア州と,カルガリーのあるアルバータ州とでは,アルバータ州の方が借主に厳しい。日本では賃貸住宅を想像するが,カナダではホテル住まいの人の話が多い。日本でいう日雇い労働者たちが住まう簡易宿泊所のようなものだろうか。でも,カルガリーの話では比較的高級なホテルの話も出てくる。ともかく,ダウンタウンではホテルに常住している人たちが多いのだろうか。メガイベントの決定によって家賃が一時的に上げられたり,観光客のためにリノベーションするという理由で追い出したりということがなされたようだ。会場近くにある大学ではイベント開催に協力していて,その一環として学生住居を選手や観光客のために一時的に利用するなどということもあったようだ。ともかく,バンクーバー万博とカルガリーオリンピックで立ち退きにあった人は多かった。そのこともあり,トロントでオリンピック招致活動が始まってからは反対運動が激しくなり,結果的に招致は失敗に終わったという話。しかし,2010年には再びバンクーバーでオリンピックが開催されてしまい,この頃の教訓は活かされなかったのだろうか。

 

Armenakyan, A., O’Reilly, N., Heslop, L., Nadeau, J. and Lu, I. R. R. (2016): “It’s All About My Team: Mega–Sport Events and Consumer Attitudes in a Time Series Approach,” Journal of Sport Management 30: 597-614.

この論文は2010年バンクーバー大会を事例に,カナダ人543人,アメリカ人247人にアンケートを取った調査。それぞれのナショナル・チームにどんな期待をするかということを,開催2か月前,開催初日,閉会式直後,終了2か月後の4時点で測定したもの。オリンピック研究では,住民や開催国民の意識調査はなされているが,アスリートとの関連についてはなされていないということと,これまでは開催前後の2時点の実施が多かったが,それを4時点にしたというのが新しいところ。しかし,全般的にこの研究はオリンピックがどうかというところよりも,イベントの経過によって意識がどう変わるかということを心理学的統計学的に明らかにすることに重点が置かれていて,統計学的な操作にあてられた説明が多い。結果としては,文化・社会的な類似性を有する2国民であっても,統計学的に有意な差がある。冬季大会はアメリカよりもカナダが強いが,メダルへの期待はアメリカ国民の方が圧倒的に強い。また,時系列的には大会が進行するにつれて期待度は高まっていき,終了後は下がるという傾向がある。

 

Edelson, N. (2011): “Inclusivity as an Olympic Event at the 2010 Vancouver Winter Games”, Urban Geography 32 (6): 804-822.
Urban Geography誌はこの号でオリンピック冬季大会の特集を組んでいる。そのなかでも,読むのはまだ1本目だが,この論文の著者は計画コンサルタント業者のようだが,学術文献だけでなく非常に多くの資料に精通していて素晴らしい論文。私も土木コンサルタント会社で働いているが,日本の企業にも見習ってほしい。そして,バンクーバーについてはこれまでもいくつか論文を読んできたが,この論文で2010年冬季大会の見方も随分変わった。こんな要約では語りつくせない非常に充実した論文である。Oldsの論文で確認したように,バンクーバーは1986年に万博を開催し,その時は多くの立ち退きがあった。その後,1988年のカルガリー冬季大会,1996年のトロント大会への招致失敗と経験を積んできた経緯もあり,メガ・イベント開催に関わる居住権の問題や社会的弱者の権利などに市民が敏感になっている。オリンピックのようなイベントはカナダ連邦政府,ブリティッシュコロンビア州,バンクーバー市という3つのレベルの政府の関りがある。そして居住関係やインフラについてもそれぞれの関わり方がある。それを踏まえて,オリンピック招致活動が始まる前後にバンクーバーに登場したさまざまな団体が概観される。それぞれの団体はいくつかの調査を行ったりしてさまざまな報告書が公表されている。そうした団体は市民団体だけではなく,各政府が関わるものもあり,また直接オリンピックへの関与を謳った団体もある。各団体はオリンピックに向けてさまざまな活動を行ってきた結果,招致委員会が提出した立候補ファイルでは,高度なインクルーシヴに関わる目標が提示され,それが開催決定につながった一つの要因でもある。しかし,最終的な開催計画はやはりかなり透明性の悪い状態で決定したとのこと。とはいえ,各種団体はそこで落胆せずに活動を続ける。この論文で非常に印象的だった記述は,警察や軍隊を監視する団体だ。メガ・イベントの際によく行われるのがホームレスなどの一時的な排除だ。警察権力を用いて強制的に行われる。そういうことがないように,市民団体は警察を監視する。政府はホームレスの一時保護施設を作ったりし,ともかく社会的弱者への暴力だけは認めないという市民一丸となった闘いは功を制したようです。とはいえ,開催都市全体としての変容はやむを得ず,結果的にホームレスの数は1.5倍に増えたとのこと。またインフラに関しても,市民生活に要求される東西の連絡鉄道よりも,空港から市街への南北アクセスが優先されて整備されるなど,オリンピックの弊害は無ではなかった。

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