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日本の原子力外交

武田 悠 2018. 『日本の原子力外交――資源小国70年の苦闘』中央公論新社,298p.1,600円.

今年度の非常勤先の講義は,日本地図を用いて広く浅く日本の多様性を知るというテーマでやっている。以前,ここでも紹介したスコシマロ『地図で見る日本ハンドブック』(2018年,原書房)を活用して。政治地理学分野に関して,この本には日本の植民地侵略,日本における自衛隊・米軍基地,そして原子力発電所に関する分布図があり,これを活用して講義をしている。植民地に関する地理学的研究は少なくないし,米軍基地などについては山﨑孝史さんの研究,そして松山 薫さんの研究もあるが,原子力発電所に関してはさっと読めるものが手元になかった。NIMBY関連ということでは新井智一さんの研究があるが。ということで,早速非常勤先の図書館で原子力発電所関係の本を探し,分量的に多くない本書を手に取った。スコシマロの本に掲載された地図は微妙にカラーなので,白黒印刷すると見にくくなってしまうことが多いが,本書には同じような地図が白黒で掲載されていたのでちょうどよい。

序章 国際政治と日本の原子力外交
1章 原子力の導入へ――194564
2章 平和利用への一本化――196470
3章 インド核実験の衝撃――197076
4章 迷走のアメリカ,日欧の説得――197682
5章 相次ぐ事故と日米協定の改定――198292
6章 冷戦崩壊後の積極的関与――19922011
7章 311以後の混乱――201117
終章 日本に課せられた役割

原発関係の本は福島第一原発の事故以降かなり多いが,本書はそこも含みつつ日本への導入から論じられており,また原発専門家ではなく,日米外交の専門家ということでなんとなく面白そうだなと思い選択した。本書によれば,国際政治という観点から日本の原子力発電開発を論じたものはこれまでほとんどないという。もちろん,日本には非核三原則があり,自衛隊はあるものの表立って軍力を持たないことになっているから,発電利用とはいえ原子力が自国での開発であるはずがない。日本も戦後に高度経済成長を遂げ,先進国の仲間入りを果たしたわけだが,原子力開発に関しては他国への依存と協力があったことは想像に難くない。とはいえ,日本における原子力の導入の基本的知識を得たいのはもちろんだが,本当のところは日本各地への原子力発電所が立地されていく過程を知りたいのが地理学者としての本音だったが,そういう側面は本書から全く知識は得られなかった。
さて,世界で唯一実戦で核兵器を使用した国である米国が核の平和利用についても指導的役割を担っていたことは理解しやすい。そしてその核兵器利用の対象国であった日本だが,米国の同盟国であることもあり,戦後間もない時期から日本でも核の平和利用が導入される。米国で原子力発電が成功するのが1951年だというのに,日本では1954年に突如国会で原子力発電に関する予算が決定し,ここから日本における原子力発電導入が進んでいく。自衛隊関係の論文を読んだ時にも登場したが,後に総理大臣になる中曽根康弘氏がそのキーパーソンだということだ。日本で初めての原子力発電に関する研究所が立地し,発電所もできることになる茨城県東海村に関しては詳しい研究論文も読んだが,法整備に先んじて施設建設が行われていく,かなり強引なやり方で開発を急いでいたようだ。それはそれとして,本書が強調しているのは,米国の思惑と日本の思惑。もちろん,影では日本でも核兵器開発なんてことが噂されるのであろうが,本書では基本的に学術的な立場を貫いているので,公的文書を基礎として,日本は原子力の平和利用が中心であったとされる。それに対し,核資源および核技術を世界各国に提供する米国は,その軍事利用を徹底的に監視する役割を自らに強いていることが語られる。国際原子力機関(IAEA)が発足するのが1957年だが,米国は個別に二国間協定を結ぶことで,各国に規制をかける。
日本で核開発が成功するのが1966年で商業利用の発電がおこなわれるようになるのが1970年らしい(?)が,目次にもあるように,インドが核実験を行うのが1974年。中国はそれに先んじて1964年に核実験を成功させている。中国は米国との協定外でソ連からの提供だが,インドは平和利用で提供を受けた核資源・技術を軍事利用したということで,大きな衝撃となる。さて,日本では核技術が進展する。核資源は石油などとは異なり,次々と消費するものではなく,1度に利用されるのは数%ということで,使用済みの燃料から再利用する技術があれば,一度入手した資源をもとに他国への供給をできるようになる。ということで,日本は核資源輸入国から輸出国へと移行する。東芝,日立,三菱といった企業が原子力産業を担い,冷戦後にはロシアとの技術協定を進めたりもする。
そして,2011311日。福島第一原子力発電所の事故は世界にも大きな影響を与え,この後,ドイツ,イタリア,スイスといった国は脱原発を宣言する。もちろん,日本でも脱原発の動きは非常に大きく続いているが,著者の立場としては,日本の脱原発に関しては課題が非常に多いという。確かに,全国の原発の再稼働のニュースを見ていても,単に反対運動の強さだけでは,米軍基地と同じように,それをなかったことにすることはとても難しいのだなと感じる。

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