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オリンピックと万博

暮沢剛巳 2018. 『オリンピックと万博――巨大イベントのデザイン史』筑摩書房,270p.860円.

著者の暮沢さんは以前から著書を何冊か読んでいる,現代美術研究者。彼がオリンピック本を書いているということで読むことにした。ちなみに,本書は「ちくま新書」の1冊。それ自体は驚くべきことではない。いろんな分野に手を出して,どれも一定の水準でまとめてしまうところが彼のすごいところ。1964年オリンピックに関して,代々木体育館を設計した丹下健三やポスターをデザインした亀倉雄策については,すでにほかの文章で読んでいるが,万博との関係,そして2020年大会の話など,知っておきたい。

はじめに
1章 世界デザイン会議から東京オリンピックと大阪万博へ
2章 「国民的」建築家――丹下健三
3章 グラフィック・デザインという戦略――亀倉雄策
4章 デザイン・ポリシーによる統率――勝見勝
5章 原子力の1960年代――岡本太郎
6章 マルチプロジェクション――観客から群衆へ
7章 万博パビリオン――「日本館」の系譜
8章 デザイン・コンペ――東京オリンピック2020エンブレムと新国立競技場

本書はデザインの観点から,オリンピックでいえば1940年の返上した大会と1964年夏季大会,そして2020年東京大会とを,そしてオリンピックと万博とを連続的に考えようとするもの。1964年東京オリンピックと1970年大阪万博とはもちろん独立したメガ・イベントだが,返上して中止になった1940年はそもそもオリンピックと博覧会とを同じ東京で開催する計画だった。1940年の博覧会は確か,国際博覧会条約に基づいたものではなかった気がしますが,本書では当時発行された万博の入場券がデザインの観点から提示されています。そして,この万博は中止ではなく延期されたとのことで,この入場券は1970年大阪万博,そしてなんと2005年愛知万博でも使用されたとのこと。
1章のタイトルにあるように,本書でまず強調されるのが,1960年に開催された「世界デザイン会議」。デザインというカタカナ言葉が日本に導入されるのは戦後で,美術学校における図案科からデザイン科への名称変更,各種協会や専門誌の創刊などが1950年代に集中し,この会議をもって日本に「デザイン」という言葉が浸透したという。この会議の実行委員には第2章で論じられる建築家の丹下健三,そして民芸の柳 宗理も含まれていた。デザインに関する抽象的な議論が展開されたというこの会議の実験場とされたのが東京オリンピックと大阪万博だといいます。第2章の主役,建築家の丹下健三は戦時下に2つのコンペで1等を受賞し,戦後にもいくつかの公共建築を設計し,1950年代には代表的な地位を獲得していたという。1964年東京大会で施設特別委員会の委員長を務めていた岸田日出刀は1940年大会でメインスタジアムを設計した人物だったというが,1940年は幻となり,メインスタジアムではないが,1964年の室内競技場の設計者として,岸田の東大時代の教え子であった丹下を指名したという。丹下は,この設計を吊り屋根という画期的な工法で実現し,今日まで残るいわゆる代々木体育館を作ったわけだが,このデザインに至るまでの経緯も,本書では丁寧にたどっている。こうした傑作は決して一人の手で成し遂げられるわけではない。そして,丹下は1970年大阪万博では会場の全体的な基本計画に関わることになる。第3章は1964年東京大会のエンブレムをデザインした亀倉雄策に関する章だが,彼に関しては,すでに清水 諭編『オリンピック・スタディーズ』に収録された前村文博「日の丸とモダン――’64東京大会シンボルマークとポスターをめぐって」を読んでいた。本書では亀倉の日本工房との関り,また彼が立ち上げた日本宣伝美術会などより広い文脈が示され,そして先述した1960年世界デザイン会議からの連続として1964年オリンピックが論じられる。第4章で登場する勝見 勝は1964年オリンピックをデザインという立場から統率した人物の話で,これももちろん一人の功績ではないが,若いデザイナーを多用してデザイン的に統率された初めてのオリンピック大会として強調されている。なお,大阪万博についてはこうした統率がうまく機能しなかったという。第5章は岡本太郎と1970年大阪万博の話だが,岡本太郎もすでに1964年オリンピックにメダルのデザインとして参加している。そして,丹下健三が設計した旧都庁舎の壁画を担当するなど,丹下との関りが示されます。そして,全体の基本計画をしていた丹下の下で,岡本は太陽の塔が建てられる「お祭り広場」のプロデューサーという立場となる。この広場は巨大な屋根でおおわれる計画だったが,太陽の党はこの屋根の真ん中に穴をあけて,そこから顔を出すという斬新なデザインだった。第5章のタイトルには「原子力」とあるが,万博の開幕日に敦賀原発が稼働し,その電力が万博で利用されたという。岡本の作品が原子力から大きなインスピレーションを受けているという解釈や,大阪万博での原爆関連展示の話などはあるが,岡本自身が,そして万博自体が原発に対して危機感を持ったアンチの立場なのか,希望の未来エネルギーといった楽観的な立場なのか,はっきりは論じられていない。第6章と第7章は大阪万博以降の万博も含めた万博の話。どうやら,著者が本書を書こうとした動機の大きな一つは万博への興味らしい。ということで,むしろオリンピックに関心のある私としてはこの2つの章は割愛します。
そして,第8章が2020年東京大会をめぐるもので,これはよく知られているエンブレムと新国立競技場の白紙撤回問題です。概要は多くの人の知るところだが,詳しく年表なども付けてくれて記録しているところがありがたいです。知ったつもりになると,どんどん記憶の彼方に追いやられてしまい,後で整理するのも一苦労したりします。そして,本書ではこの問題を新しい問題としてではなく,デザインをめぐる問題として日本ではかつてからあったと指摘しています。

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