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オリンピック,メガイベント関連文献(英語編12)

Silver, J. J., Meltis, Z. A. and Vadi, P. (2012): Complex Context: Aboriginal Participation in Hosting the
Vancouver 2010 Winter Olympic and Paralympic Games,
Leisure Studies 31 (3): 291-308.
カナダと英国の地理学者3人によるオリンピック論文。第一著者の博士論文の一部のようです。まず,面白いのが著者に関する説明で,3人とも先住民(ここではAboriginalではなく,Indigeniousが使われています)ではなく先住民からの視点ではない,ということを断っている。そして,オリンピックに関しても楽しむ派で,自国の選手を応援するという。2010年バンクーバー大会については以前も紹介したボイコフが反オリンピック運動について研究しているし,O
Bonsawin2010)は先住民との関りについて批判的に論じている。しかし,本論文はその一方で評価できる取組みを紹介している。バンクーバー大会の組織委員会(VANOC)は招致の段階から先住民たちとの協同を計画しており,カナダに4つある代表的な先住地区である,LilwatMusqueamSquamishTsleil-Waututhからなる4つのホスト先住民協会(FHFN)が組織される(ここではFirst Nationです)。バンクーバーのあるブリティッシュ・コロンビア州における先住民との関りの歴史も概観されます。日本におけるアイヌと同様に,植民者と先住民との関係は交易から始まったようですね。それが徐々に不均等になり,搾取的になっていき,最後に政治権力による抑圧という過程も日本と似ています。法律の制定は日本よりはましのようですが,バンクーバー大会に関しては,先住民の土地の一部が会場となり,反対運動も起きます。しかし,この論文で強調されるのは,両者の対立ではなく,VANOCFHFNの協力です。
FHFN
が公式に作成した先住民たちがオリンピックで果たす役割に関する議定書に同意し,各地区の代表が署名した。これに対して,VANOCFHFNの代表同士も署名し,主に芸術と起業に関する事業が開始する。オリンピック主要施設に隣接して先住民の作品が展示される。作品をライセンス化し,商標化することで起業活動と結び付けていく。大会中には,FHFNのパビリオンが設置され,世界中からの先住民シンガーやダンサーがパフォーマンスをしていた,バンクーバー国際空港でも北米の先住民芸術を収集・展示を行っている。バンクーバー市もお金を出し,オリパラ芸術プログラムを実施したという。結論では,こうしたVANOCFHFNの共同が,場合によってはオリンピック開催側と先住民たちの緊張や不平等な権力関係などを覆い隠してしまうことになるが,この論文の著者たちは2010年バンクーバー大会の物質的なレガシーと位置付けたいという。今後もこういう機会に先住民たちが自らの権利や自己定義の目的を訴え続けることになればと願っている。

Robson, G. 2016. Multiculturalism
and the 2020 Tokyo Olympics,
Journal of Tourism
Studies
(東洋大学観光学研究) 15: 51-59.
雑誌は東洋大学の紀要,著者は東洋大学国際地域学部の教員ということで,著者が外国人である以外は日本の論文といってよい。内容的にもまあ,お粗末です。冒頭で日本の観光政策を概観し,さらには国際化から国際交流,異文化交流などといった日本における大衆レベルの多文化主義概念の浸透を一般化し,英語教育についても述べる。23区で外国人の多い足立区と台東区を例に,ウェブサイトの多国語表記がどうなっているとか,そんなこと。2020年東京オリンピックを機に外国人(観光客も移住者も)に開かれた国になってほしいみたいな。

Muller, M. (2014): The
Topological Multiplicities of Power: The Limits of Governing the Olympics,

Economic Geography 9 (3):
321-339.
すでに何本も紹介しているスイスの地理学者ミュラーのオリンピック論文。2016年の共著論文でも知識の経済地理学の文脈で,自らのオリンピック研究を活用するという論文がありましたが,今回も同様に知識のネットワークの経済地理学という感じでしょうか。ラトゥールのアクター・ネットワーク理論に依拠した議論をしています。この論文で用いられているのは,ラトゥールの『社会的なものを組み直す』で提示された「オリゴプティコン」です。この本はまだ読んでいませんが,目次にも登場し,「パノプティコンからオリゴプティコンへ」となっており,フーコーの有名な概念パノプティコン=一望監視と対比される概念なので,多望監視という感じでしょうか。そこから,ミュラーは論文のタイトルにもある「権力の地勢学的複雑性」を引き出します。
この論文でも,2016年の共著論文と同様に,オリンピック大会を開催するための知識がIOCを中心に4年ごとに開催都市を巡回するということを分析しようとするものです。2016年の共著論文でも,オリンピック大会における知識の伝達には対面コミュニケーションよりも文書によるものが多いとされていましたが,この論文でもそこが強調されています。まず,1980年代までIOCは,大会開催に対して財政的な人材的な支援をほとんどしていなかったという。1980年代から1990年代になるとIOCは権力となる資源を集めるようになります。権力とは企業や国家,都市といった特定の主体の能力であり,資源を管理する基礎となります。2000年代に入るともう少し具体的な事例が示され,例えば,2000年シドニー大会では組織委員会が作成した文書が電子ファイルで38,000,紙のファイルや写真,ビデオの類の記録が120,000に及ぶといいます。しかし,これらはIOCの自由にできるものでなく,IOCは当時の価格で250万米ドルで購入したとのこと。ただ,例えば2008年北京大会で作成された文書のほとんどは中国語で,他大会には参考にならないということもある。2012年になるとIOCは「技術的マニュアル」なる,数百ページにも及ぶ30ものマニュアルからなるものを作成する。これによって,IOCは階層的なネットワークを形成することができるようになります。2014年ソチ大会では,「技術的マニュアル」がロシア語に翻訳され,バイブルのように扱われたという。このマニュアル作成によってIOCは各大会組織委員会に向けたプログラムを実施したり,知識伝達のリストを作成したり,その役割を持つ職員を派遣したりと,権力を強めているという。遠隔操作による権力の行使。その一方で,フェイスブックを中心に情報交換をする小集団の「オリンピック・ジプシー」と呼ばれる人たちもいるようです。書かれた文書よりもそうしたウェブを使ったコミュニケーションや対面を重視するといいますが,具体的にどう人たちなのかは分かりません。また,「技術的マニュアル」があるからといって大会運営に対してIOCが圧倒的な権力を掌握しているわけでもないようです。まさに,アクターネットワーク理論が主張するように,人間だけでない他のものもアクターとして結ばれる複雑なネットワークがあり,4年に一度,場所をかえて,開催主体をかえながら,滞りなく開催されるこの奇妙なイベントがいかにして継続していくのか,非常に興味深いことは確かです。

Alberts, H. C. (2011): The Reuse of
Sports Facilities After the Winter Olympic Games,
Focus
on Geography
54 (1): 24-32.
著者の所属も書いていないし,この雑誌も地理学に属していながらよく知らないが,ともかく地理学らしいオリンピック研究。冬季大会における大会後の施設利用については,私たちの研究グループでも目白大学の山口 晋君が取り組んでいますが,バンクーバー,カルガリー,ソルトレイクシティといった北米の開催地についての検討をしています。よくある話ではありますが,冬季大会における競技施設の特徴が整理されています。冬季大会では開催都市とは少し離れた場所にスキーの滑降などの屋外競技場が配置される。ボブスレーなど高度に特化した施設。再利用の難しいスポーツ施設,都市計画の目標と位置付けるには難しい。環境への影響が大きい。再利用としてはオリンピック以外の国際大会の開催地となることが理想ですが,なかなかそうはいかないのが現状。カルガリーは訓練施設,および観光施設としてうまく再利用している事例として紹介されています。ボブスレーやルージュは室内練習場とし,全体として「カナダ・オリンピック公園」として整備しているそうです。園内にはミニゴルフやバンジージャンプのトランポリン版のようなリクリエーション施設を設置し,結婚式や企業の組織研修なども行われている。スキーのジャンプ場はスプラッシュ付きのプールになるなど,工夫が凝らされています。基本的には事例の紹介ですね。

Sullivan, C. and Leeds, M. A. (2016): Will the Games Pay? An Event Analysis of the 2020 Summer Olympics Announcement
on Stock Markets in Japan, Spain, and Turley,
Applied Economics Letters 23 (12): 880-883.
経済学にイベント分析という手法があるそうです。それを用いて,2020年大会の開催都市の決定日前後10日間ずつの株式取引市場の状況を分析しています。開催が決まった東京だけでなく,スペインのマドリード,トルコのイスタンブールについても分析しており,日本とスペインはほとんど影響はなかったとしています。トルコについては統計学的に有意な傾向を確認していますが,ちょうどこの時期に国内で政治的な抗議活動があり,それが負の影響を及ぼしたとしています。非常に短い論文。

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