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サッカースタジアムと都市

ベイル, J.著,池田 勝・土肥 隆・高見 彰訳 1997. 『サッカースタジアムと都市』体育施設出版,323p.2,500円.Bale, J. 1993. Sports, Space and the City. London and New
York: Routledge.

オリンピック関係の日本語文献を読んでいて,たまたま参考文献に載っていて知った一冊。著者は英国の地理学者だが,ただ一人「スポーツ地理学」を訴えていて,院生時代から知っていた。本書はまさしく私が院生時代に原著が出ていたが,おそらく私の所属していた大学の図書館には入っていなかったと思う。ベイルに関して日本の地理学で言及しているのは,おそらく福田珠己さんの『経済地理学年報』に載ったジョギング論文だけだと思う。この本訳書を知っている日本の地理学者はどれだけいるのだろうか。まあ,出版社も出版社なので,何部発行されているのか。ともかく,入手できてよかった。

1章 序文:スポーツ,サッカー,都市
2章 スタジアムの変容
3章 近代スタジアム景観の矛盾
4章 スタジアムと場の存在感
5章 迷惑な土曜日のサッカー試合――サッカー公害
6章 本拠地選定と移転問題
7章 解釈と今後の展望

1993年の出版ということで,時代的な雰囲気がよく出ているが,スポーツ地理学の一冊とはいえ,当時の英語圏地理学の状況が色濃く反映されている。サッカーとスタジアムをめぐる議論だが,一冊丸ごと地理学的なテーマで貫かれているのはさすがとしかいいようがない。まずは第2章でサッカースタジアムの変容の歴史が概観される。『アルコールと酔っぱらいの地理学』でも,英国において,サッカーは庶民のスポーツで,ラグビーは上流階級のそれであるということを知ったが,サッカーはそれこそ,平地とボールがあれば成立するスポーツで,かつては遊戯といってもいいのかもしれない。それが,選手と観客とがまず分けられ,観客もスタジアムの内外に境界が設けられ,区別される。サッカーというスポーツが近代化を遂げる過程で,建造物としてのスタジアムがその役割を果たす。地理学者レルフの景観論を頼りに,建造物としての近代化を論じ,『文明化の過程』の著者であるエリアスがダニングとの共著『スポーツと文明化』によってサッカーの近代化を論じ,近代的なものとして成立したサッカースタジアムをフーコーの「一望監視」論で捉える。
本書で「場の存在感」と訳されているのは「sense of place」だが,レルフのみならず,トゥアンも登場し,ファンの場所愛が論じられる。サッカースタジアム内部の観戦者の分布から階級を論じ,都市内のサッカースタジアムの立地で都市構造を論じる。サッカーおよびスタジアムをめぐる人々の区分はもちろん階級だけでなく,ファンとそれ以外,ファンはホームとアウェイ,熱心なファンとそうでないファンなどに区分される。フーリンガンなどファンによる迷惑港によって,スタジアム自体が時には迷惑施設(NIMBY)とみなされ,マンチェスター・ユナイテッドにいたっては,英国全土に広がるサポーター・クラブの立地図までもが示される。この辺りまではある程度想定できる研究だが,私の想定外で面白かったのは,本拠地移転の問題。英国のサッカーリーグ所属クラブの本拠地移転は,179件確認されていて,それの累積度数グラフを1865年から作成しているのだ。そして,特に多いのが1900年を境とした前後10年間で,多くのクラブが移転している。スタジアム内部空間,都市内空間とスケールが上がっていき,ここにきて都市間スケールにまで達する。そして,それは場所愛というか,クラブチームへの愛着と密接に関係していることは地理学者でなくても分かる。そして,本書はレルフやトゥアンだけではなく,ハーヴェイもかなりの頻度で登場する。さらにいえば,グレゴリーやフィロ,スリフト,シブレイ,レイなど多くの地理学者が登場する。まあ,それはともかく,ハーヴェイに関しては1980年代後半の都市論が取り上げられ,サッカースタジアムの建設,移転,誘致,経営などが企業経営としてよりもむしろ都市政策,都市経営の観点から分析される。さすがに,訳文にはいくつか問題はあるが,それは本書を訳していない地理学者の怠惰であって,むしろ本書を訳したスポーツ研究者の勇気を讃えたい。また,本書には図版も多く,難解な議論はないものの,的確な文献参照で,論拠も示され,説得的に論が展開されている。今からでも遅くないから,書評などで多くの地理学者に知ってほしい本だ。

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