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アーバン・ツーリズム

クリストファー・ロー著,内藤嘉昭訳 1997. 『アーバン・ツーリズム』現代文芸社,328p.3,800円.Law, C. M. 1993.
Urban Tourism: Attracting Vistors to Large Cities. London: Mansell.

私が大学院時代に突如登場した人物が訳者。地理学の場合,多くの研究者のデビューは卒業論文や修士論文を学術雑誌に掲載し,所属が「〇〇大学・院」などと表記される。この内藤さんが学会誌に登場したのはもっぱら「書評」コーナー。英語圏の観光関係の書籍を次々と紹介する。書評の場合には所属が示されず,最後に(内藤嘉昭)と記されるだけ。本書も確か書評で紹介されていたと思うが,その後翻訳・出版された。

序文
1章 はじめに
2章 都市の現況
3章 都市観光戦略
4章 コンファレンスと展示会
5章 都市アトラクション
6章 文化,スポーツ,特別イベント
7章 二次的要素:ホテル,ショッピング,イブニング・アクティビティ
8章 環境と計画
9章 組織と資金
10章 都市における観光の影響評価
11章 総括,問題点並びに今後の展望

なぜ,この本を今更読む気になったかは,私の最近の読書傾向と目次とを照らし合わせれば分かりますが,第6章にスポーツとイベントが含まれているからです。そう,思いのほかオリンピック論文で本書への言及が多いのです。実際に冒頭を読んでみると,1993年という時期に都市を観光の対象と捉える視点はあまりなかったようです。すでに,社会学者のジョン・アーリによる『観光のまなざし』は原著が1990年ですし,翻訳も1995年に出ていますので,本書・訳書にも言及があります。しかし,主な対象はいわゆる観光地なんですね。そういう意味でも,本書はかなり先駆的な本だったようです。
そういう意味でも読んでいて面白いのは第1章で,観光客自身も,旅行に出かけるといえばいわゆる観光地で都市を対象としていません。とはいえ,圧倒的に多くの旅行者を集めているのは世界的な大都市であり,都市を利用している多くの人はそれを自ら「観光」や「旅行」と捉えていないということです。私は会社で航空流動の統計データなどをよく扱いますが,旅行目的という項目が観光,業務,私用と3区分されているのが普通で,仕事での移動もやはり旅行なんですよね。もちろん,宿泊を伴わない日帰りもそうであり,そういう意味ではいわゆる理念としての観光を想定していたのがこれまでの観光研究であり(ある意味では,観光研究の古典として知られる,ブーアスティン,マッカネル,アーリという人たちの研究は本書の立場からは批判されても良い),本書は実態に即して,研究対象を拡張しているといえます。まさに,本書と同時期に始まった私自身の都市研究も都市観光という意味付けを与えると,小難しい位置付けをする必要はなくなります。とはいえ,実際には研究者の捉え方とは別に,都市政策においてはすでに多くの大都市が観光政策に移行していたので,研究者の見方が現実に追い付いていなかったともいえます。そういう意味でも,本書でも言及されているハーヴェイ(引用されているのは1989年の『The Urban Experience』です)の見方は一歩先を行っているんですね。
ともかく,本書はそういう意味で既成概念にとらわれず,都市で起こっている状況を網羅的に捉えようとするものです。それは目次からも分かると思います。そういう意味では,あまり刺激的な読書体験ではなく,非常に堅実なものです。しかし,日本では考えられないような類の統計データがいくつも示されていて,やはりけっこう欧米では面白い調査がなされているんだなと感心します。欧米核都市の地図も多く掲載されていて,分かりやすい本です。オリンピックに関しても通り一遍の説明がなされています。ともかく,勉強になる本。

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