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オリンピック,メガイベント関連文献(英語編18)

Allen, J. and Cochrane, A. (2014): "The Urban Unbound: London's Politics and the 2012 Olympic Games," International Journal of Urban and Regional Research 38 (5): 1609-1624.
オリンピックに関連する都市再生事業には民間企業を含め、さまざまな組織が関わっているため、オリンピックの効果は都市内で収まるものではなく、境界を越えていく、ということが主題のようだ。2012年ロンドン・オリンピック大会を事例としながらも、具体的な説明と同じくらい、学術的な議論が展開されているため、なかなか論旨がつかみにくい。ハーヴェイやマッシィのような地理学者による場所論を用いながらも、コックスのスケールや領域性の議論も展開している。オリンピック開発に関わるさまざまな組織について説明がある。米国ワシントンのアナコスティア川のウォーターフロント再生事業を手掛けた人物や、シドニーのオリンピック公園開発に携わった人物などが、イースト・ロンドンのオリンピック開発に関わっているという。なお、このオーストラリアの会社レンドリース(Lend Lease)は日本法人もあるらしい。
http://www.lljpn.com/index.html
イースト・ロンドンでは住民の転居が行われ、選手村建設のために住居は取り壊された。その選手村は、カタール資本の不動産に売却される。こうした事例は近年の場所論で説明される。アッシュ・アミンの議論も登場するが、領域的な場所ではなく、政治的影響力が移動可能な形式のネットワークとして、結びつきの政治という状況を呈する。バスケットボールのトレーニングセンターはODAOlympic Delivery Authority)によってレイトン湿地に計画され、「レイトン湿地を救う」という団体が反対キャンペーンを行っている。他にも芸術を用いた抵抗運動が行われていたようです。また、アートを中心とした活動も、オリンピック開催時期に実践されていたようです。とはいえ、アンチ五輪という運動というよりは、オリンピックとともに日常生活を送るというようなメッセージのようです。Wikipediaで調べると1996年に設立された市民団体「London Citizens(現在はCitizens UKに改称)」の活動も紹介されています。この団体はODAとの取り決めで、契約者には労働者に対してロンドン生活水準賃金(LLW)を約束させた。また、この団体が活動支援をしているイースト・ロンドン土地トラストという団体も設立し、イングランドで初めての都市共同体の土地トラスト組織だという。まあ、そんな感じで2012年ロンドン大会をめぐっては、開催側もさまざまな組織をアウトソーシングして、また草の根市民グループもいくつかあり、交渉を行うことで自らの権利を主張している。そうした組織・団体はさまざまな規模で、ルーツを持ち、領域的な行政区画の政策に限定されない、スケール横断的な政治が行われる。

 

Ivester, S. (2017): "Removal, Resistance and the Right to the Olympic City: The Case of Vila Autodromo in Rio de Janeiro," Journal of Urban Affairs 39 (7): 970-985.
米国の社会学者による、2016年リオデジャネイロ大会のファベーラの移転を扱った論文。タイトルにあるように、ルフェーヴルの「都市への権利」概念を中心とする考察。とはいえ、ルフェーヴル自体の文献は引用がなく、近年の地理学・社会学の文献を参照しています。私はちょっと前にルフェーヴルの『都市への権利』を読み直し、またハーヴェイによる「都市への権利」論が掲載された『反乱する都市』も読んでみたが、正直言ってこの概念は理解できていない。しかし、この論文では非常に分かりやすくこの概念を定義している。つまり、「都市生活を楽しむ権利、この権利の定義において空間の使用の重要性を強調すること。この権利の基礎と表現としての自己管理」、また「都市への権利は都市居住者の二つの原則的な権利、すなわち参加participationの権利と専有appropriationの権利を含むように洗練される」(p.972)とある。こんな常識的な定義がルフェーヴルのいわんとすることなのだろうか。とはいえ、リオデジャネイロ大会に関する議論は非常に興味深い。中盤では反オリンピック運動の事例がいくつか紹介される。そして、リオデジャネイロの説明に入るが、数あるファベーラのうち、この論文ではヴィラ・アウトドローモが選ばれている。まずは、ここの歴史が概観される。市の西部、ちょっと内陸に入るが、湖畔にある地区。この地区を含むバーハ・デ・チジューカという地域は、1980年代から中流階級のための高層住宅が建設され、レジャー施設や商業施設が開発され、2000年から2010年の間にも人口は倍増している。一方で、低所得者向けの住宅は無視され、低所得者たちは未利用地に勝手に自らのコミュニティを建設した。当初、この地域の建設に関わる労働者も含む低所得者たちは、長距離をバスによって通勤していたが、そのうち近くに住み着くようになり、その後家族を呼び寄せる。ヴィラ・アウトドローモは湖岸にあり、1970年にはF1のサーキットが建設されるが、その周囲に作られたファベーラである。建設労働者やブラジル北部からの移住者によるコミュニティが建設される。元々は湖の漁民たちによるコミュニティがあり、それは1987年に組織化され、コミュニティ内には自動車修理工場やバー、大工、美容室、小さなレストランなどもあった。リオの他のファベーラとはかなり異なっている。1980年代にはこの辺りに音楽フェスを開催する「Rock in Rio」なる施設もあり、にぎわっていたという。1993年からは段階的にこのファベーラの撤去が進み、2007年のパンアメリカン大会、そして2016年にはオリンピック公園として開発されるようになる。住民の組合は市役所の前で抗議活動をするなどし始める。2009年には新しい市長がヴィラ・アウトドローモを含む123のファベーラを撤去することを決める。行政は英国の建築会社にオリンピック公園の設計を委託する。2010年になると、ヴィラ・アウトドローモの地区はメディア・センターとオリンピック・トレーニング・センターになると説明される。その行政による計画(city's plan)に対抗するように、住民たちは近隣の大学の専門家に依頼し、民衆の計画(Popular Plan)を作成する。それによれば、市の計画が全世帯の移住を要求するのに対し、500世帯が残留し、82世帯だけの移住によって成立するという。移住にかかる費用に関しても、市の計画が1世帯当たり63,000レアル(約216万円)であるのに対し、民衆の計画では500万レアルと80倍の金額が試算される。この計画は英国やドイツの大学で受賞し、賞金も得ている。その賞金の一部を住民の声を伝える報道に用いたという。結局、この計画は採用されず、移転を強いられた住民には以前より狭い住居が与えられ、コミュニティは分断された。ほとんどが移転したとはいえ,在留した20世帯については建て替えられた新しい住宅が同じ地で提供された。元々500世帯がひしめき合っていた土地に50戸の住宅である(30世帯はどこから来たのかは不明)。

 

Fussey, P. (2015): "Command, Control and Contestation: Negotiating Security at the London 2012 Olympics," Geographical Journal 181 (3): 212-223.
Fusseyは以前紹介したCoaffeeとともに、ゴールド夫妻『オリンピック都市』に「セキュリティ」を執筆している社会学者。この号の『Geographical Journal』は「メガ・イベントのセキュリティ化」という特集を組んでいる。Coaffeeと同様に2012年ロンドン大会を扱っていている。民族学的調査と40人のセキュリティ専門家に対する半構造インタビューと20人のセキュリティ計画者への追加インタビューから構成される。主に、フーコーの議論に依拠しているが、なかなかすっきりと理解できない。ロンドン大会直前の反対運動と逮捕者の事実がいくつか示される。オリンピック村建設に伴って破壊されたクレイズ・レーン地区の住民や、以前にも別の文献で出てきたバスケットボール・トレーニングセンターの開発地となった湿地における「レイトン湿地を守る」などの活動家、開会式前日の182人のサイクリストが参加した「クリティカル・マス」(自転車を使ったデモ行進のようなもの?)でも大量の逮捕者が出たとのこと。アディダスの低金銀労働に抗議するためのメッセージを集合住宅の壁に投影したりと、さまざまな反対運動が展開され、警察がそれらを取り締まる。オリンピックのセキュリティをカフカの『城』になぞらえて、何が起こるか分からないものに最大限の備えをすることの愚かしさが示されます。
主要なターミナル駅から競技施設までの「グレー空間」についても論じられます。ターミナル駅や空港などはイベントでなくても警備対象で、イベント施設はまたそうですが、その間をつなぐ経路でもセキュリティは重要ですね。と、ここまでわかったように書いていますが、正直言って久し振りに知らない単語の多かった論文。最後にはG4Sという民間の警備会社(といっても日本の警備会社を想像してはいけないかもしれません。最近は軍事的なものまで民間委託される時代ですから)の不備について書かれているが、詳細は不明。ただ、「ほとんどの警備員はオリンピックにはかかわりたくないといっている」(p.221)という従業員のインタビューはなんとなく納得。結論でも書かれていますが、「警備と監視の実践は、場所の偶有性に形付けられ、また形付ける」(p.222)というように、状況によって要求される警備の量や質が、契約後に変更されるようだ。

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