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オリンピック,メガイベント関連文献(翻訳論文編2)

ボイコフ, J.著,鈴木直文訳(2016):反オリンピック,(所収 小笠原博毅・山本敦久編『反東京オリンピック宣言』航思社:133-156).Boykoff, J. (2011b): “The Anti-Olympics,” New Left Review 67: 41-59.
ボイコフの文章で初めて読んだもの。再読しました。2010年バンクーバー大会の話ですが,冒頭ではオリンピックのために作られた特別条例に講義するサイトスペシフィックアートが紹介されています。この条例はなんと,オリンピックの祝祭的雰囲気に反するプラカード,ポスター,横断幕を禁止するものだという。「国際オリンピック委員会(IOC)は多国籍企業ともグローバル機関ともつかない存在になっていて,国家機関,国際機関,各スポーツ連盟,スポンサー企業の結合した巨大な構造のど真ん中に腰を据える」(p.135)という。クーベルタンを社会進化論者だといい,差別的発言を引用する。IOC会長だったブランテージは「シカゴの不動産王」(p.136),サマランチはファランヘ党員であり,フランコ主義者だという。バンクーバー大会では,多くの反オリンピック運動が起きた。この論文で挙げられているものはオリンピックのみに反対している団体とは限らないが,「ノーゲームズ2010連合No Games 2010 Coalition」「コミュニティへのインパクト連合Impact on Community Coalition」「誰も違法ではないNo One Is Illegal」「反貧困委員会Anti-Poverty Committee」「正義の流れStreams of Justice」「女性の力グループPower of Women Group」「盗まれたネイティブの土地でオリンピックを許すなNo 2010 Olympics on Stolen Native Land」「ヴァン・アクト!Van.Act!」「ネイティブ若者運動Native Youth Movement」,こうした団体が「オリンピック抵抗ネットワークOlympic Resistance Network」を形成したという。抵抗の対義語は支配だから,抵抗された主催者側は支配者然としなければならない。ということで,かれらを取り締まる警備体制が強化される。『ファイブ・リング・サーカス』といえば,トムリンソンとファネルによる翻訳された著書ですが,同じタイトルの著書を持つオリンピック批評家,クリストファー・ショーがしつこい嫌がらせを受けたことが記されています。反対運動の面白い事例として写真付きで説明されているのは「オリンピック・テント村」です。やはり活動の拠点があるのは大きい。先ほどの「反貧困委員会」はかなり過激なデモを行ったようで,こちらも写真付きで紹介されていますが,こうした支配-抵抗関係の抵抗側の複数の活動団体が連合を組む時の注意点も論じられています。お互い立場も主張も違うわけですが,やはり仲違いをしてはいけません。また,バンクーバーでは反対運動のなかからメディア自体も生まれ,メディアを通じた活動というのも面白い。

 

コーエン, P.著,小美濃 彰・友常 勉訳(2016):ありがとう,でももう結構―オリンピック協約の贈与と負債―,(所収 小笠原博毅・山本敦久編『反東京オリンピック宣言』航思社:162-210).Cohen, P. (2013): “Thanks But No Thanks: Gift and Debt in the Olympic Compact,” In Choen, P. : On the Wrong Side of the Track?: East London and the Past Olympics, London: Lawrence and Wishart.
訳者による解説によると,著者は文化地理学者だという。残念ながら,私は知らない。この文章は『トラックの裏側?』というタイトルの著書の1章だという。かなりの分量で,内容的にもあまり地理学者らしくはない。人類学者マルセル・モースをはじめとする贈与論の観点から,2012年ロンドン大会を素材にオリンピックに関して議論したもの。冒頭に,2012年大会の開催都市がロンドンに決定した際の組織委員(招致委員?)が発した言葉が「ありがとう,ロンドン」であったというのが,タイトルの由来。オリンピック競技大会の主催者側がその開催都市の住民に対して例を言う。このことの意味を深く問い詰める論文。オリンピック大会の招致競争において,開催都市の住民の支持率が大きな影響力を持つとはよく言われるが,支持してくれたことに対する礼ということが一つある。支持率に応えるべく主催者側は素晴らしい大会(祝祭)を市民に提供する。こうした象徴交換や,実際に税金を費やして開催するこの祝祭によって,雇用創出などの経済効果をもたらすといえば,実際の貨幣交換が行われる。そして,それだけではなく,ここで問われるのが「モラル・エコノミー」だという。「対等な者同士の相互的な贈与関係」であり,「双方に負債を生じさせて友好や協約を固める」(p.165)ことだという。中盤ではボランティアの話もあります。ボランティアの精神とはもともとはキリスト教の施しの精神と類似したものだという。施しとは感謝するものにしか与えられないという指摘が非常に興味深い。イスラームの聖典コーランにも「施しは貧民のみ,それ以外は交換である」(p.177)とあるらしい。「贈与交換と慣習的なコミュニズムのモラル・エコノミーが,今日の資本主義とその債務危機を救済するために動員される」(p.179)。新自由主義化した現在の「グリーン資本主義,倫理的な経営文化の展開,企業の社会的責任の明記,厚生経済など」において,「商品があたかも贈与品のように取り扱われ,贈与品が商品のように扱われる」(p.180)。オリンピックで叫ばれる「レガシー」は相続として論じられる。相続とは血のつながりだけで与えられる贈与だが,良く知られるように相続をめぐってさまざまな問題が生じる。遺産の相続だけでなく,負債も相続されるのはオリンピックと一緒だ。終盤でようやく2020年ロンドン大会の分析に入っていく。まずは市場イデオロギーについて。競争原理の資本主義経済はオリンピック競技大会で戦われる「勝者がすべて」という規範と価値観の参照モデルになっているという。2012年大会では,レガシー評価委員会なるものも設置して,大会後のレガシーを評価している。それに関しては,日本では金子氏による研究があり,また阿部 潔もレガシーとは偶有性がなせる業であり,それを事前に計画することは意味がないといっているが,この論文でも同様にレガシー評価の無意味さを指摘する。ともかく,読み直してみるとなかなか本質的な議論が多く,この文章が収録された本自体を読む必要を感じた。

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