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オリンピックのすべて

パリ―, J.・ギルギノフ, V.著,桝本直文訳・著(2008):『オリンピックのすべて――古代の理念から現代の諸問題まで』大修館書店,399p.2,500円.

 

本書も先日紹介した『オリンピック教育』とともに、最近存在を知った訳本。日本のオリンピック研究者としては有名な桝本直文が訳している。そして、ただ訳しているだけではなく、日本の状況である第4章と、自らの専門である映画に関する第13章を書き足しているのだ。「訳著者あとがき」には「原著の章と差し替えてある」(p.387)と書かれているが、原著からどの章が除かれることになったかは書かれていない。

序章
1章 オリンピズムという理念
2章 古代のオリンピック
3章 近代オリンピック競技大会の復興
4章 日本のオリンピック・ムーブメント(桝本直文)
5章 オリンピックとメディア
6章 オリンピック・マーケティング
7章 オリンピック大会の経済的・環境的インパクト
8章 オリンピック大会の開催
9章 オリンピック大会の政治学
10章 スポーツの倫理とオリンピズム
11章 薬物とオリンピック
12章 スポーツ、芸術、オリンピック
13章 オリンピックと映画(桝本直文)
14章 パラリンピック
15章 オリンピック教育――オリンピックの祝福

本書はこれまで私が読んだなかでなかった内容がいくつか含まれている。まずは、古代オリンピックについて。オリンピアの遺跡は、1766年に英国人が発見し、1829年にフランスの考古学者たちが訪れたとされ、本格的に発掘調査が始まったのは1875年だという。その調査に基づき、紀元前に行われていた古代オリンピックの内容が解説されている。私的には特に興味はないが。
4章は訳者の桝本氏による日本の事情についての説明だが,自らが関わっている日本オリンピック・アカデミーでの仕事を活かしたような内容であり,あまりアカデミックな文献は参照されておらず,詳しいのはオリンピック教育について。前半は圧倒的にオリンピック推進派の著書だと思っていたが,オリンピックがもたらす負の側面にもしっかり向き合っています。第58章の経済的側面や,第9章の政治的側面はそこそこ有体の記述ですが,第10章はこれまで読んできたものよりもかなり突っ込んでドーピングなどに関連した話が論じられています。この章を読むと,冒頭でオリンピズムに関して詳しく解説していた意味が分かります。まず,第10章では暴力について,スポーツに必然的につきまとう攻撃性と暴力との関係が論じられます。第11章では薬物について,基本的な薬物反対派の意見を挙げながら,それらがいかに根拠がないかを論証しています。とはいえ,決定的な批判意見は出しておらず,暗に「ルールはルール」というIOCの立場を意味のないものとしています。第12章の文化・芸術へのこだわりもやはりクーベルタンの理想を汲んでのものですが,かといってクーベルタンの思想を理想化しているわけではありません。この章に乗じて桝本氏は第13章を加筆し,全大会の記録映画について論じています。これはありがたい。特に,多くのオリンピック公式記録映画を手掛けていながら日本ではあまり知られていないバド・グリーンスパン監督の作品を詳しく紹介しているのはありがたいです。オリンピック研究は非常に蓄積があり,パラリンピックまで含めてしまうと収拾がつかないので,あまり読んでいませんが,本書では分量的に多くはないものの,丁寧に記述されており,その本質を理解するのに役立ちます。著者の2人はこれまで知りませんでしたが,最近読んだ英語論文の中で本書が引用されていて,そこそこ読まれている本なんだなと確認しました。

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