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TOKYO 1/4と考えるオリンピック文化プログラム

東京文化資源会議編(2016):『TOKYO 1/4と考えるオリンピック文化プログラム――2016から未来へ』勉誠出版,255p.2,500円.

 

2016年の出版ながら、今更見つかった本。とはいえ、来年3月に発行になる『経済地理学年報』では、オリンピック関係の特集を組んでもらい、私も執筆したのだが、この執筆陣に入っている太下義之氏は、本書の「編集参与」とのこと。結局1度しかお会いしていないので、本書の存在は教えてくれなかったな。本書の編者である「東京文化資源会議」とはそのウェブサイトによれば、2014年6月から活動を始めた「東京文化資源区構想策定調査委員会」の発展した組織であり、委員会としては内閣府や国土交通省、文化庁を中心とした政府内委員会だったようです。当然、2020年オリンピック・パラリンピック競技大会が東京での開催に決定した2013年以降に動き出した委員会ですから、それを前提としているのは間違いありません。しかし、当時は2012年ロンドン大会の後であり、2016年リオデジャネイロ大会はまだでした。日本ではあまり知られていませんが、オリンピック・パラリンピックはスポーツ競技だけでなく、文化プログラムの実施が開催都市に義務付けられています。一つは、前回の大会終了後から4年間を文化オリンピアードと名付け、開催国での文化事業を行うことになっています。これはオリンピック憲章に明記されているものではありませんが、開催年のオリンピック村の開村から閉村までは文化イベントを行うこととなっており、その計画は国際オリンピック委員会(IOC)の承認を必要としている。そして、太下氏の文章でも詳しく書かれていますが、2012年ロンドン大会が、文化オリンピアードから2012年の文化プログラムまで、非常に充実したイベントが開催されたことが知られていて、本書を読むと東京でも一部の人たちの中では、「東京でも!」という強い意気込みが感じられます。
https://tcha.jp/

はじめに(柳与志夫)
I
 オリンピック文化プログラムとは何か
 「オリンピック文化プログラム」序論――東京五輪の文化プログラムは2016年夏に始まる(太下義之)
 対談 オリンピックが「戦後」を終わらせる(青柳正規×御厨貴)
II
 フロントランナー,4人が語る!
 回帰する都市リノベーションする都市(隈研吾)
 熱狂の中心を作り出すために(猪子寿之)
 みんな乗りこめキャラバン隊が行く(野田秀樹)
 2020年にTURNする(日比野克彦)
III
 文化プログラムのトリガー・文化資源
 2020年へのレガシー2020年からのレガシー(吉見俊哉)
 東京の文化資源の多様性と東京文化資源区構想の意義(柳与志夫)
 「東京ビエンナーレ」が日本の地域を変える(中村政人)
IV
 全国に展開する文化プログラム
 個都・東京――東京文化資源区構想と東京オリンピック2020をめぐって(南後由和)
 水と土に育まれた「創造交流都市にいがた」(篠田昭)
 過去・現在・未来に求められる地域活動――台東区谷中界隈の事例にもとづく考察(手嶋尚人)
 英国から,ふじのくに静岡へ――新たなレガシーが生まれる(岩瀬智久)
 文化が開く京都の未来~創造,育成,交流~(平竹耕三)
 地方から発信するBEPPU PROJECT(山出淳也)
 沖縄文化を世界へ――2020年東京五輪を契機とした地域文化発信の可能性(杉浦幹夫)
資料編
 オリンピック憲章(2014年版 第五章三十九条)
 東京文化ビジョン(文化戦略・主要プロジェクト2015年策定)
 参考資料リスト
コラム(桝本直文)
 ①2008年北京大会のギリシャ芸術展示館
 ②2012年ロンドン大会大英博物館が文化プログラム会場に
 ③アテネの地下鉄ミニミュージアム
 ④ナショナルハウス

さて、本書にはいくつかのインタビュー記事が掲載されています。もちろん、2020年東京オリンピックに関わる人たちです。文化庁長官(青柳正規)、新国立競技場設計者(隈研吾)、文化プログラムを先導するプロジェクト監督(野田秀樹・日比野克彦)などです。野田秀樹が本書で語っている「東京キャラバン」は実際に2015年から実践されているようです。
https://tokyocaravan.jp/about
そして、上記にある「東京文化資源区」と名付けられたものは、北は谷根千から南へ、上野、本郷、湯島、秋葉原、神田、神保町のエリアとなっています。本書ではまず吉見俊哉がこの地域の重要性を訴えます。文化研究者らしく、文化概念の定義を説明していますが、それは批判的な立場ではありません。耕作するという本来の意味から教養という意味に展開してきたのがcultureですが、その隠喩を元に戻し、人の成長(教育)にも土壌が必要なんだみたいな言い方で、本郷は今でも東大を中心とする文京エリアですが、神保町エリアを江戸時代の参勤交代から明治期の中国人留学生、その後の東京大学(本号より前に神保町で創立されたそうです)、学習院大学、一橋大学、東京外国語大学などの立地場所として、現在の書店街(出版社も)として位置付けています。ある意味、吉見氏の門下生ともいえる、南後由和も話を合わせるように、東京の江戸時代の姿まで遡り、「の」の字を描くように、1964年オリンピックで欧米文化の下で開発された青山・六本木・渋谷からぐるっとまわって、今は東京の北から東の方がホットなスポットだと論じています。ほとんどが日本語で読める多様な分野の書籍を用いて、言葉巧みにこの東京文化資源区の魅力を伝えています。
後半では、日本各地の取り組みが紹介されます。東京からはまさに東京文化資源区に入っている谷根千の仕掛人ともいえる手嶋氏によって、谷中が墓地のおかげで暗いイメージを持っていた時代からの転身が語られます。新潟市は市長が執筆し、創造都市ネットワークの先進都市ともいえる新潟市の魅力がこれでもか、と列記されます。静岡県からは行政の担当者が同様にPRをします。京都からも京都市の行政担当者が、沖縄県からも行政担当者による宣伝がなされています。これらを読んでいると、本書の執筆時(2015年末から2016年初頭にかけて)には、まだ日本政府や組織委員会から文化オリンピアードの地方への働きかけはないようです。しかし一方で、静岡県の行政担当者はロンドンにも視察に行っているくらい、ロンドン大会の文化プログラムを目の当たりにし、それと類似したものが日本でも2016年以降展開することを期待し、地方活性化の起爆剤とするべく準備をしていることが分かります。少なくとも現時点では、組織委員会のウェブサイトを見ても、文化オリンピアードについての詳細な情報は得られず、かれらが期待したような展開をしているようには思えません。一度、本書への寄稿者に対して、その後どうだったかを聞いてみたいものです。

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