« ドラえもん・サバイバル!・おしりたんてい | トップページ | 2020年の地理学関連文献02 »

2020年の地理学関連文献01

分かる人にはわかるかもしれませんが、とある事情で、2020年に発表された特定分野の文献調査をすることになり、書籍だけでなく、雑誌論文についても簡単な解説文を記録として残していきたいと思う。

岡野 浩(2020)「都市生体と文化編集――アクターとしての「メタセコイア」と「てりむくり」」都市と社会、第4号、146-175頁.
この論文は著者が手掛けてきた数多くの研究と、大阪を中心とする調査報告書シリーズを総括する内容で、特別寄稿されたものである。
主要なテーマは「都市の創造性」である。都市の創造性を発掘するために、その都市に属するさまざまな「モノ」をアクターとしてそのネットワークを考察するという意味においても、この論文を支えるのはキーワードにもある、アクター・ネットワーク理論である。とはいえ、特定の理論に基づいて調査結果を用いるような実証研究ではない。大阪の歴史をたどる時にはアフリカにおける人類の誕生から、というスケールの大きな話で、さまざまな理論だけでなく、日本文化論や自然史など、話題がコロコロ変わりながら論が展開します。
一部はフーコーにも基づき、彼の考古学という言葉をうまく利用して、地質学的なメタファーで都市を解明しようとします。また、著者の活動は単なる調査・研究にとどまらず、一つの運動実践を志向しています。「市民知」という言葉も用いていますが、本稿のタイトルでは植物のメタセコイアと建築技術の「てりむくり」ですが、地域に存在する自然物から技術、さまざまな事物を知の対象とし、市民とともにその歴史を紐解き、その活動自体が新しい知を生み出していくというところに、「都市の創造性」を求めているようです。

小栗宏太(2020)「ホラー映画と想像の地理:香港南洋邪術映画を題材に」言語・地域文化研究、第26号、493-509頁。
香港という特定の都市で制作される映画の特定のジャンル(ホラー)に、特定の地域が特定の役割を持って描かれるという事態を、サイードの「想像の地理」概念を使って論じている。冒頭では、人類学者の逸話として、特定の「呪われた場所」に関する言い伝えの事例をいくつか挙げている。1970年代半ばから1990年代の返還前の香港映画で、「南洋」すなわち東南アジアが呪われた場所として描かれることが多かったという。一つには、返還前の香港が、東洋(中国)と西洋(英国)との二面性を併せ持つことから、香港映画は西洋の『エクソシスト』と中国のキョンシーものの影響下で、西洋でも東洋でもない南洋を表象の対象として、「他者」として描いたといえる。香港映画では、呪術の恐怖を「降頭」と呼ばれ、映画のジャンルとしても「降頭片」と総称されるという。そうした映画の決まったストーリーは香港の主人公が東南アジア諸国に渡航し、渡航中や帰国後に体調不良等不思議な現象にあうという。主人公を助ける人物が原因を究明するために渡航先を訪れ、解決する。
このことの原因として、既存の文献からいくつかの理由を明らかにしている。一つ目は戦後香港の映画業界が東南アジアと強いつながりを持ち、ロケが容易であったこと。二つ目は東南アジア色を導入して消費を喚起すること。三つめは本稿社会の東南アジアへの偏見である。

和田 崇(2020)「1994年広島アジア競技大会の無形遺産――一館一国運動の25年」E-Journal GEO、第15巻第2号、175-188頁.
日本の地理学で本格的にスポーツ研究を手掛けようとしている著者の実証研究。スポーツ地理学を人文地理学のどこに位置づけようとするとやはり文化かなと思い、地理学に限らず、オリンピックものも含め読んでおこうと思う。著者の和田さんは本当にさまざまな方面に関心を持って、しかもそれを一定数の論文として、きちんとまとめていく稀有な地理学者。アジア競技大会についてはオリンピック研究のなかでも重要だと思っていたが、今のところ日本語で読める本格的な研究は見つかっていない。そんななか、身近な地理学者からこうした研究が出てきたのは非常に喜ばしい。本稿でもしっかりとオリンピック・レガシーの文献調査もなされていて、勉強になる。そしてなにより、著者のすごいところは、実証研究論文の場合はほとんどオリジナルな調査を行っているということ。本稿では、25年前のことであるにもかかわらず、公民館へのアンケートや聞き取り調査を行っている。私もきちんと認識していませんでしたが、1994年に実施された一館一国運動は、有名な1998年長野オリンピック冬季大会に行われた一校一国運動のモデルとなっているということ。日本では1980年代から国際化、異文化交流などということが叫ばれるようになり、1990年代前半のこの運動はその流れにあるとも理解できる。基本的には行政側の企画なのだが、実際の運動としては草の根レベルの市民が主体となって行っている。私が調査している2020年東京オリンピック大会のホストタウン事業でも、同じように受け入れ自治体が相手国・地域の文化を知るところから始まり、相手国・地域の料理を作るとか、在日外国人を招待して講演を行うとか、同じような実践が行われている。ということで、私のホストタウン研究にも大いに役立つ論文です。

|

« ドラえもん・サバイバル!・おしりたんてい | トップページ | 2020年の地理学関連文献02 »

学問・資格」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ドラえもん・サバイバル!・おしりたんてい | トップページ | 2020年の地理学関連文献02 »