五輪と万博
畑中章宏(2020):『五輪と万博――開発の夢,翻弄の歴史』春秋社,242p.,1,900円.
7月30日に発行されていた本書を私は知らなかった。たまたまtwitter情報で,柴崎友香さんが,新刊の『百年と一日』の出版記念で本書の著者とトークイベントをするということで,その組み合わせに興味を持って,オンラインだしと思ってイベントを視聴してみようと思った次第。それならば,やはり本は読んでおかなくては。今更感のあるタイトルですが,著者は民俗学者とのこと。現代美術研究者の暮沢剛巳さんが『オリンピックと万博』を出版したことにも驚いたが,それでもデザインの側面からということであれば十分納得できた。では,民俗学者がどんな観点から五輪と万博を論じるのか,それは興味があった。
はじめに 「幻想」の情景
Ⅰ 1940東京五輪・東京万博
1 駒沢という郊外
2 代々木の昔と競技場
3 紀元2600年の五輪と万博
4 開催返上へ
Ⅱ 1964東京五輪
1 戦後日本と東京の再生
2 選手村とその他の問題
3 開催準備
4 外苑・代々木・駒沢の競技施設
5 東京の変貌
6 祭典の内外
Ⅲ 1970大阪万博
1 大阪万博への道
2 千里丘陵の開発
3 未来都市は出現したか
4 万博の「反響」
Ⅳ 1996世界都市博
1 マイタウン東京
2 新都庁舎と「ハコモノ」
3 臨海副都心開発
4 世界都市博覧会
5 開催中止へ
Ⅴ 2020東京五輪
あとがき
大阪万博の年に生まれた私より,著者は年上だった。1964年東京五輪の時が2歳,1970年大阪万博は小学校二年生で大阪に住んでいたという。まあ,それは記憶があるかないかの違いだが,「この本では,土地の記憶といったものをできるだけ叙述してみたい」(p.v)とある。五輪や万博といったメガ・イベントはそれなりの規模で開発が進むということだが,開発によって様変わりしてしまった土地の以前の姿を紐解きながらこの巨大イベントについて論じるということらしい。であれば,民俗学者として独自のオリンピック論になるのでは,と期待をしながら読み進める。
こうして目次を打ち込んでみると,このページ数の本にしては盛りだくさんだ。冒頭は駒沢の話から始まる。他のオリンピック本でも駒沢にあったゴルフ場を競技会場にという話はあったが,1889年の町村制施行によって6つの村が合併して駒沢村になるという歴史から紐解かれ,期待が高まります。代々木についても豊臣秀吉の時代まで遡り,古い写真を散りばめながらの展開に,想像力がかきたてられます。
ただ,1964年東京五輪の説明辺りになってくると,すでに知った話が次々と出てくるという印象に変わっていきます。Ⅱに入ると,今度は大阪万博の会場になった千里丘陵の歴史の話になり,この辺りは私も知らないことが多く,また楽しめます。
さて,著者が本書を執筆するきっかけがもう一つありました。Ⅳ章のテーマである世界都市博覧会といえば,当時東京都知事を務めていた鈴木俊一だが,本書は彼を中心に組み立てられているともいえる。著者は日本の養蚕民俗に関する研究をしていたという。私も大学時代に玉川上水辺りを巡検し,東京西方のこの辺りで養蚕が盛んだったと学んだ。鈴木俊一の実家は昭島の蚕業講習所だったという。鈴木は1964年東京五輪の際に副知事をしており,その後大阪万博の際に大阪に移り住み,事務総長を務めていたという。そして,その後東京都知事となり,世界都市博覧会を推進するのだ。ということで,Ⅳ章の前半ではこの鈴木の半生を描きつつ,1980年代の東京臨海開発から世界都市博覧会へと説明が展開する。丸の内から新宿への都庁の移転の話も詳しく説明され,新旧都庁を設計した丹下健三,彼も東京オリンピックと大阪万博に関わったのは暮沢さんの著書でも論じられていた。まあ,ともかく西新宿の歴史についても説明されます。お台場についても歴史を紐解き,最終章へと向かいます。しかし,こちらはまだ開催前ということもありますし,あまり重厚な記述は望めません。土地の歴史,記憶という観点から2020東京五輪,2025大阪万博を考えるのは読者の役割でしょうか。
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