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2020年の地理学関連文献02

吉沢 直・綾田泰之・山口桃香・武 越・李詩慧・浅見岳志・封 雪寒・張 羚希(2020)「鹿行南部におけるスポーツ合宿の特性と地域間連携の可能性」地域研究年報、第42号、77-92頁.

本誌は筑波大学人文地理学研究室の巡検報告書である。しかし、しっかりと調査されて、まとめられており、私のホストタウン研究にも役立つ論文である。位置づけ的にはスポーツツーリズムをキーワードに挙げているので、文化地理学に含めるのは難しいかもしれない。ただ、私のホストタウンの調査では、受け入れ自治体がスポーツ施設を持っているか否か、人数の多い団体の合宿を受け入れる宿泊施設があるか否かというのが大きいので、こうした取り組みの実態を知ることができたことは大きい。
この論文で調査されているのは筑波大学からほど近い、茨城県の沿岸部。3エリアを設定していますが、その一つがアントラーズのある鹿島エリアです。ということもあり、スポーツ合宿といってもサッカーがメイン。もともと工業地帯であるこの地域では、以前から工場施設の整備が行われる時期に修理工が宿泊する施設を必要としていたという。それは季節的に限られるため、閑散期の需要を促進する目的でもスポーツ合宿が誘致されたという。1つのエリアは宿泊施設が競技場も併設しており、もう1つのエリアは公共的なスポーツ施設が充実しているという。そこでは、行政が大きな役割を果たし、また東京にあるエージェント企業が合宿団体を手配するという。また、競技施設と宿泊施設を併せ持ったこの地区では、サッカー大会も開催され、また近年では外国のチームの合宿もあるという。論文的には地理学を意識して地域連携の難しさを指摘しているが、スポーツ合宿の実態が把握できたことで十分な成果だと思う。

 

水谷裕佳(2020)「地理的境界と展示活動――ワイキキ水族館における環境と文化の展示を事例として」境界研究、第10号、23-43頁.

冒頭に現在のワイキキ水族館についての概説があるが、前半はハワイの長い歴史が語られている論文である。入植以前の考古学的な歴史から、1778年のジェームズ・クックの上陸、入植が進むハワイ王朝では、1848年に法改正がなされ、土地の私有が認められる。1898年に米国領となり、ハワイ州となるのは1959年。当のワイキキ水族館は米国で2番目の水族館として1904年に開館している。その後ハワイの観光化が進む。米国にとって特異な自然環境が旅行先として宣伝され、また東洋諸国への玄関口ということも強調されるという。そういうこともあり、日本からの移民も多いが、中国系移民がワイキキで養魚池を経営していたという。後半ではオアフ島の環境保護活動と文化復興活動についても考察される。
そうした経緯と文脈で、現代のワイキキ水族館の機能と役割が論じられる。全般的な水族館の歴史が辿られ、ワイキキ水族館では、形骸化したエンタテイメント的な展示ではなく、陸上要素を取り入れ、ハワイの環境や文化を展示する教育的目的を持っている。最後に境界に関する議論がある。まずは、展示における陸と海との境界である。続いて、観光客と住民との境界であり、それはあるていどワイキキ水族館が位置する観光地区と居住地区という空間的な意味合いもある。また、論文では明白に書かれてはいないが、アメリカとアジアという境界もあるのかもしれない。

 

太田原潤(2020)「ヤマアテによるコヨミ認識の一様相――沖縄県久米島町のウティダ石のもつ意義を中心に」非文字資料研究、第20号、105-124頁.

著者は考古学者のようだ。この論文は久米島の見晴らしの良い高台に据えられた石の民俗学的意味を探るものである。物質性の研究にふさわしい素材で、自然-人間関係を論じているという意味では地理学にとっても興味深い研究である。この雑誌を発行している神奈川大学歴史民俗資料学研究科の院生ということだが、2000年から考古学関係の雑誌に既に何本も論文を発表しており、普通の経歴の院生という訳ではなさそうだ。このウティダ石と呼ばれる石は、漁業者が海上での位置を知るために用いられているといい、その方法を「ヤマアテ」という。まずは季節的な「コヨミ」がある。季節によって移り変わる日の出の位置が重要となる。続いて、海から見た風景の目立つ箇所とウティダ石との関係で位置を定める。
この論文の中では、このウティダ石がいつからこの位置にあるのかを考古学的な観点から考察する。続いて、久米島で採用されている暦の考え方を、琉球王国の中国との関係、日本との関係の歴史の中で考察する。また、太陽の動きについても現地観測だけでなく、コンピュータによるシミュレーションも行い、確認している一つの物質としての石について、多角的に考察し、その民俗的な利用を考察する興味深い研究である。そこに、「そこから見える景観に非文字資料としての資料性」(p.122)としているところに、物質と地理という関係を見出すことができる。

 

中井次郎(2020)「都市生活者のウェルビーイングを前提とした生涯スポーツの再考について」大阪大学教育学年報、第25号、23-35頁.

この論文は具体的な調査に基づくものではなく、文献を駆使した総論である。2019年ラグビー・ワールドカップ、2020年東京オリンピック、2021年ワールドマスターズゲームズという日本で続いて開催される。スポーツ・メガ・イベントを契機に、スポーツを活用した都市生活者の健康を維持する方策を考えるという背景を持っている。メガ・イベントに伴う都市開発、ジェントリフィケーションにも配慮しながら、ウェルビーイングに結びつく生涯スポーツについて考察している。文献としては物足りなさを感じながらも、なかなか興味深い論点もいくつか提示されている。まず、私のホストタウン調査でもあったが、生涯スポーツの起源について、「1988年に設置された文部省生涯スポーツ課」(p.24)との記述があった。ここに、子どもの体育と高齢者の生涯スポーツとが結びつくのだ。また、この論文ではスポーツを創造都市とも結びつけている。そして、この想像都市概念の起源としてルイス・マンフォードを挙げているのも新鮮。そして、都市の創造性がとかく経済と結びつきやすいところを、ここでは創造都市ではなく、ウェルネスシティへと方向展開しようというのだ。今日の日本社会で高齢化が進展するなかで、今日のいわゆる身体的なスポーツ(ウォーキングまで含め、意図的に行う運動のこと)ではなく、生活に伴う移動を重視する必要があるという。著者はこの問題があくまでも都市特有なものである、という捉え方はしない。農村での考察も可能だという。

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