関根正敏・小林 勉・布目靖則・野口京子・岸 卓巨・小山さなえ・今村貴幸(2016)「「日本全体」の祭典としての東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会――ホストタウン構想を通じた地方都市の活性化策のアウトラインについて」中央大学保健体育研究所紀要 34: 31-55.
この論文の冒頭では、都市開催を基本とするオリンピック・パラリンピック競技大会だが、実際に招致都市として決定した後の、大会組織委員会の言説では、「オールジャパン」などと全国民を巻き込んだイベントとして成功させるような意図が読み取れる。それはもちろん、非営利団体のはずの日本オリンピック委員会および大会組織委員会が開催主体でありながら、そこに東京都という地方自治体のみならず、日本政府までもが介入する事実があるわけだが、具体的にも「地方へのベネフィットの供与」(p.33)というベクトルがあるという。その具体的なところを2015年に組織委員会が策定した「東京2020大会開催基本計画」のなかに探る。それによれば、このイベントをスポーツだけでなく、教育や文化など「分野的な広がり」をもたせ、一過性の効果だけでなく「時間的な広がり」、そして東京だけでなく「地域的な広がり」を期待した「オールジャパン体制」を目指しているという。
続いて、東京都が2014年に策定した「東京と長期ビジョン」における東京2020の位置づけが検討されている。そこでも「「東京に」「日本へ」「そして世界に向けて」と表現された「3 つの視点」」(p.40)が謳われているという。最後に日本政府の閣議決定が検討されるが、ここでも「日本全体の祭典」が強調されるという。いずれも理念的なものであることは否めないが、「被災地の復興・地域活性化」が示され、その具体例として「ホストタウン構想」が登場するという。ちなみに、当初は「ホストシティ・タウン構想」だったらしいが、「ホストシティ=東京」を想起する場合が多いことから、「シティ」を除いたという。この構想は内閣主導で、総理大臣の諮問機関である「経済財政諮問会議」による議論を通じて打ち出された。この構想はビジット・ジャパン戦略への接続を期待されていた。ホストタウン構想の当初の資料を検討し、「そうした交流事業等を実施するための経費については,対象経費の一般財源合計額の半額に対し,特別交付税措置を図ることで政府がホストタウンをフォローするとされた.また,東京2020の事前合宿に活用する既存のスポーツ施設を各競技の国際競技連盟基準に適合させるために必要不可欠な改修事業については,ホストタウンによる地方債(充当率90%,交付税措置率30%)の発行が認められた.」(pp.49-50)と記されている。この論文はホストタウンを副題にしていることからも、既存の資料を丁寧に見ることで、ホストタウンを2020年東京大会におけるナショナルレベルの方策のなかで位置付けることができていると思う。この論文では、ホストタウン構想を「これまでの日本のスポーツ政策史になかった局面である.」(p.52)と評価している。政府は金を出すだけで、そこで何をするかは地域にゆだねられているという点で、地方主導的な事業の可能性を有する一方で、「単なるつじつま合わせの事業を実施していく主体も顕在化してくる」(p.52)という問題点も指摘している。
一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR/クレア)が発行する機関誌『自治体国際化フォーラム』は2014年10月(300号)に「スポーツを活用した地域活性化の取り組み」という特集を組んだ。
太田正治「スポーツイベントを活用した地域活性化の取り組み」(pp.3-4)の著者は日本イベント産業振興協会の専務理事だという。スポーツによる地域への波及効果を上げるためにスポーツコミッションの設置を提言している。一般財団法人日本スポーツコミッションなる団体があるようだが、それによれば、スポーツコミッションの役割は①スポーツイベント誘致のプロモート、②スポーツイベント受け入れのコーディネート、③スポーツイベントの観光資源化のサポート、であるそうだ。自らの団体では「スポーツイベント検定」なるものも実施しているという。
森 知洋「2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会の招致成功と開催に向けた今後の取り組み」(pp.5-7)の著者は東京都オリンピック・パラリンピック準備局の職員である。2020年大会に関して、2012年2月にIOCに申請ファイルの提出してからの経緯が記されている。
湊 慎一郎「2012年ロンドンオリンピック・パラリンピック競技大会における事前合宿誘致の取り組み」(pp.7-9)の著者は石川県から自治体国際化協会ロンドン事務所に派遣された人物。2012年ロンドン大会では英国全土266か所で事前合宿の受け入れが行われたとのこと。ロンドンオリンピック・パラリンピック組織委員会は2008年に事前合宿候補地リスト(600施設)を作成して各国のオリンピック委員会に配布したとのこと。組織委員会は参加国のオリンピック委員会に約400蔓延を支給したという。著者は当事者に話を聞いている。ロンドンでは、事前合宿に関して自治体間の競争が過熱したという。
さいたまスポーツコミッション「さいたまスポーツコミッション(SSC)の取り組み」(pp.9-12)は先述したスポーツコミッションの実践を行う団体による報告。フィルムコミッションのスポーツ版と自称する。埼玉県ではなく、さいたま市の市長が会長を務める。事務局は観光国際協会にある。サッカーが盛んな地域ということを活かし、スポーツ大会・イベントの誘致・支援に特化し、「聖地(メッカ)」づくりも推進する。現在では年間20大会以上の誘致を目安としている。
田中義明「山があるから人が来る~地勢を生かしスポーツ愛好家を誘客~」(pp.12-14)の著者は奈良県から自治体国際化協会パリ事務所に派遣された人物。ツール・ド・フランスの山岳コースに位置するスイスのユエズ村への取材に基づく記事。
愛媛県経済労働部管理局観光物産課瀬戸内しま博覧会グループ「瀬戸内しまなみ海道・国際サイクリング大会「サイクリングしまなみ」の開催」(pp.14-16)は、タイトル通り。国内外から8千人のサイクリストを迎えて開催される大会。2013年のプレ大会があり、2014年10月26日の本大会開催前の記事。
自治体国際化協会ニューヨーク事務所「プロスポーツチームを誘致して再開発を促進」(pp.17-18)まず、ニューヨークでは大きな再開発は必ず市民から大きな反対意見があがるという。この報告では、ロングアイランドの鉄道車両基地の再開発に際し、プロバスケットボールチームのニュージャージーネッツを誘致し、スポーツアリーナ「バークレイズセンター」を中心にしたという。
迫田明巳「「One Community」のラグビーチーム」(pp.19-20)の著者は北海道鹿追町から自治体国際化協会シドニー事務所に派遣された人物。シドニーでは、プロスポーツチームが身近な存在で、チームも地方自治体(カウンシル)に共同意識を持っているという。プロラグビーチームを使った地域活動がいくつか紹介されている。
阿部征大・清宮孝文・松澤隼斗・日比野幹生(2019)「2020年東京大会における関心と期待――行政の取り組みやホストタウンの視点から」『オリンピックスポーツ文化研究』4: 1-18.
この雑誌は日本体育大学の紀要的な扱いであり、著者らは基本的に同大学の教員・学生であり、またオリンピック推進派であるといえる。前半では開催側の主張を並べ、オリンピック・パラリンピック競技大会の開催が日本社会に多大な効果をもたらすことを主張している。この論文では同大学が所在する東京都世田谷区で、米国とのホストタウン登録という名目をつけて、スポーツ施設の利用者にアンケート調査を行ったものである。そのスポーツ施設は米国のキャンプ施設であると説明されているが、具体的な施設については書かれていない。2018年9月の8日間で実施されたアンケートは、質問配布数は891で、630の回答が得られたという。米国ホストタウンについての認知度は6割強が知っていると回答している。このアンケートは内閣府が2015年に行ったものを基礎としており、その結果を比較している。回答者がスポーツ施設利用者であり、より積極的な回答が多いという。ボランティアに関する設問もあり、ホストタウン関連の考察よりも重視されているように思う。
北島信哉(2020)「2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けたホストタウン事業に対する問題解決学習(PBL)の実践報告」『大学体育研究』42: 15-21.
著者は長野オリンピック時のボランティアと大学の関係についての論文を有するが、大学教育が専門なのかもしれない。著者が所属する徳山大学では、著者のゼミ(地域ゼミ)が山口県防府市のセルビア・バレーボールチームのホストタウン事業と連携した活動を行っているという。防府市では日本で開催されたバレーボールの国際大会で事前キャンプが行われているとのこと。すでに、パブリックビューイングが行われ、来場者へのアンケートをゼミ生が行ったとのこと。この活動は大学での教育の一環であり、問題解決学習というテーマを持っているため、活動の報告として、市のホストタウン推進室へのプレゼンを行ったという。その他、この活動はインターンシップも兼ねているようで、西京銀行やミズノ株式会社でも活動を行っている。さらには、山口県下松市のベトナム・バトミントンチームのホストタウン事業にもインターンシップ参加をしているという。
Komine, T.(2018)「Musashino City, Tokyo, Romanian Host Town Project: Current Efforts and Future Prospects」『山梨英知大学紀要』17: 74-84.
この論文は2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会のホストタウンとして登録している東京都武蔵野市で、ルーマニアのホストタウン事業を調査・報告するものである。著者は武蔵野市の使節団とともに2018年9月にルーマニアのブラソフを訪れている。著者は武蔵野国際協会に属していて、出発前にルーマニアの言語と文化に関する2回の講義を行っている。使節団は、1.現地コンサートで歌うコーラス隊、2.茶道と華道を行うグループ、3.折り紙を教えるワークショップ、4.着物の着付けを行う人、5.プロモーション部隊の5つから成る。現地では、ルーマニアのパラリンピック選手に日本への渡航費を渡すことも行われた。ブラソフには1999年に設立した日本武蔵野センターがあり、そこでは多くの学生が日本語と日本文化を学んでいる。武蔵野市とルーマニアとの関係は1989年にさかのぼる。かつて武蔵野市に住んでいたソガダイスケ氏はブラソフのオーケストラの指揮者として働いていた。1989年のルーマニア革命時にオーケストラの60人の全メンバーが演奏しに日本に来た。立川市、府中市、昭島市にわたる支援団体ができた。それ以降音楽を通じた交流が続く。2005年から2006年にかけて市と市民とがルーマニアとの文化交流について議論をしている。その後も草の根レベルの文化交流が続いている。
武蔵野市は、韓国ソウルの江東区、韓国の忠州市、米国テキサス州のラボック、中国の北京、ロシアのハバロフスク、そしてルーマニアのブラソフと6つの友好都市交流を持っている。そのなかで、2020年東京大会のホストタウンに関しては、2016年1月にルーマニアで登録した。武蔵野市のホストタウン事業はスポーツ、文化、経済、教育と多岐にわたる。ルーマニアとのホストタウンに登録しているのは武蔵野市の他、大分県大分市、千葉県松戸市という2つの自治体がある。これらは2016年リオデジャネイロ大会以降にルーマニア競技連盟との関係を気付いたが、武蔵野市は継続して文化・教育の結びつきがあることを強調している。2019年1月にはルーマニアのパラリンピック選手を武蔵野市に招いたイベントが開催されたという。武蔵野市は毎年市民意識調査を行っている。2017年の調査では10,032の回答があり、この論文では、市民活動に関する設問に注視している。自治体の政策のうち優先的なものを回答する設問があるが、災害に強いまちづくりが38%あり、高齢者福祉24%などで、東京オリパラ事業は5.3%、ホストタウン事業は2.3%の回答だったという。今まで通り、ホストタウン事業についても草の根レベルでより広い認知を図っていきたいとする。武蔵野市とルーマニアとの関係は2020年がゴールではなく、市民と行政、NPO、民間企業や学校が引き続き多文化社会の創造を目指して活動していく必要がある。
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