2020年の「文化地理」関連文献13
月刊『地理』の特集第三弾。「コロナ時代の「夜」の地理学―音楽と音の紡ぐ未来―」という特集は地理空間学界のシンポジウムを中心にしている。最近この分野の牽引役である池田真利子さんがオーガナイザーとなり,所属する筑波大学だけでない,また地理学に限らない人々を集めて,最近盛り上がりを見せている。
池田真利子 (2020). コロナ時代の「夜」の地理学―音楽と音の紡ぐ未来―. 地理, 65 (10), 4-12.
日本観光研究学会の支援による共同研究や,シンポジウムでの報告に基づくこともあり,巻頭言は学術的ないちづけが広く整理されている。学術雑誌では網羅的な文献の紹介が求められるが,主要な業績のみの提示で大まかな流れを示することができるというのもこうした商業誌のいいところかもしれない。日本の「夜」についての歴史も概観され,「夜間経済」と訳すことのできる「Night-time Economy」の表現的な整理もされていて,初学者にも優しい。
池田真利子・田中順也・小竹輝幸・小林 愛・アセファ テメスガン (2020). コロナ時代の夜間音楽経済. 地理,65 (10), 13-19.
こちらは音楽に特化したものになり,共著者の田中,小竹,小林はナビタイムジャパンの社員とのこと。一人は筑波大学出身ということで,そのつながりなんでしょう。東京大都市圏におけるライブハウス,クラブ,ミュージックバーの分布を把握するためにナビタイムが保有する位置情報を活用し,分布図を作成し,口絵として掲載している。「夜間音楽経済」を施設面からいかに定義するか,という点を法律の点からも議論している。
太田 慧・飯塚 遼・杉本興運・池田真利子 (2020). 夜のウォーターフロントの再編とナイトライフ. 地理, 65 (10), 20-27.
こちらはウォーターフロントの(再)開発を夜のエンタテイメントという観点から,東京,アムステルダム,ハンブルク,ロンドンと概観している。この分量の文章で4つのグローバル都市を論じるという無謀さも商業誌なら許される。ジュリアナ東京も芝浦の倉庫を改装したものだったんですね。いわゆる「ロフト文化」としているが,簡単にでもこの概念についての説明が欲しい。本文には「インクスティック鈴江ファクトリー」とあるが,私は高校生の頃にインクスティック芝浦にいったことがある。このバブル期のウォーターフロント文化に直に接する機会はあまりなかったが,当時ラジオ少年だった私は曜日替わりで女性タレントがパーソナリティをつとめる番組を視聴していた。5人全員は覚えていないが,今井美樹と網浜直子,そして鈴木保奈美がいたことは覚えている。その番組の公開イベントに応募して当選したのだ。今井美樹と網浜直子のステージがあったのはもちろん,司会がなんと鈴木保奈美だったのだ。まだ『東京ラブストーリー』などテレビドラマで人気になる前の駆け出しの女優という感じで,初々しい感じが印象に残っている。また,口絵に写真が載っているT.Y.HARBORは数年前に大学の先輩の結婚式の二次会で行ったところ。こういう風に近年のウォーターフロント再開発の代表例などとして登場するとなんか不思議な感じがする。芝浦の辺りはライブによく通っていた頃も一度イベントライブで行ったことがあるが,街全体がにぎわっているという雰囲気ではなく,ひっそりとした住人の少ない街にある店舗のなかで賑わっているという印象が私にはあるので,それがナイトライフを盛り上げるウォーターフロント再開発だといわれてもピンとこない。
坂本優紀 (2020). 夜と音楽が演出する空間:メキシコ・グアナファト. 地理, 65 (10), 28-34.
著者は『地理学評論』や『地理科学』にもサウンドスケープに関する論文を持つ地理学者だが,最近はラテンアメリカをフィールドとし始めたらしい。ということで,この文章はメキシコに行ってみましたの報告。メキシコのグアナファトという都市では,夜間に観光客も目当てにした,音楽隊が演奏しながら町を練り歩くというイベントが毎夜開催されているということで,そのレポート。
卯田卓矢・東恩納盛雄 (2020). 沖縄音楽の多様性と夜. 地理, 65 (10), 35-42.
こちらは沖縄県名護市の公立大学名桜大学の教員二人による沖縄音楽の話。コザと呼ばれていた現在の沖縄市が占領期から米兵を中心とした文化があったというのは何となく知っていたが,そこで演奏していた人たちから沖縄音楽が全国区になったという。また民謡酒場の存在が説明されているが,確かに東京にある沖縄料理屋でも,生演奏をするお店が多いのはその名残ということか。私は会社の出張で以前はよく那覇市に出張していた。社員は代わる代わる那覇空港事務所に出向していたりしていたので,そういう社員につれられて夜の街に繰り出すこともあった。まあ,地方都市共通の特徴かもしれないが,やはり沖縄独特の雰囲気もあった。それはともかく,この論文では音楽を使ったまちづくりなどについても説明されている。
坂本優紀・池田真利子・磯野 巧・卯田卓矢・柿沼由樹 (2020). 自然のなかの光と音の観光. 地理, 65 (10), 43-50.
こちらは執筆陣各自が個別に研究しているもの,調査に訪れたものの羅列。石垣島の星まつり,三重県熊野市の星空観光,長野県阿智村の星空観光,長野県松川村のスズムシイベント,長崎県伊王島の夜間ウォーキングイベント,といった5つの事例が紹介される。いずれも夜のものではあり,ほとんどが星空イベントだが無理やり音に絡めたり,統一性がない。
池田真利子・モーグナー クリスティアン・レレンスマン ルイーゼ (2020). コロナ時代の研究とフィールドワークの再考. 地理, 65 (10), 51-55.
イギリス人とドイツ人との共著となっているがほぼ池田さんが執筆した様子。この特集では確かにウォーターフロント再開発の話題でロンドンとハンブルクも登場したが,なんか唐突な感じの話題。コロナ禍で変更を余儀なくされた学術調査・研究のあり方の覚書。
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