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2020年の「文化地理」関連文献14

漆 麟 (2020). 「藝術空間」としての日中戦争期における中ソ文化協会. 人文学報, 115, 1-25.
Cinii
で「文化地理」と検索したら出てきた論文。「文化地理学」をわざわざ銘打った論文も多くないし、それ以外だと「文化地理」という言葉を論文で使用することは少ない。この論文は1935年に設立された「中国・ソ連文化協会(中ソ文化協会)」について論じるものである。戦前のソ連と戦後共産党政権による建国がなされた中国との文化的組織だということで、既存の研究ではこの協会が開催したいくつかの展示会から、そのイデオロギー性を強調するものが多かったという。この論文は、この協会についてさまざまな側面から詳細に検討することを通じて、既存研究が作り出してきた共通の理解を覆そうとするものである。日中戦争期の戦時首都であった重慶に、1938年にこの協会は移転した。文化的組織としては官民両方の側面を持った規模の大きなもので、中国内9か所に分会が置かれたという。重慶には「新運模範区」という文化の中心的な地区があり、芸術展の開催はそちらの方が多いが、商業的な結びつきが強く、それに対して中ソ文化協会はその芸術性が強調されていたという。この論文の後半はこの協会を重慶という都市の「文化的空間」のなかに位置づける作業をしており。東から政治に特化した空間、中央に協会が位置する文化的空間、そして西には商業に特化した空間があり、そのなかでこの協会は独自の役割を果たしたという。部分的に財政的に公的支援を受け、「藝術空間」としてのその施設では無差別に芸術展示がなされ、併設されたレストランなどは文化交流の場ともなったという。まさに地理学的な考察。

 

相馬拓也 (2020). 西部モンゴル遊牧社会における家畜放牧と牧草地利用のヒューマン・エコロジー. E-journal GEO, 15(2), 374-396.
モンゴルの放牧民に関する人類学的研究というのはなんとなく想像できますが,この論文はそういうイメージで何となく知っている季節移動ではなく,「日帰り放牧」というものを対象にしている。そして,それを担うのが慣例的には幼い子どもだったという事実も知ることができる。そして,この論文ではそうした移動に調査者が同行し,牧夫にはGPSを携帯してもらい,1日の行動を記録し,地図上に可視化することを行っている。他の研究では衛星画像を使った遊牧地域の自然環境の変化などの研究もあるらしい。ともかく,1日の道程で牧夫が何をしているのか,また家畜に対してどのように働きかけているのかといったことも動向調査で記録され,数量化され,図化されている。そういう形での実態把握は確かに斬新かもしれない。

 

堀川 泉 (2020). 調理方法と食育の取り組みからみる小学校給食と地域との関り. 人文地理, 72(4), 403-422.
京都大学の院生による,修士論文とのこと。前半では学校給食の歴史を概観し,現在の状況を全国的に把握する試み。まずは,単独調理方式と共同調理場方式,その併用とあるとのこと。市区町村でその違いを地図化しているが,なんと各市区町村の公立小学校のウェブサイトで上記方式を確認してデータベース化している。その地域差の要因として,人数規模や小学校の粗密,また平成における市町村合併の有無や財政力指数との関係から考察している。また,地域について学ぶ食育の有無についてもウェブサイトで調査している。ともかく,前例のない研究であるため,かなり力技でなんとかまとめている印象は否めない。

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