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【読書日記】石坂友司・小澤孝人編『オリンピックが生み出す愛国心』

石坂友司・小澤孝人編(2015):『オリンピックが生み出す愛国心――スポーツ・ナショナリズムへの視点』かもがわ出版,269p.2,000円.

 

かもがわ出版はその名の通り京都の出版社だが,オリンピック関連の書籍もそこそこ出している。本書は2015年と東京2020大会の開催後としては比較的早い時期に出版されて,オリンピック研究者も執筆者に名を連ねている。ナショナリズムに関しては早くから阿部 潔氏がスポーツやオリンピックに関連して議論していたが,オリンピックの論じやすいテーマでもある。表題にオリンピックとはあるが,章のタイトルはスポーツが中心になっている。

はじめに――オリンピックの熱狂と「スポーツとナショナリズム」再考:小澤孝人
第1章 スポーツとナショナリズムの現状
 1 スポーツとナショナリズム:香山リカ
 2 スポーツ・ナショナリズムの現代的特徴――商業主義・グローバル化時代の3つのメガイベント:石坂友司
 〈コラム〉ナショナリズムをめぐる想像力――スポーツが拓く可能性に向けて:野田恵子
第2章 スポーツからナショナリズムが生まれる時
 1 近代オリンピックの理想と現実――ナショナリズムのなかの愛国心と排他的愛国主義:黒須朱莉
 2 体操とナショナリズム――体操の国民的普及と国家政策化:佐々木浩雄
 〈コラム〉なでしこジャパンと「日本」はどのように結びつくのか:稲葉佳奈子
第3章 ナショナリズムがスポーツにもたらすもの
 1 柔道とナショナリズムと多文化主義:溝口紀子
 2 2012年ロンドンオリンピックにみるナショナリズム――スポーツの「国家戦略」化と「多民族国家」をめぐる表象に着目して:金子史弥
 〈コラム〉武道必修化とナショナリズム:カドー・イブ
第4章 スポーツはナショナリズムにどう向き合うのか
 〈インタビュー〉スポーツ・ナショナリズムへの視座:内田隆三
おわりに:石坂友司

本書に寄稿したオリンピック研究者はオリンピックを根本的に批判しているわけではない。ある意味,自らの研究対象として大切にしているともいえる。ただ,もちろん批判的な意識も持った研究者たちであり,この時期としてはその批判的な側面を有するオリンピック研究を,ナショナリズムというとっつきやすいテーマでまとめ,香山リカや内田隆三という有名どころに名前を借りて売り出すという戦略はとても良いと思う。香山リカのぷちナショナリズム,がちナショナリズム論は阿部 潔氏も議論しているが,本書では本人にサッカー・ワールドカップを中心としたスポーツに関連した議論を展開してもらっている。
第2章の1を執筆している黒須さんは個人的に注目しているオリンピック研究者です。歴史的な分析が中心ですが,史料の読み込みが丁寧で議論の運びもとても説得的。ナショナリズムをテーマとしている本書では,そのなかの愛国心を抽出し,それを国家間競争的なオリンピックという舞台のなかで考察する。特に,後半の国家国旗廃止論の議論は私も知らなかったので,勉強になった。会長を務めたブランテージを中心にIOCのなかでの議論を丹念にたどっている。続く,2の体操に関する歴史的考察も,ラジオ体操に関する議論など何となくは知っていましたが,戦前と戦後の断絶と連続など,新しく知った事実も多かった。次のコラムでの稲葉さんのサッカー女子日本代表に関する議論も重要だ。
第3章の1は柔道に関する議論。よく知られているように,日本のオリンピック史にかかせない嘉納治五郎が現在の柔道の形を作ったことは重要だが,そのこととオリンピック種目としての柔道を論じたものは意外に少ないように思う。この著者は元オリンピック柔道選手だった人で,個人的な経験も含めた考察は貴重。2は2012年ロンドン大会に関する多くの論文を発表している金子氏によるもので,英国の国家的スポーツ戦略とオリンピックを論じている。コラムはフランス人によるもので,柔道の国際化とフランスの状況を報告している。同じテーマは以前,中尾拓哉編『スポーツ/アート』でも学んだが,個人に焦点を合わせたその議論の背景を,本書から知ることができる。最後のインタビューは,編者2人が社会学者内田隆三氏に対して行ったものだが,憧れの社会学者へのインタビューにちょっと辟易している様子が伝わるもの。2018年に出版された『〈ニッポン〉のオリンピック』という論集では,内田氏に執筆してもらっている。まあ,広い社会史の中でオリンピックを位置づけるようなマクロ的視点も必要ですね。

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