【読書日記】『f visions』No.4 特集「東京五輪は何をもたらしたのか」
アジア女性資料センター編『f visions』2021年No.4 特集「東京五輪は何をもたらしたのか~フェミニスト視点で振り返る」94p.,1,800円.
以前紹介した雑誌『エトセトラ』の特集号「スポーツとジェンダー」と併せてこの雑誌の編集者&執筆者でオンライン・イベントがあったので参加した。その後,エトセトラブックスの書店に行ってこの雑誌を購入。読み終えてから大分経ってしまったが,簡単に紹介したい。
『エトセトラ』が新しい雑誌であるのに対し,それなりに歴史のある団体が発行する少し古臭い印象はあります。とはいえ,「世界が見えるフェミニスト情報誌」として誌名を変更し,今回が4号目とのこと。『エトセトラ』と同様に,この特集のために責任編集者として,本山央子さんと伊藤春奈さんが担当している。
特集にあたって:本山央子
2013→2021 東京オリンピック・パラリンピック年表
〈東京五輪を振り返る座談会〉PART①(9月28日開催)国内外の活動家とも連携して持続できた反五輪運動:いちむらみさこ・吉田亜矢子・京極紀子・葉山 慧(聞き手:本山央子)
東京五輪に招かざる外国人:稲葉奈々子
パラリンピックに思うこと:安積遊歩
オリパラ強行開催の暴力性――周縁化された介護現場と女たち:白崎朝子
「メディアの祭典」に利用される「LGBT」――東京五輪,そしてこれから:堀江有里
東京オリンピック・パラリンピックがもたらしたもの――森 喜朗発言により何が可視化されたのか:谷口真由美
天皇のオリンピック開会宣言はなぜ問題なのか:桜井大子
選別される人権と,マイノリティの政治:河 庚希
メディアの行方~「貧すれば鈍する」を乗りこえる政治のために:日比野敏陽
リオデジャネイロ五輪の負の遺産と女性たちの抵抗の力:下郷さとみ
〈東京五輪を振り返る座談会〉PART②(10月6日開催)「オリンピック産業」が残した問題を振り返る――フェミニズムが取り込まれないために:井谷聡子・いちむらみさこ(聞き手:本山央子)
東京2020大会におけるジェンダー暴力・ハラスメント:本山央子
フェミニスト視点からオリンピック反対の声を:小林伶佳
【データでみる】東京オリンピック・パラリンピック期間中の新型コロナウイルス感染等の概況
この特集号で私にとって収穫だったのはまず,一つ目の対談。ここには「反五輪の会」のいちむらみさこさんが入っている。いちむらさんはいろんなところに文章を書いていて,個人としての考え方はそれなりに理解できている。しかし,この「反五輪の会」は彼女一人でやっているわけではなく,むしろデモの映像などを観ると,いちむらさんは先頭に立ってスピーチをしているわけではない。この対談には反五輪の会からもう一名,吉田亜矢子さんが参加し,また「反五輪の会」と同様に東京2020オリンピック大会に反対し続けた「「オリンピック災害」おことわり連絡会」の京極紀子さんも参加している。そして,この2つの団体が五輪反対の声を上げ始めた当初から,時間が経つにつれて変化するようす,開催直前に反対の声が高まっていく様子が語られ,また女性としてこういう運動に加わることなどが語られる。対談にはそうした運動家だけでなく,学生の立場から運動に参加していくことになる人など,貴重な証言がある。
稲葉奈々子さんは新国立競技場建て替えに伴い立ち退きにあった霞ヶ丘アパートの調査もしている人だが,本誌では非正規滞在外国人の問題を論じている。ピアカウンセラーという安積さんはオリンピックの優生思想を論じ,介護福祉士の白崎さんは,五輪優先で進むワクチン接種などを疑問視する。牧師である堀江さんは上述のオンライン・イベントに登壇していたが,五輪に利用される性的マイノリティを文献つきで論じている。
東京2020大会の直前には組織委員会会長だった森 喜朗が女性蔑視の発言をして辞任した。本誌に執筆した谷口さんは森氏の発言の当事者であるラグビー協会の女性理事の一人だという。谷口さんは大阪芸術大学の客員准教授という立場になっていて,この文章は分かりやすいように書かれていない。ただ,この件をもってスポーツ業界の役職は解かれ,いい経験をしたとのこと。天皇について論じた桜井さんは「女性と天皇制研究会」と肩書にある。オリンピックと天皇制については天野恵一氏によって以前から論じられているが,当然男性優位の天皇制にあって,女性の立場からの議論もあってしかるべき。河 庚希さんは韓国人という立場でこのオリンピックを眺め,この文章ではエスニシティの観点から論じている。世界の祭典を謳いながら,開催国ではマイノリティのエスニシティは軽んじられる。
『エトセトラ』の執筆者は見事に女性だけだったが,本誌ではわずかに男性の執筆者もいる。京都新聞の日比野さんは特に女性の問題を論じていないが,五輪に対するメディアの立場を論じている。そういえば,京都新聞は積極的にオリンピックの負の側面を報じていたような印象がある。ジャーナリストの下郷さんはリオデジャネイロ2016年大会の状況を論じ,女性の運動家を紹介する。2つ目の座談会には井谷聡子が登場する。続いて,責任編集者の本山さんが執筆し,この大会で起こったジェンダー暴力・ハラスメントを総括する。小林さんは1ページだけだが,学生の立場から大会開催直前に行われた女性の立場による五輪反対運動を紹介している。
そうした活動のいくつかは私もYouTubeで見ることができた。反五輪の会などが細々とやっていた街頭での五輪反対のメッセージは開催直前にはさまざまな形で連帯し,特に女性たちが訴える姿は私にとって大きな希望に見えた。しかし,その後何事もなかったようにオリンピックが開催されたことには失望した。組織委員会のトップも橋本聖子になり,彼女に代わって五輪担当大臣が丸川珠代となり,東京都知事は小池百合子。開催側としてよく出てくる顔ぶれも女性が多かったが,この間,男たちは何をしていたのだろうか。彼らが女性を前面に立たせながら開催を強行したのだろうか。考えなくてはいけないことは多い。
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