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【読書日記】新外交イニシアティブ編『世界のなかの日米地位協定』

前泊博盛・猿田佐世監修,新外交イニシアティブ編(2023):『世界のなかの日米地位協定』田畑書店,204p.1,980円.

 

新外交イニシアティブは自身でもYouTubeチャンネルを持っているが,さまざまなシンポジウムを企画していて,別のチャンネルであるシンポジウムを聞いたことがある。そのなかでも,1977年生まれという猿田佐世さんの話が非常に魅力的で,珍しい苗字も相まって,一度で顔と名前を覚えた。私より年下であるが,新外交イニシアティブの代表を務めていて,弁護士であり,お子さんもいて,この団体の活動では海外でのロビー活動もされていて,著書もいくつもあり,国内では講演で飛び回る,そんな方。こういう人の活躍を見ると自分の人生って何だったんだろうと空しくなるが,その猿田さんが私の住む日野市に講演にやってくるというので聴きに行った。しかも,無料ということで,受付で売っていた著書の一冊を買うことにした。単著ではないが,つい最近までその存在すら知らなかった日米地位協定に関する本書を選んだ。
日米安全保障条約がいかにも不平等なものであるということは漠然と知っていたが,特に日本に駐留する米軍のいかにも不条理な振る舞いを許しているのが,この日米地位協定なるものの存在だということは,政治に関心を持ち始めたここ数年で知ることになった。本書は署名にあるように,日米地位協定を世界のなかで考えるという趣旨で,日本と同様に国内に米軍が駐留する国について,その地位協定を検討している。よく,日米地位協定について,「こんな状況は日本だけだ」なんて言い方がされるが,そこを具体的に比較している。なお,本書は基本的に猿田氏と1960年生まれという前泊氏の2人の名前しか出てこないが,本文自体は新外交イニシアティブのスタッフの手によって整理されたもののようだ。

『世界のなかの日米地位協定』発刊によせて
「旗国法原理」の呪縛を超えて「領域主権」確立へ
「対米従属構造」の解説――日米地位協定問題のポイント:前泊博盛
はじめに:猿田佐世
第一章 地位協定の概要
第二章 日本国内法の適用除外特権,米軍施設・区域の排他的管轄権
第三章 航空機・ヘリ事故時の対応
第四章 航空機訓練による危険・爆音
第五章 刑事裁判権及び身柄拘束
第六章 アメリカに対して損害賠償請求もできない現実
第七章 環境問題
第八章 米軍駐留経費負担
【インタビュー】1 普天間第二小学校 窓枠落下事故について
        2 米兵犯罪遺族の山崎正則さんに聞く
【コラム】
あとがきにかえて 対談「日米地位協定の質」:前泊博盛×猿田佐世
巻末資料 日米地位協定 条文

ちなみに,【コラム】は全部で10項目あり,本文中に挟まれている。上に,本書は国内に米軍が駐留している国がそれぞれどのような地位協定を結んでいるかという観点があると書いたが,主にはやはり第二次世界大戦で日本と同様枢軸国だったドイツとイタリアとなる。その他にも,アジア地域の同盟国である韓国や,ヨーロッパのベルギーとイギリスなどが対象となっている。なお,詳しくは説明しないが,基本的にドイツやイタリアは日本と同様の趣旨で戦後まもなく米軍が駐留し,現在までし続けている。やはり連合国軍の代表として,これら枢軸国に二度と戦争を起こさせないという大義名分がありながら,世界中で米国が「世界の警察」というプレゼンスを示してきたと思う。戦後間もない頃はドイツもイタリアもやはり日本と同様の不平等な地位協定を結ばされ,多くの事故が起こったという。ただ,戦後の占領下から主権を取り戻し,各国は自国で起こった米軍・米兵による事故・事件を教訓に,自国の主権を守るために闘い,競技し,地位協定の内容を変更していったという。日本でも,地位協定は日米安全保障条約というある意味抽象的なものの下に,具体的な内容を与えるもので,それらは頻繁に行われる会議によって具体化されてきたという。それであれば,逆に会議によって修正していくことができるのだ。日本以外の各国はそれを行い,自国の権利を取り戻すように変更してきているのだが,日本は全く変更されていないという。その結果が,米軍・米兵が起こした事故・事件に対して,治外法権的に日本政府・行政・警察・司法が関与できない状況を続けている。
もちろん,本書にはそうした,日本で起きた米軍・米兵による事故・事件の事例が非常に細かく整理されている。私も知っている有名なものもあれば,知らなかったことも多い。もちろん,沖縄で起きたものが最も多いのだが,それ以外も多い。なお,米軍はそうした日本の対応(抵抗せずに不平等状態を受け入れている)をいいことに,他国では駐留人数などどんどん減らしているのに,日本では減っていない。米軍施設数は数の上ではかなり急速に減っているのだが,小さい施設を整理しただけで,面積的に大きく減少しているわけではない。なお,【コラム1】は日米合同委員会の説明で,組織図も示されている。非常に事細かに分科委員会や部会を持っている。
日米地位協定の内容はほとんど変更されていないが,米軍・米兵による事故・事件の犠牲になった日本の民間人たちが黙っているわけではない。そうした民間人の働きかけと努力についても本書ではページが割かれていて,非常に重要な点である。本書には二つのインタビューが掲載されている。一つは沖縄で米軍機から小学校の校庭に窓枠が落下したという2017年の事故の当事者(小学校に子どもが通う保護者)へのインタビューで,特に沖縄では普通に生活しているだけの人が被害を受ける可能性が十分にあることを知らせてくれる。もう一つは神奈川県横須賀市で,2006年に一人の女性が米兵にまるで虫けらのように殴り殺されたという事件である。配偶者である山﨑正則さんへのインタビューである。本書にはその殺された様子が事細かに記載されているが,想像するだけで恐ろしい。米兵はその女性に道を聞くふりをして近づき,肋骨複数骨折,内臓破裂など遺体は原型をとどめていなかったという。米兵は女性から1万5千円を奪い,その後何事もなかったようにコンビニエンスストアで買い物をする様子が防犯カメラに写っていたという。当初は山﨑さん自身が警察に疑われ家宅捜査を受けたという。最終的に米兵が逮捕されたが警察からの謝罪はないという。加害米兵も逮捕はされたものの基本的には地位協定に守られているが,山崎さんは裁判を起こし,最終的に加害者には無期懲役が下された。しかし,収監されているのは日本の刑務所ではなく,米国で日本では考えられない待遇で生活しているという。私はこの事件を知らなかったが,このインタビューを読んだだけで忘れられないほどの衝撃を受けた。
なお,【コラム10】が「米軍基地を撤退させたフィリピン」と題されているように,フィリピンは米軍基地を撤退させたという。フィリピンは長らくスペインの植民地だったが,その後米国に併合された第二次世界大戦時に日本の占領下にあったが,終戦後にまた米軍の統治下となり,独立したのは1964年。そんな,世界地図的にも沖縄と近い位置にあり,日本以上にアメリカとの関わりの深いフィリピンで米軍を追い出すのに成功するというのは大きな希望でもある。もちろんフィリピンと日本とでは政治体制が大きく違うが,日本も政権の意向次第で,少なくとも米軍基地を大幅に減らしていくことは可能なのだという希望を与えてくれる。しかし,現状は全く反対で米軍基地を減らすどころか,昨今の日本ではそれを補完するように自衛隊基地を強化している。まあ,ともかく政権交代しか道はないかなと思う次第。

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