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【読書日記】樺山紘一編『世界の旅行記101』

樺山紘一編(1999):『世界の旅行記101』新書館,286p.1,800円.

 

樺山紘一氏の著作は大学院時代に一冊読んだ記憶がある。ちょっと縦横比が変則版の書籍だったことまで覚えているが,書棚には見当たらない。記憶違いだったかもしれないが,本書を古書店で見つけ,迷いなく購入した。少し前に,トラベル・ライティング研究関連の文献をいくつか紹介していて,前川健一『旅行記でめぐる世界』(2003年,文藝春秋)について書いた(と思っていたが,途中で頓挫していて,先ほど簡単に書き終えてブログに公開したところ)。こちらは戦後日本人が海外旅行をして日本語で書いた旅行記40冊を紹介しているが,本書はギリシア・ローマ時代から,日本語で読める文献なのでどうしてもヨーロッパと日本が多いが,それ以外の地域も含む101冊を対象としている。
編者の樺山さんは「旅行記を読むということ」と題された4ページの序文を書いているが,本文は執筆していない。54人の執筆者が,基本的には1冊につき2ページの文章,必要なものについては地図や図版を1ページ掲載するという形でまとめられている。これだけの範囲にわたって,歴史学を中心に世界各地の地域研究,文学者,人類学者,民俗学者と多様な執筆陣を集めて編纂する作業はさすが樺山さんという感じ。なお,地理学者も若干名います。石山 洋さんはチェリー=ガラード『世界最悪の旅』というイギリス人による南極探検記を紹介している。竹田 新さんはイブン・ジュバイル『旅路での出来事に関する情報の覚書』という,12世紀のイスラーム教徒のメッカ巡礼記を紹介している。どちらも地理学者として知っていた人物ではない。
私もとある大学で,ヨーロッパの旅行記・ユートピア文学を講じる授業を長年してきていることもあり,受講生にも平凡社「東洋文庫」のなかの一冊を読むようなレポートを課してきた。そんなこんなで,それなりに知っているつもりではいたが,本書で取り上げられた書籍は知っているのがせいぜい4割程度で,まだまだ知らないものは多い。そして,「東洋文庫」の出版は本当に数多く多様で,本書で取り上げられるものも半分以上は東洋文庫のものではないかと思うくらいだ。

I ギリシア・ローマ旅行記
II 東洋旅行記
III 大航海時代
IV 宗教と旅
V 探検の時代
VI 旅行文学
VII 外国人と日本
VIII 日本人の旅行記1――江戸時代まで
IX 日本人の旅行記2――近代以降

ということで,101冊というとそれほど多くないとは思うが,こういう場で紹介しきれるほどではなく,本当に日本語で読めるものに限定しても思ったよりも多様だなということを思い知らされた読書だった。私が主に触れてきたのは「III 大航海時代」と「V 探検の時代」であり,平凡社「東洋文庫」の存在を知ってから「II 東洋旅行記」について少しずつ知るようになった。ここにはマルコ・ポーロの『東方見聞録』も入っているが,この有名な本に隠れて有名ではないものの存在も知ったし,また特に少し前からきちんと読んでみたいと思っていたイブン・バットゥータは重要である。私が旅行記・ユートピア文学の講義をし始めた2000年代全般から世界の状況も大きく変化し,欧米中心から新興国の発展がめざましく,社会科学のなかでもそうした地域への注目が著しい。世間では,特に日本の政治においては,もうすっかり日本の地位が没落したことを認めたくないのか,米国追随の状況が続いているが,米国中心の世界と,中国,旧ソ連という意味におけるロシアではなく,BRICSの一員としてのロシア,そしてイスラーム諸国等との対立を軽減していくためにも,世界史の理解を改めていく必要性を強く感じる。
そういう意味でも,旅行記というのは重要な存在のように思う。旅行というのは発地と着地とがあり,その二つの場所間の関係があって初めて成立する。また,点と点を結ぶ現在の航空機による移動とは異なり,徒歩なり船なりで線として結ばれる二地点間の旅程も大きな意味を持つ。地形や気候という自然地理的条件。安全に旅を行えるかという通貨地域の政治的・宗教的状況。それらを理解するためにはまさしく地理学が重要であり,トラベル・ライティング研究に地理学が寄与する役割は非常に大きいように感じる。
そういう意味でも,本書は基礎的な情報を与えてくれていて,事典のようにいつでも参照し,原典にあたっていく,そういう指針を与えてくれる。とはいえ,一作品2ページという制限があり,また著者が多様で,各項目の書き方がまちまちであるのは難点だが,まあ,致し方がない。


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