【読書日記】赤旗編集局編『日韓の歴史をたどる』
赤旗編集局編(2021):『日韓の歴史をたどる――支配と抑圧,朝鮮蔑視観の実相』新日本出版社,140p.,1,690円.
最近,私が所属する支部に新入党員が加わった。その人に入党祝いということで『日本共産党の百年』をプレゼントすることになったそうだ。私が入党したのは2022年の10月だったが,「そういえば成瀬さんの時はコロナだったこともあって差し上げていませんでしたね。」ということで,「『日本共産党の百年』要ります?」ときかれた。私はタブロイド版をもらっていたので,「だったら同じような値段で別の本がいいです。」ということで,自ら新日本出版社(日本共産党関連の書籍を扱う出版社)のサイトで見つけ出したのが本書。
赤旗編集局による編集だということは知っていたが,実際に手にしてみると,本書は2019年4月16日から2021年1月13日まで『しんぶん赤旗』の文化面の32回シリーズ「日韓の歴史をたどる」を一冊にまとめていたものだということを知る。この期間はまだ私は日刊紙を購読していなかったし,ちょうどよい。執筆者の所属も以下の目次では示したが,やはり大学の名誉教授(要は,定年退職されて比較的時間に余裕がある方)が多いが,現役の教員もいて,なかには1980年代の生まれもいる。大学教員だけでなく,在野の研究者や名前だけしか分からないが,在日の方,あるいは韓国人も名を連ねている。新聞の記事ということで,その多くが4ページで写真や図版も含んでいて読みやすい。もちろん,説明が十分ではないという印象の残る文章も多いが,その辺りは新聞の編集者とのやり取りの中で,読者層を想定して,これだけ著者の多様性があるにもかかわらず,一定の知的レベルで揃えられているのはさすが新聞の編集という感じがする。
はじめに
I 侵略の始まりと日清戦争
江華島事件 計画的な武力挑発,朝鮮侵略の一歩(吉野 誠:東海大学名誉教授)
日清戦争 農民反乱を機に朝鮮制覇目指す(中塚 明:奈良女子大学名誉教授)
東学農民戦争 日本軍の住民虐殺の始まり(井上勝生:北海道大学名誉教授)
東学農民軍の遺骨 掘り起こされた農民革命(井上勝生)
王后殺害事件 国権回復恐れ精力狙った日本(金 文子:朝鮮史研究者)
II 日露戦争と「韓国併合」
日露戦争 韓国の中立宣言を軍事力で圧殺(金 文子)
保護国化 内政に介入,外交権も奪う(糟谷憲一:一橋大学名誉教授)
「第1次日韓協約締結の記念写真」の誤りについて 『図説国民の歴史』のミス引き継ぐ(金 文子)
「韓国併合」“百年の長計”「帝国版図」に(糟谷憲一)
武断政治 政治的権利奪い憲兵が日常支配(糟谷憲一)
III 独立求める朝鮮人民のたたかい
義兵戦争 全土蜂起を虐殺・焼き払う(愼 蒼宇:法政大学教授)
朝鮮蔑視観の形成 「文明と野蛮」日清戦争で決定的に(趙 景達:歴史研究者)
三・一独立運動 全土に拡大,200万人が参加(李 省展:恵泉女学園大学名誉教授)
IV 「同化政策」と収奪の強化
「文化政治」 民族運動抑えつつ同化図る(松田利彦:国際日本文化研究センター教授)
土地の収奪 強引な国有化で強力な地主制(洪 昌極:日本学術振興会特別研究員PD)
米の収奪 日本社会の矛盾を朝鮮に転嫁(洪 昌極)
関東大震災 虐殺招いた朝鮮蔑視と敵視(加藤直樹:ジャーナリスト)
「併合」下の教育 被支配は必然と教科書で説く(佐藤広美:東京家政学院大学教授)
満州侵略と朝鮮 軍事拠点化で地域を破壊(加藤圭木:一橋大学准教授)
労働者移動紹介事業 戦時下の強制労働動員の原型(加藤圭木)
V 「皇民化政策」がもたらしたこと
「皇民化政策」 権利なき「帝国臣民」(水野直樹:京都大学名誉教授)
植民地公娼性 日本軍「慰安婦」制度に結びつく(宋 連玉:青山学院大学名誉教授)
朝鮮人「慰安婦」 動員は植民地支配が可能にした(藤永 壯:大阪産業大学教授)
創氏改名 天皇への忠誠迫りながら差別維持(水野直樹)
米の供出 窮迫した農民が内外へ流浪(樋口雄一:朝鮮史研究者)
強制労働動員 武力を背景にまともに賃金払わず(樋口雄一)
VI 戦争協力への抵抗
民衆の抵抗 「白い旗」を掲げたままに(樋口雄一)
朝鮮人学徒兵 玉砂利投げて抵抗,脱走も(秋岡あや:韓国 水原外国語高校教師)
光復運動 “時局”に背,怠業で抵抗した民衆(趙 景達)
VII 植民地支配責任を問う
在日朝鮮人 帰還後の生活難を恐れ,とどまる(鄭 栄桓:明治学院大学教授)
在日朝鮮人の権利 治安乱す存在とみて登録・管理(鄭 栄桓)
植民地支配責任 戦後処理から抜け落ちたもの(板垣竜太:同志社大学教授)
「反日種族主義」に見る韓国 日韓合作の歴史修正主義(鄭 栄桓)
本書の内容はもちろん,歴史の教科書には項目として登場するものが多いのだが,そもそも高校までの歴史の授業をしっかりと身につけてこなかった私にとってはまさに必要なものだった。以前,YouTubeで今日の悪化した日韓関係を田中優子氏が解説するものを視聴し,そのなかで江戸研究者である田中氏が強調していたのは江戸以前の日本の朝鮮半島との長い関係史を理解しないと,日清戦争,日露戦争を経た朝鮮半島併合の歴史的意味を理解できないというものではあった。ただ,本書ではそこまで遡ることはなく,江華島事件から始まる。新聞のシリーズ記事ということもあり,時系列に沿って解説されていることも嬉しい。
本書を読むと,本当に日本国籍を有する者として耐え難い罪の意識を感じる。私は民族性とか国民性というものは信じないが,国民として過去のその国の政府の悪事に対する責任は残ると考えている。なので,これだけ酷いことをした日本人の血を私も受け継いでいるとか,今の政府も同じとか,そういう言い方はしない。しかし,やはりかつての日本政府の,そして多くの日本兵の残虐さには恐ろしいものを感じるし,同じように現在の日本政府の人権軽視には同じ残忍さを感じるし,また自衛隊には今のところあまり感じないが,警察の残忍さ現在でも垣間見る場面がある。同じようなことはアメリカ連邦政府や米軍兵にも感じるので,やはり国民性や民族性の問題ではなく,立場性の問題という理解ができるかもしれない。国際政治におけるその国家の立場,その国家の在り方を決める政府の立場,政府の在り方における軍隊の立場。そういう意味でも,日清戦争から太平洋戦争に至るまでの日本,政府,軍隊の立場のあり方を今一度反省し,今現在がそれに近い状態になっていることを認識する必要がある。現政権がそのことを反省していないのであれば,政権を変えるべきだし,変わった政権が同じような立場を獲得する兆しがあれば,それもまた変えていかなくてはいけない。
それはそれとして,本書の読書は江華島事件から太平洋戦争に至る時代の流れが,それまでは事件の名称としか知らなかったことや,ほとんど知らなかった事実が時代の流れをつないでいったということをしっかりと理解させてくれるものだった。特に,朝鮮半島住民側の動きとして,東学農民戦争や三・一独立運動,「光復運動」とされている新興宗教など知らないことも多かった。それから,これは最近知ったことだったが,日本統治下の朝鮮半島における農民と土地の問題である。まさに,ユダヤ人がパレスチナの土地に入植地を増やし,イスラエル国土としていったように,方法は違えど朝鮮人の土地を奪いそこで稲作をさせ,収穫された米を日本に奪っていくというやり方で,朝鮮人の生活を奪っていった。戦局が進むにつれて,日本では主たる働き手が兵士として奪われるなかで今でいうところの国土強靭化が必要とされ,そのための労働力として朝鮮半島から強制連行してくるという流れも,本書の各章による説明でよく理解できる。本書では記述はそれほど多くはないが,従軍慰安婦の問題も同じような流れで理解できよう。朝鮮半島での日本の植民地政策への抵抗を抑圧するという目的だけでなく,朝鮮半島で植民政府が行った教育や文化政策についてもしっかり説明されている。
そして,本書を読んで何よりも驚いたのが,日本での嫌韓を生み出した歴史修正主義が,日本単独の運動ではなく,韓国自体がそこに加担していた(もちろん,政府がではなく市民的な運動のようだが)ということだ。韓国も建国以降,軍事政権から民主化を経て経済成長へという日本以上に激しい変容のなかで,市民の側もさまざまな形で政府の動向に反応していったということだろう。そして,この歴史修正主義の流れとして,現時点に至るまでの流れを整理していて,日韓関係の1世紀以上にわたる歴史が本書でコンパクトに理解できる。
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