【読書日記】加藤直樹監修特集「関東大震災とジェノサイド」『部落解放』843号
加藤直樹監修(2023)特集「関東大震災とジェノサイド」『部落解放』843号,解放出版社,130p.,600円.
先日紹介した性暴力特集号と一緒に購入した『部落解放』の一冊。昨年(2023年)は関東大震災から100年ということで,私が視聴しているYouTubeでも関東大震災における朝鮮人虐殺に関する動画が多く,私も都庁前で開催された集会にも参加した。知れば知るほどひどい話で,関東大震災そのものよりも強く私の関心を引いた。とはいえ,今回の監修者である加藤さんの著書を始め,関東大震災における虐殺に関する著作はけっこうあるのだが,未だ読んでいなかった。とりあえず,動画視聴では振り返りがなかなかできないので,こうした活字メディアでしっかりと学びたい。
加藤直樹「小池都知事「追悼文送付拒否」問題の起源と本質」
神林毅彦「虐殺に政府は関与したのか?」
藤田 正「複合差別による虐殺「福田村事件」の真相――「朝鮮人誤認説」はなぜ流布されたのか」
朴 順梨「朝鮮人虐殺の真実を語り継ぐ「ほうせんかの家」の軌跡」
朴 順梨「今を生きる若者たちが虐殺を忘れないために――「ペンニョン」の取り組み」
ファン・モガ「ジェノサイドが殺したものは何か?SF小説の執筆を通して朝鮮人虐殺の意味を考える」
巻頭で監修者の加藤さんが取り上げている,小池都知事「追悼文送付拒否」問題は,私が参加した都庁前の集会の根源である。関東大震災の際に日本人が朝鮮人や中国人,日本人でも社会主義者やアナーキストが殺害されたというのは紛れもない事実だが,それを小池知事は否定はしないが,肯定もしない。あれだけ差別発言をしていた石原元都知事ですら,朝鮮人被害者に対する追悼文を送っていたのに,小池都知事は震災で亡くなった多くの人たちと一緒に追悼するといって,殺人で亡くなった人たちを災害で亡くなった人たちと一緒くたにしている。そして,この記事では小池知事がそういう決定に至った経緯を説明している。「すべては右翼団体「そよ風」から始まった」とあるが,決定的に重要なのはその右翼団体と小池氏を媒介した古賀俊昭という自民党の都議会議員の存在である。この人はすでに亡くなっているが,私が現在住んでいる日野市選出の都議会議員だった。今でも街には立て看板が残っているが,明らかに右翼的である。2003年には有名な七生養護学校性教育攻撃の加害者である。
目次に書いたように,この特集では福田村事件の記事もある。福田村事件は森 達也監督の映画が昨年公開されたが,残念ながら見逃してしまった。この記事の著者はその映画の理解を誤認説としている。映画では,下現在の野田市に含まれる福田村を訪れていた香川県からの行商団が讃岐弁をしゃべっていたことで朝鮮人と疑われた,としているが,その説を追悼慰霊碑保存会の人の話として「加害者側が都合よく流布させた言いわけ」(p.33)としている。行商団は,「香川県が発行した行商鑑札を携えていた」(p.35)ということで,薬売りの行商であることが分かるようにしていたという。そして,「行商は香川県の部落産業であった」(p.35)ということで,この事件を複合差別によるものだとしている。
本特集の後半は朴さんによる「ほうせんか」の活動に充てられている。「ほうせんか」についてはNoHateTVでも取り上げられてある程度知っていたが,詳しく解説されている。ほうせんかという団体は,こちらも学校教諭の方から発した運動だが,墨田区の荒川河川敷での虐殺現場で遺骨を発掘するという活動から始まっている。しかし,調査の結果虐殺された人々の遺骨は既に別の場所に移動されていて,次には追悼碑を建てる運動に変わり,最終的には追悼碑は民家に建てられたのだが,元々そこにあった建物を利用して虐殺の史実を語り継ぐ資料館と追悼集会として運動は続いている。二つ目の記事では,運動の担い手が高齢化するなかで,追悼碑を中心に若い世代が運動に関わってきているということが希望を持って語られている。
最後の記事である,韓国生まれで現在は日本永住者である小説家によるSF小説の話で非常に興味深い。また,今号も特集以外の記事も非常に読み応えがあり,部落関係だけでなく,反戦など,人権に端を発するさまざまな問題に目配せしていて非常に充実した雑誌である。
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