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【読書日記】熱田敬子監修「組織・運動と性暴力」『部落解放』839号

熱田敬子監修(2023)特集「組織・運動と性暴力」『部落解放』839号,解放出版社,128p.600円.

 

Xに名称変更してから評判が悪く,アカウント削除をする人たちも多いTwitterだが,私のアカウントはなぜか平和で,一時期けっこうウヨった人からの攻撃もあったが,最近はほとんどない。なので,私にとっては未だ有用な情報源である。私がフォローしているあかたちかこさんが執筆したということで本誌の情報が流れてきて,熱田敬子さんが監修ということもあってとりあえず,チェックはしていたものの忘れそうになっていて,急いで購入した次第。

熱田敬子「ポスト#MeTooに考える組織・運動・社会と性暴力――女性=普遍的な被害者という想定を超えて」
松元ちえ「被害者を取り残さない支援とは――長崎市幹部による性暴力事件から考える」
梁・永山聡子「陣営理論と加害者の自死を乗り越えて――朴元淳前ソウル市長の威力による性暴力事件」
宮崎浩一「日本社会における「男性の性暴力被害」が置かれる状況」
あかたちかこ「metooじゃねえよ」

この雑誌の存在は知っていたと思うが,購入してしっかり読んだのは初めて。とりあえず,目次は特集記事だけにしたが,通読して学ぶことが多かった。
監修の熱田敬子さんは,以前『現代思想』に掲載された大学非常勤講師に関する論考が非常に心に残り,研究者としてもアクティビストとしても名前をしっかり覚えていた。熱田さんの序文では,MeToo運動の簡単な歴史と,中国の状況が冒頭で話題にされ,特集の各論考の紹介,後半では日本軍による性暴力,性奴隷について,戦後の裁判とその支援について論じている。ジャーナリストの松本ちえさんは,女性記者が長崎市の幹部職員から,取材を利用した性暴力を取り上げている。梁・永山さんは韓国やフェミニズムに関する社会学者であり,ここでは前ソウル市長による秘書に対するセクシュアルハラスメントを取り上げているが,加害者がかなり評価の高い政治家で,この事件の後に自殺しているということで,複雑な問題を論じている。
決して特集記事の数が多くないなか,男性が受ける性被害についても掲載しているところがすごい。宮崎さんの記事は,欧米の先行する流れも受けて,日本の性暴力に関する法律の変更により,男性の性被害についても処罰の対象になってきたことを教えてくれる。日本の法律には成立当時の常識が反映されているものの,その常識が変化しても改正されないものが多い。性暴力に関しては遅々としてではあるが改正されてきた。しかし,法以外の部分で未だ市民の意識改革が必要な部分も多い。あかたさんの文章はさすがだ。社会において,被害者救済は非常に重要。一般市民による社会的なものと法制度によるもの,両方必要だが,とりわけ犯罪そのものをなくしていくには一般市民の理解が不可欠。しかし,被害者・当事者が抱える問題は,そうでない人がそう簡単に理解できるものではない。気安く「分かる」といったり,「連帯する」というのは軽々しく,また実際に周囲に被害者・当事者がいた場合に,どう接したらよいのか,難しい問題はどうしても残る。
さて,本誌は誌名から分かるように,基本的には日本社会に根深く残る被差別部落問題を専門とする雑誌。関連する書籍の紹介は充実しているし,映画や音楽といったエンタメの記事もある。座談会で興味深かったのは,『シリーズ 映像でみる人権の歴史』というDVDの制作者を招いた座談会だ。2014年から発売が始まって,全10巻が2022年に出て完結したとのこと。室町時代から現代までの日本で差別を受けた人々の歴史を映像化したもので,大学の教員と小学校の教員が監修したもので,座談会には現役の小中学校の先生が参加している。
https://www.toei.co.jp/entertainment/education/detail/1233607_3490.html
このDVDは機会があれば見てみたいと思うし,被差別部落についてはまだまだ知らないことが多いから,本誌の他の号をいろいろ読んで学びたい。

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