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【映画日記】『14歳の栞』『オッペンハイマー』

2024年317日(日)

立川キノシネマ 『14歳の栞』
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歳の息子と一緒に観に行ったドキュメンタリー映画。14歳はおよそ中学二年生に当たるが,とある公立中学校のあるクラスに密着し,全生徒35人の姿を追ったもの。この映画では,35人全員を一人ひとり実名を出して主人公にしている。そこまでするのはなかなか珍しいこともあって,息子は今まで観た映画のうちで指三本に入ると気に入った様子。このクラスには車椅子の生徒が一人いて,不登校の生徒も一人いる。外国にルーツのある生徒はいなかったし,LGBTを公言している生徒もいなかった。取り上げる生徒の順番にはそこそこ制作者側の意図を感じた。はじめの方に登場する生徒は活発な子で,こんなに楽しいクラスはないと主張する。しかし,徐々にクラス全員がそうは思っていないことが,一人ひとりの発言によって明かになり,場合によってはその盛り上げようとする人たちの存在を疎ましく感じてさえいる。そして,車椅子の生徒や不登校(実際にはそこそこ学校に来ているが,いわゆる保健室登校のように,通常のクラスには来ない)の生徒にとっての困難も控えめにだが明らかにされる。一人ひとりがそれぞれの思いで学校生活を送っていて,部活動や放課後などの場面も描かれる。カメラの前で子どもたちがかなり自然に振る舞えるほど制作者は密着してきたとはいえるが,それでも子どもたちはかれらに踏み込ませない領域を保ってもいたし,そうした距離感が面白い。とはいえ,第三者として聞き取った子どもたちの声が,この映画を当事者が観た時に,自分たちも聞いてしまうわけだから,この映画が本人たちの今後の関係にも関わってしまうという点では罪深いものでもあると思ったりもしてしまう。
https://14-shiori.com/

 

2024年47日(日)

府中TOHOシネマズ 『オッペンハイマー』
毎年8月上旬に,原爆が投下された広島と長崎を持ち回り会場として,原水爆禁止世界会議が開催されている。党支部の市議会議員から是非行ってみてくださいと昨年打診をされたが,旅費など支部からのカンパを募るが,子ども連れで行くとそこそこの自己負担もあるので,お断りした。ただ,今年もお願いされていて,私一人でも行くことになりそうだ。ということで,原爆関連映画として,アカデミー賞受賞という話題性もあるので,観ておくことにした。この作品についてはすでにポリタスTVでも関連動画を観ていたので,しっかり学びたいと思った。
とはいえ,私はオッペンハイマーの名前すら知らなかった。映画を観ると,太平洋戦争を早期に終結させ,多くの米兵の命を守ったある種の英雄として語られ,それと同時にさまざまな形で非難され攻撃もされた。つまり,米国の現代史に一つの名前を刻んだ人物であるが,どれだけの日本人が原爆の父としての彼の存在をしているのだろうか。まあ,そんなこともあるが,上述したように事前に関連動画も見ていたのだが,実際に映画を観て知ることも多かった。私にとって非常に興味深いのはオッペンハイマーが一時期米国の共産党の集会に足しげく通い,元党員の妻と愛人を持っていたことだ。なぜ彼が共産主義に傾倒したのかは詳しく描かれないが,大学内でも組合活動に精を出している。学者としては欧州に留学し,米国ではアインシュタインの影響か,量子力学が軽んじられていたようだが,オッペンハイマーは欧州で量子力学を学び,それを米国に持ち込むことによって原子力研究を推進する主体となる。そして彼はアインシュタインと同様,ユダヤ人でもあった。
米国にとっての原爆のような大量破壊兵器の開発は,実際に使用するかどうかは別にして,当然第二次世界大戦の終結の切り札として, その存在意義(今日でいうところの抑止力)を有するものだった。念頭に置いていたのはドイツであり,ドイツに大量破壊兵器を先に開発されてはならない,ということと同じ同盟軍ではありながらソ連に先に開発されてしまっては,戦後の国際政治の主導権が握れない。そういうことで開発を急がされたものだった。ユダヤ人であるオッペンハイマーは当然対ドイツについてはうってつけだが,共産主義者であるという点では,戦後ソ連のスパイという容疑をかけられる存在でもあった。ともかく,ようやく米国での原爆が完成するというところでドイツは降伏した。本来であれば,その大きな目的を失ったわけだが,日本はまだ降伏していない。しかも,米国との戦闘において圧倒的に不利に追い込まれてもなお,降伏する兆しすらないということで,原爆使用のターゲットとなっていく。この時点で,日本は対等な交渉相手としては見なされていない,理解不能な民族という印象を受ける。だからこそ,原爆の実験台としては日本はちょうどよかったのだろう。この映画では,なぜ二発目が長崎に落とされることになったのかは描かれない(そもそも,実際の投下の決定はオッペンハイマーなどの開発者の手からは離れている)。トリニティという名で有名な米国での核実験では,マンハッタン計画のメンバーなどが数キロの地点から爆発する様子を目撃しており,爆風も受けている。かれらに被曝の被害があったかどうかは不明だが,この頃は放射能の人体への影響についてはそれほど議論されていなかったように思う。実際に広島に投下され,時が経つにつれて被害者が増えていくことが知られ,放射能の存在が分かってきたのかもしれない。いずれにせよ,そうした実際の人間居住地への原爆の投下による被害の大きさにオッペンハイマーはかなり心を痛めたようで,戦後は軍縮の意見を持つようになったようだ。ともかく,映画としては情報が多すぎて理解が追い付いていないが,今年の原水爆禁止世界会議ではいろんなことを学んできたい。
https://www.oppenheimermovie.jp/

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