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【読書日記】反差別国際運動(IMADR)編『「戸籍」人権の視点から考える』

反差別国際運動(IMADR)編(2023):『「戸籍」人権の視点から考える』解放出版社,145p.1,500円.

 

私が使っていたかなり特殊な携帯電話が3Gで,契約していたYahoo!モバイルでは今後使えなくなるということで,いろいろ探した結果,かつてNTTDocomoが作っていたカード式携帯電話が4Gまでは対応できると言うことで,電話機自体の買い替えと,家族でのDocomoへの乗り換えをした。ついでに,ソフトバンクに移行していたインターネット回線も乗り換えることになり,古巣のNiftyに戻ることになった。もろもろの手続きで,DocomoからJCBギフトカードをいただいた。意外に使えるお店は少なく,わが家の場合には書籍代として書店で使うのが一番効率的ということで,書店で使っている。紙のギフトカードなので,千円単位でおつりがでない。息子が買いたいコミックは千円に満たないので,私も何か買いたいと思い選んだのが本書。
以前から戸籍については知りたいと思っていた。本書は編者である反差別国際運動(IMADR)が出している【現代世界と人権】というシリーズの27冊目。本書はIMADRが開催している連続講座を収録したもので,2022年の6月から12月にかけて7回行われた講演で,先日もポリタスTVに出演していた選択的夫婦別姓の実現で運動をしている井田奈穂さんの講演もあったようだが,本書には収録されていない。また,最終回である第7回は受講者によるフリートークということで,こちらも収録されていない。

はじめに
01
 戸籍から個籍へ,そして人権侵害をおこさない仕組みへ:二宮周平
02
 日本の植民地支配と戸籍――『民族』と『血統』とは:遠藤正敬
03
 なぜ韓国社会は戸主制/戸籍制度を廃止したのか――被植民地秩序,家父長制解体をめざす市民の連帯から学ぶ:梁・永山聡子
04
 無戸籍問題とは何か:井戸まさえ
05
 戸籍とマイナンバー制度――国は何を考えているのか:遠藤正敬

さて,戸籍という制度は,世界的な国籍や市民権とは異なっていることは知っていた。戸籍自体は日本で長い歴史を有するものだが,かといってその長い伝統のまま今日に至るわけではなく,今日的な意味合いにおいては明治期の家制度が大きいというところまでは知っていた。そして,現在議論されている「選択的夫婦別姓」の実現に対する大きな妨げの一つになっているということもなんとなく分かってはいるが,イマイチ詳しくは分からないという状況。なお,岸田首相はこの件に関する答弁では必ず「別姓(べっせい)」ではなく「別氏(べつうじ)」と呼んでいることも気になっていた。調べてみると,この制度は政府的には「選択的夫婦別氏制度」と呼んでいるそうだ。まあ,別姓の対義語は同姓なので,同じ婚姻に関して問題になっている同性婚と呼び方として混同しやすいので,「べつうじ」の方がいいかなとは思うが,やはり「姓」と「氏」は違うような気もするので,政府が変更したくないというこだわりが「氏」にはあるのかもしれない,というところは覚えておきたい。
さて,本書を一通り読んだが,やはり難しい。戸籍とは何かということを歴史的に理解し,他国との違いを理解するというのは簡単ではない,ということが本書から分かった。本書はあくまでも講演録なので,その辺りの限界もあるかもしれない。ただ,戸籍制度によって現代日本に生きる私たちが被る不便,場合によっては人権侵害的なものがあるというのは間違いない。そして,一つだけ確認しておきたいのは,日本において,天皇家と皇族は戸籍を持たないということ。戸籍というのはあくまでも天皇を頂点とする社会のものであり,戸籍を有するのは天皇に仕える臣民であるということらしい。先に書いたように,今日の戸籍制度は明治時代に確立した家制度の名残であり,さまざまな制度が敗戦によって解体され,また戦後の高度成長を経て日本社会における家族のあり方は大きく変化したにもかかわらず,戸籍制度が温存していることに問題の根源があるようだ。加えていうならば,自民党政権,特によく言われるように第二次安倍政権移行に強まっている戦前回帰の傾向において,その戦前の家族観に固執する一部の宗教右派と呼ばれる勢力が家制度と戸籍制度にも執着しているといえる。
巻頭の二宮さんの講演では,そうした戸籍制度の歴史を学ぶことができるが,二宮さん自身はそのタイトルにもあるように,家族単位での戸籍ではなく,国際的なスタンダードともいえる個人単位のものにすべきだと提案している。二宮さんは立命館大学の教員ということだが,戸籍を個人単位にすることで(当然,戸籍という名称の変更も伴うだろうが),多くの問題が解決するという。ここ数年,大文字の政治に関心を持ち始め(小文字の政治に関しては研究を始めたころから関心を持ってきたつもり),この政府による立法および法改正の過程を見てきたが,この政権がいかに学術的知を愚弄してきたのかがよく分かった。本書のように,人権尊重という立場に立脚して,歴史的経緯を踏まえて今日の日本社会における市民権のあり方に関する提言をしっかりと受け止めて政治をやってほしいとつくづく思う。
そういう意味において,02と03は関係していて興味深い。日本は先の大戦で台湾と朝鮮半島を植民地下に置いたわけだが,特にここでは朝鮮半島のことが論じられている。つまり,日本の戸籍制度は朝鮮半島に移植されたのだ。国籍という観点においては,広く論じられているように,植民地=日本の領土拡張下の住民は基本的に日本国籍を与えられるのだが,それは完全な意味での日本国民ではなく,準国民的な扱いということだ。そういう議論を,02が戸籍という観点から補強してくれる。そして,03は正直言うと講演ということもあり,話題があちらこちらと行って,私の理解はなかなか追いつかない。ただ,大まかにいえばタイトル通り,韓国では植民地時代に日本から強制されてそれなりには定着した戸籍制度・家制度を,独立解放以降に解体していったということだ。もちろん,韓国の戦後の歴史も順調に来たわけではなく,今日でも世界一の出生率の低さという問題を抱えている。しかし,市民と政府とが時に対立しながらもより良い方向を目指して変革の道を歩んできているということはいえると思う。日本の場合は市民の力はまだまだ弱く,政府はそれらを無視し,踏みにじり,をしてきても未だ許されてしまっている(誰も許してはいないのだが,根本的な処罰を下されない)。
04の話題は戸籍制度から生まれる現代の問題を各論的に扱ったもの。無国籍の実態はこれまでも少し知っていたが,本当に闇は広いと思わざるを得ない内容。夫婦別氏制度や同性婚の問題,そして今国会で審議されている共同親権の問題など,まさに市民からその問題が指摘されているにもかかわらず,政府がその状態をさらに悪化させようとしていることに大きく関わっている。これも二宮さんが提案する個籍によって解決の道筋が見えてくるように思う。そして,最後の05はまさに国民全員に関わる現代的な問題としてのマイナンバーを取り上げてくれている。ここは本当に誰もが身につまされる思いで読むことができるだろう。戸籍をめぐる問題は,本当に多すぎて,個別の問題に関心が集中してしまいがちだが,その根本としての戸籍制度を変革するという議論を始めるべきだと思わされる読書だった。まずは,政権交代だ。

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