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【読書日記】チョーカー, J.『歴史和解と泰緬鉄道』

チョーカー, J.著,根本尚美訳(2008):『歴史和解と泰緬鉄道――英国捕虜が描いた収容所の真実』朝日新聞出版,295p.1,500円.

 

1年前に買って読んだ本だが,読書日記を書くのを忘れていた。授業で使おうと思って自分の読書日記を読もうと思ったらなかった。今回は気づいたけど,けっこうこういうのあるのかもしれない。ただ,本書についてはあまりにもインパクトが強かったので,読み直さなくても書けそうだ。
なお,私が泰緬鉄道について知ったのはつい最近。安田浩一さんと金井真紀さんの『戦争とバスタオル』(亜紀書房,2021年)で登場した。泰緬鉄道は第二次世界大戦中に日本が侵出した東南アジアで,タイとビルマ(現ミャンマー)の国境付近に建設しようとした鉄道であり,現在でも一部は使われているそうだ。安田さんたちの本では,その沿線に日本人がつくった温泉もあり,それに入りに行くことを口実に泰緬鉄道を観に行くたびだった。
本書は,日本軍のシンガポール侵攻の際に捕虜になった英国人による捕虜生活の記録である。しかも,この著者であるチョーカーは画家でもあったということで,当時の様子が絵画として生々しくも記録されている。そして,その記録だけでは現代日本の読者には不親切なので,巻頭に解説が,そして巻末には『帝国の慰安婦』の著者である朴裕河氏を含む座談会が収録されていて,なかなか貴重な本である。

解説 泰緬鉄道から歴史和解へ:小菅信子
手記 英国人捕虜が描いた収容所の真実:ジャック・チョーカー/根本尚美訳
 日本の読者の皆様へ
 序章
 第1章 19421月~2月 シンガポールの陥落
 第2章 19422月~10月 チャンギとシンガポールの労働収容所
 第3章 194210月 タイへの列車旅行と北部への行進
 第4章 194210月~19433月 カンユー鉄道建設収容所
 第5章 19433月~19446月 チュンカイ
 第6章 19446月~19458月 ナコーンパトム「病院」収容所
 第7章 「地獄」と「天国」の中間で
 第8章 バンコク,ラングーン,そして故郷へ
 訳者あとがき
鼎談 泰緬鉄道とアジア 小菅信子/朴裕河/根本敬

チョーカー氏による手記は年代順に整理されていて,シンガポールで捕虜になってから,泰緬鉄道の建設現場に行くまでの様子をしっかりとたどることができる。現地で描いたスケッチにもしっかりと描いた年が記録されている。戦争末期に日本に強制連行された朝鮮人労働者の話は,ここのところいろいろと情報を得ることがあるが,それと比べると著者たちの扱いのひどさはそれほどでもないように感じてしまう。もちろん,著者が白人だということ,朝鮮人労働者のことは実際の朝鮮人の視点で書かれたこと,語られたことを私が見たことはないということ(飯場の近くに住んでいた日本人の孫が聞き及んだ証言など),監督者が日本人ではなく朝鮮人という場合も多い,といった違った状況はあるが。とはいえ,もちろん待遇が良かったわけではない。そもそもが居住環境として,亜熱帯に位置するこの場所で,居住地に適しない建設現場の近くに掘っ立て小屋を建てて労働者たちを住まわせているわけだからひどい待遇だ。もちろん,十分な食糧はない。描かれる労働者たちはやせ細って皆うなだれている。一方で,小太りの監督官たち。
そして,本書で何よりも印象的なのは労働者たちの健康状態だ。飢餓や熱帯性潰瘍。特に潰瘍についてはそれによって腕や足の肉が削れ,重症の場合は骨が出てしまう。そうした様子を数多くスケッチし,また現地で手術もしていたようで,その様子も描かれている。1943年にはコレラも発症したようだ。過酷な労働をさせていた捕虜に対してであっても,一定程度の治療をしていたことはある意味で驚かされる。義足も作られていて,そうしたものも丁寧にスケッチされている。1944年に著者はバンコクに近いナコーンパトムの病院収容所に送れらているが,そこで著者が目撃した事実もなかなか興味深い。そこはイギリス人将校の指導下にあり,オーストラリア人も含む複数の医者がそこで得られる資材でできうる限りの医療を行っている。
泰緬鉄道は映画『明日にかける橋』で史実とかけ離れた描写がなされていたと書かれているが,私はこの有名な映画を観たことがないので,観ておきたい。また,幼い頃テレビで観て以来,ちゃんと見直していない『ビルマの竪琴』も見直したい。

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