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【読書日記】日本第四紀学会編『百年・千年・万年後の日本の自然と人類』

日本第四紀学会編(1987):『百年・千年・万年後の日本の自然と人類――第四紀研究にもとづく将来予測』古今書院,231p.2,200円.

 

今年から受け持った「地理学概論」の秋学期が始まった。地理学概論ということで,人文地理学だけでなく自然地理学の内容も含まなくてはならない。春学期は地理学史を講じることで人文・自然両地理学を扱うようにしたが,秋学期は地形学や気候学の話もしようと思っている。とはいえ,そんな素養は私にないので,学生時代に私自身が関心を持って取り組んだことを中心にシラバスを組み立てた。自然地理学を講じる際のメインにしようと思ったのが第四紀学。本書によれば第四紀学とは,「過去200300万年以来現在まで地球上でおこったいろいろな現象についての研究」(p.1)である。300万年というととてつもなく長く感じるが,地球の歴史46億年からすれば最近のことであり,新生代が第三紀から始まり,第四紀はその次のほぼ旧石器時代と重なる人類の時代でもあるらしい。本書が出た頃には「人新世」の言葉はなかったが,まさにそこにつながる議論ができるのではないかと思う。
ということで,日本第四紀学会の学会誌である『第四紀研究』から論文を選んで講義資料を作ろうと思っていたが,書籍の方が読みやすいと思い,ちょっとAmazonで探してみた。すると,見覚えのある赤い本書の表紙が出てきた。そう,これは私が学部生時代に地形学を専攻する同級生が持っていた本だった。目次を見てみても,当時私が通っていた東京都立大学の教員だった貝塚先生,町田先生の名前があり,かれらの授業をかろうじて私は受けたのだが,かれらの授業で出てくるような研究者がこぞって執筆しているのだ。ということで,他にもいろいろあったが,本書を購入して読んだ次第。

まえがき:貝塚爽平・加藤芳朗・小疇 尚
開会の挨拶:木越邦彦
1
 将来予測と第四紀研究;貝塚爽平
2
 第四紀の気候変動からみた将来の気候変動:鎮西清高
3
 第四紀の海面変化とその将来予測:米倉伸之
4
 気候変化と将来予測――最終氷期の気候変化と百年・千年・万年後の気候予測の諸問題:吉野正敏
5
 百年・千年・万年の未来予測――自身と地殻変動:松田時彦
6
 火山の爆発的活動史と将来予測:町田 洋
7
 海岸線の変遷:小池一之
8
 最終間氷期以降の植生史と変化様式――将来予測に向けて:辻 誠一郎
9
 日本の土壌の過去・現在・未来:松井 健
10
 人類――この予測不可能なるもの:香原志勢
閉会の挨拶:大森昌衛

私は受験で地理学を専攻できる大学を選んだが,実は地理が得意だったわけではない。今から思うと別に好きだったわけでもないように思う。どちらかというと,数学の問題を解いた時の喜びのようなものの方が好きだった。大学を選ぶ際に,私は理系だったので,地理学専攻といっても人文地理学なんて分野は知らず,地形学か気候学か,自然地理学しか頭になかった。工学部よりは理学部かなと思い,数学科,物理学科,化学科,生物学科といったところが理学部の定番だが,これらはどこの大学にも大抵はあり,そういう意味でマイナーな地理学科がある東京近郊の大学(一応,神戸大学なども候補に入れていた)を調べた結果,日本大学の文理学部,早稲田大学の教育学部,そして結局行くことになった東京都立大学の理学部を受験した。当時は数学の方が得意ではあったので,中央大学の理工学部の数学科も受験していた。結果としては早稲田以外は合格したのだが,正直言って都立大学に合格するとは思わなかった。実際大学に進学すると,高校までの数学,物理,化学,生物と大学のそれとはレベルが違っていて,間もなくついていけなくなり,学科内で理系でない人文地理学研究室があったので,3年生からはそちらに進んだ次第。
とはいえ,学部生の時代に自然地理学の講義もいくつか受けていて,それなりに学んだこともあった。それがいわゆる第四紀学といわれるものだ。つまり,自然の比較的最近の歴史を明らかにすることだ。特に都立大学には町田 洋という本書にも執筆しているテフロクロノロジーの権威である地形学者がいて,また古い日記から古気候を復元するという研究も手掛けていた三上岳彦という気候学者がいて,私が大学院に進学する時に環境地理学研究室には立命館大学から進学してきた宮本真二がいた。そうした研究は,過去数万年スケールの気候変動をベースにした上で,海面が上下し,それと共に地形が変化し,植生も変化するという,私たちが日常的な生活の中で認識している,川があって海があって,平野があって山があり,平野には木が生えておらず,山地に森がある,という地理のあり様が数百年,数千年,数万年前は容易に想像もできないほど異なっていたということを教えてくれた。
私もこの時代の常識的な少年の例にもれず恐竜が好きだった時代もあったので,かつてこの星には大きな火山の噴火や隕石の落下や,氷河期というものがあるといった具合に,自然環境にも変化があったということは知っていたが,そのメカニズムや連続的な変化については知らなかった。また,氷河期についても,では氷河とは何なのか,言葉しか知らなかったし,氷の河なんてことを想像することもしなかった。大学には氷河地形の専門家もいて,氷河というものは言葉そのもので氷が川のように年間数センチほど重力にしたがって流れるもので,水の川とは違って固形物が流れることで川底が削られることを知った。そして,氷河地形は日本の山岳地にもあるということも。ともかく,結局自然地理学は専攻しなかったが,断片的には大きな学びはたくさんあった。
ということで本書だが,まず2章で述べられているように,気候変動が基礎となる。第四紀研究は地中に埋もれた様々な記録から過去の状態の痕跡を明らかにするということが中心になる。地球規模の海面の状況を知るには海底の堆積物をストロー状のコアと呼ばれるものによって採取し調査する。深海底の堆積物は波などの影響を受けずにほぼ年代順に堆積する。堆積物中に含まれる酸素があれば酸素同位体比による海水温の推定ができるという。酸素原子の質量はほとんどが16だが,海水面の温度によって質料18の酸素が増えるという。よって酸素18の比率が多い時代には海水温が高いということになるし,また堆積物中に含まれるプランクトンの種類によっても海水温の推定ができるのだという。
と,ここまで書いてきたが,授業のために読んできた本もたまってきて,講義資料の作成にも追われてきたので,後は簡潔にまとめたい。第四紀学はまさに自然科学の学際的研究で,また地層に記録されたさまざまな試料について技術的方法によって可能になったさまざまな指標の推計法によって,各分野が補完し合って,特に過去1万年程度のまさに人類が生きてきた歴史における自然環境の変化を復元するものである。

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