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【読書日記】松本 創編『大阪・関西万博「失敗」の本質』

松本 創編(2024):『大阪・関西万博「失敗」の本質』筑摩書房,254p.900円.

 

息子の通う中学校の来年度の修学旅行に万博が組み込まれそうだという話は前の読書日記に書いた。西谷文和さんの『万博崩壊』はなかなか担任の先生に読ませる代物ではないと思い,別の本をどうしようかと考えている時に『しんぶん赤旗』に書評記事が出ていたのが本書。しかも,評者は藤永のぶよさんです。
ともかく,大学教員や建築士を含む執筆陣による少しお堅い本書の方が中学校の教師に読んでもらうにはいいと思った。といっても,そもそも大阪万博に反対する立場で書かれた書籍が他にいろいろあるわけではない。なお,本書はちくま新書の一冊であり,複数の著者による論文集形式であることがかなり珍しいと思う。編者の松本さんはノンフィクションライターで橋下徹に関する著作があるので,本書の出発点も『万博崩壊』に近く,やはりこの大阪万博というプロジェクト自体が維新の悪政の象徴だというところにあるのかもしれない。著者である木下さんは大阪日日新聞記者をやっていたジャーナリストとのこと。森山さんは建築エコノミストと名乗っている一級建築士で,どこかは思い出せないが名前は何度か見たことがある。西岡さんノンフィクションライター,吉弘さんは桃山学院大学の教授で,財政・経済政策の研究者とのこと。こちらも大阪維新の会に関する著作がある。

はじめに
1章 維新「政官一体」体制が覆い隠すリスク――万博と政治:木下 功
2章 都市の孤島「夢洲」という悪魔の選択――万博と建築:森山高至
3章 「電通・吉本」依存が招いた混乱と迷走――万博とメディア:西岡研介
4章 検証「経済効果3兆円」の実態と問題点――万博と経済:吉弘憲介
5章 大阪の「成功体験」と「失敗の記憶」――万博と都市:松本 創
参考文献
関連年表

こんな感じで,本書は万博について,政治,建築,メディア,経済,都市という5つの視点から5人の論者によって,基本的には批判的な観点から大阪万博について,それを「失敗」として論じており,やはり西谷さんの『万博崩壊』よりも読み応えがある。第4章については,オリンピックについても経済波及効果についての論考をいくつか読んでいたので,新規な感じはしなかった。西谷さんも大阪万博と吉本興業の関係については論じていたが,本書で知ることは多かった。まず,第3章で吉本と一緒に電通のことを論じている。2020東京オリンピック時の電通の不祥事については当然知っていたが,それが大阪万博に決定的に影響をもたらしているということについては,少し想像力を働かせれば分かったことだが,私はそういう想像力をはたらかせていなかったので,意外な盲点だった。そして吉本の方にも万博アンバサダーとしての松本人志の不祥事をはじめとして結局は全面的な万博支援をできなくなったということも知らなかった。確かにこれでは迷走するのも仕方がないと思う。
1章の万博と維新の会の関係も非常に丁寧に辿っていて,第5章の大阪の問題と併せて読むとこの万博までに至る大阪の状況が立体的に理解できる。特に第5章では,地理学者の原口 剛さんの話が出てきて嬉しい。とはいえ,文献は出てこないので,本人へのインタビューであろうか。また,驚いたのが橋爪紳也。第5章は吉見俊哉による万博時代錯誤論から始まるのだが,東京の吉見,大阪の橋爪といえるほど,近代都市としての東京と大阪のあり方を博覧会や盛り場という視点から論じてきたのがこの2人であった。吉見も実のところは2020東京オリンピックの準備段階ではそれによって城東地域が盛り上がるならいいみたいな論調をしていたが,終わった後はかなり批判的だった。万博については1992年に『万博の政治学』を書いていたことから2005年の愛知万博の際には開催側に関与するようになったようだが,その年に『万博幻想』を出版している。吉見氏の作品はそこそこ読み続けていたが,実のところ橋爪氏の作品はほとんど読んだことがない。一冊読んではみたものの,大阪の土地勘がないことも手伝ってすごく読みにくく,それ以降手を伸ばしていない。ちょっとわき道にそれすぎたが,吉見氏は2025年大阪万博については完全に否定的である一方,橋爪氏はなんと構想段階から積極的に検討会などに関わり,座長まで歴任している。なんとなく感じていた橋爪氏の研究に対する違和感が分かってすっきりした気分。いずれにせよ,そうした知識人の後ろ盾もあって大阪万博は招致成功まで導かれたということになる。もちろん,橋爪氏や維新の会の橋下や松井,そして二人と仲の良い安倍元首相と菅元首相という自民党政府との関係のなかでこのメガイベントが開催に向けて,IRカジノとセットになって強引に進められてきたのだが,第5章ではそれを1970年大阪万博との連続でとらえていて,堺屋太一や,そして本書を読んだ後,西谷さんのラジオ番組に山本理顕氏がゲストに来て大阪万博について議論していたなかで語られたが,建築家の安藤忠則氏も大きく関係しているということだ。
ともかく,大阪万博の闇は深い。

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