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【読書日記】町田 洋『火山灰は語る』

町田 洋(1977):『火山灰は語る――火山と平野の自然史』蒼樹書房,324p.2,500円.

 

先日の読書日記で書いたように,今年担当することになった地理学概論で自然地理学を講じることとなり,私自身が学生時代に関心を持っていた第四紀研究を中心にお話をすることとした。地形学分野ではテフロクロノロジーの話を中心とするが,それは私が当時通っていた東京都立大学にテフロクロノロジーの第一人者であった町田 洋さんがいて,私も授業を受けていたからである。私は結局地形学研究室には進まなかったので,彼の主著である本書を購入しなかったが,その書名は深く私の記憶にとどまっていた。ということで,今回古書で購入し読んだ次第。

まえがき
I
章 火山灰とは
II
章 富士火山の生いたち
III
章 箱根火山の生いたち
IV
章 富士テフラの間から発掘された九州の巨大噴火
V
章 テフラをためた関東平野
火山活動,気候変化,海面変化,地殻活動を結ぶもの――むすびにかえて
付図 日本の主な鍵テフラの分布図
主な参考文献
索引

地形学は英語でgeomorphologyといい,直訳すれば地表面形態学である。geo=地理とするならば,地理形態学といってもいい。形態学という言葉はゲーテも使ったし,デュルケームも使っていた。特定の事象を研究する際の基礎的なものだといえる。形態学に次いで,機能学(そういう表現はあまりしないので,生物学の場合には生理学ということになるか),そして構造学といった具合に,事物の表面から内側へと探求は続く。そして,地形学という地表面に限定した学問分野は地理学に含まれるが,地中に入っていく地質学geologyは地理学には入らない。
ここまでが私の地形学の理解だが,本書で町田氏は地理学の語はほとんど使っていない。というのも,彼は東京都立大学で地理学教室の教授をしていたが,本人は地形学にアイデンティティを持っていたものの,地理学に強い思い入れはなかったかもしれない。先の読書日記で少し解説した第四紀学はそれこそ地形学の他,気候学や生物学,考古学などを含む学際的領域であり,それら分野には地理学に属するものも含まれるが,そうでない分野も含まれる。ということで,本書も思ったよりも地理学や地形学という枠組みには収まらない内容であった。
テフロクロノロジーとは火山灰(テフラ)による編年学(クロノロジー)である。誰でも知っているように,地層というものは古いものほど地中深くに堆積し,年輪のように(年輪編年学もある)層になっている。地層の年代測定は炭素同位体比とかフィッショントラック法(ウランの半減期を使う)など原子レベルでの方法があるが,テフロクロノロジーでは,どの火山から何年に噴火した火山灰ということが特定できれば,それが地層のどこに挟まれるかによってかなり精度の高い年代測定ができる,とここまでは大学野授業で学んで知っていた。本書はそのことをかなり詳しく論じているのだ。なので,「どの火山から何年に噴火した火山灰」に辿りつくまでのこととして,いわゆる火山学といえる内容の話がかなりある。特に,本書では富士山とその東側に位置する関東平野を主たる事例としているため,富士山の成り立ち,さらにはそれ以前の箱根についてもかなり詳しく解説されている。火山は何も年代測定の鍵となるだけではない。といっても,多くの人が知っている関東ローム層という名前,そしてそれが火山噴火物によるそうだということ。関東平野の大地に積もった地層のほとんどは火山由来だということだ。確かに,河川流域や湖沼,海であれば河川が運んだ土砂が積もって地層ができる。しかし,普通の陸地は雨による地表面流水によって削られるばかりで積もりはしない。そういう意味でも,関東地方の地形は火山灰がつくったともいえる。本書の後に貝塚爽平『東京の自然史』を再読したので,どちらかというと,そちらに書かれていたことだと思うが,関東地方は継続的に火山灰が降り積もり,長い地質学的時代のなかで,地球規模の寒暖が繰り返されて海水面が上下に変動してその折に海水や河川の浸食作用で凸凹が形成される。河川になった場所では降り積もった火山灰は流されて,海へと運ばれる。
そんなプロセスで出来上がった関東地方の地形をダイナミックに理解できるのもテフロクロノロジーのおかげということかもしれない。
本書の後半では,現在の鹿児島県桜島の火山が,非常に大規模な噴火を過去に起こしていて,その火山灰は火山灰研究者の想像を超えるような範囲で到達していたという発見について,その経緯を語っていて興味深い。もう50年が経とうかというこの本を,現在の地形学者がどう捉えているかは分かりませんが,最新の知識を特に必要としていない私のような読者にとっては非常に面白く,学ぶことが多かった。

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