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2025年1月

【読書日記】いちむらみさこ『ホームレスでいること』

いちむらみさこ(2024):『ホームレスでいること――見えるものと見えないもののあいだ』創元社,157p.,1,400円.

 

本書は「10代以上のすべての人に」と題された「あいだで考える」というシリーズの1冊。小ぶりな版でページ数も少なく,素敵なデザインの一冊。本書もいちむらさん自身の筆によるカラーの作品で飾られている。著者についてはこの読書日記でも何度か書いてはいるが,本書はご自身の経緯も含めて詳しく書かれているので,改めて説明しておきたい。

はじめに
1
章 公園のテント村に住みはじめる
2
章 ホームレスでいること
3
章 わたしたちのゆれる身体
4
章 切り抜けるための想像力

本書の冒頭は「東京の真ん中にある森林公園のずっと奥に,ブルーテントの村がある。」(p.9)という文章から始まる。著者がここに住みはじめたのは20年前からだという。当時,公園内には350軒ほどの小屋やテントがあったというが,現在は15軒ほど,40名ほどの暮らしがあるという。その公園が何公園かは書かれておらず,私自身も東京でホームレスがまとまって暮らしている場所などは知らない。日本の地理学者にはホームレスの研究をしている人が少なくないが,大阪に偏っているため東京の事情は分からない。
本書で著者がブルーテント村の住人になることを選択することになった具体的な経緯が語られているわけではない。現在でもいちむらさんは絵画を中心としたアーティストだが,おそらくアート関係で生計を立てられていたわけではないと思う。何らかの形で給料をもらう勤務形態を取っていたが,その生活に耐えかねてブルーテントの住民になる。私は大学院まで出て無利子の奨学金を600万円以上かかえていたものの,博士課程の時から非正規で働いていた会社の給料は単身生活には十分すぎ,結婚する時にはまだ若干奨学金の返済が残っていたが,卒業時の奨学金とほぼ同額の貯金もあったので,一人暮らしの時はお金に困ったことはなかった(まあ,大した贅沢もしない質素な生活だったが)。それが結婚して子どもが生まれ,持ち家を立てるということになり,その住宅ローンの頭金ということで貯金は全くなくなり,それから15年,全く上がらない給料を毎月もらわないとローンも支払えない自転車操業の日々が続いている。その会社の仕事にも嫌気がさしてきたが,転職するにしても給料が下がってはいけない,1か月でも給料のない隙間期間を作ってはいけない,などの厳しい条件の下で,なんとなく今の仕事を続けている毎日。もうすでに私には家族がいて,有体のいい方をすればかれらを路頭に迷わせるわけにはいかないが,いわゆる家賃というものに振り回されない生活があるというのは,いちむらさんの生活スタイルを知った時に目からうろこという衝撃だった。地理学におけるホームレス研究の多くが日雇い労働者を対象としたものだったので,建設現場の日雇い労働をする高齢男性が中心であると同時に,その生活実態を明らかにするような研究ではなかったので,固定された家や職というものから自由である存在ということは知っていたし,かれらはいうなれば資本主義のシステムにうまく利用されながら(搾取され),それでいてそのシステムにうまく乗れた人には与えられる生活保障にはあずかれないという存在だった。しかし,いちむらさんはあえてその資本主義のシステムには乗らず,利用されず,逆に食料や衣料の過剰生産のおこぼれを活用するという形で資本主義に抗いながら利用するという生き方は理想的のようにも思えた。もちろん,例えば冬のような季節であれば,家があれば寒さから逃れ,比較的容易に暖を得ることもできる。屋外の生活ではそうはいかないわけだし,食についても13度決まって摂らなければならないということからは自由だが,本当に欲しい時に摂ることができないというリスクを常に背負っている。そういう意味で,もし家族などから自由であったとしても,そこに身を投じる勇気は私にはない。著者の存在は私にとって憧れであり続けるのだ。
先にも書いたように,いちむらさんが住むようになって20年間で,ブルーテント村の住人は激減している。本書によればそれは行政の成果である。表向きにはホームレス状態で困っている人に手を差し伸べ,生活保護につなげ,社会復帰をさせてきた,という行政の成果に見えるだろう。しかし,少し前では東京の渋谷区のいくつかの公園再開発で,最近では大阪の釜ヶ崎(まさに大阪の地理学者たちが研究し続けているフィールドだ)で暴力的にホームレスの追い出しが行われた。いちむらさんたちが住むブルーテント村はそういう分かりやすい一掃追い出しはなかったようだが,まずは新しい住民を増やさないということが決められ,実行されたという。今住んでいる人は(既得権益として)住むことを認められるが,新しい人は住まわせない。ということは,行政側が現在住んでいる人のことを全員把握しているということだ。さらにいえば,2人で1つのテントに住んでいた人が何らかの事情で2つに別れるとか,テントを別の場所に変更するとか,そういうことも認められないのだろう。テント以外の場所でとどまろうものなら,そうした場所に水をまいたり,さまざまな形で嫌がらせをするという。そして,頻繁に住民に声をかけ支援へとつなげる。支援につなげると書けばよいことのように思うが,実態はそうでもないらしい。劣悪な居住環境に押し込められたりして,ブルーテント村に戻ってくる人も多いという。しかし,戻ってくるというのは行政にとっては新規参入者と同じ扱いになるので,そこで居住が許されるわけではない。そもそもホームレスの方々はさまざまな事情で今の生活に落ち着いており,また様々な試行錯誤を繰り返して自分なりに快適な生活をそこで築こうとしているのだが,行政はそれを理解していないし,理解しようともしない。いや,そもそも私も以前はまったく理解できていなかったし,多くの人も同じように理解しようともしないのだろう。いずれにせよ,普通に生活している人の姿も見えにくくなっている今日の社会のなかで,そもそもが見えないものとされているホームレスの生活実態は,いちむらさんのような活動がなければ理解するすべもないのだ。
いちむらさんの発信がさらに重要なのは,女性のホームレスの立場からの発信であること。それは単にいちむらさんが女性であるとういうことだけではなく,彼女自身が一般社会とはまた少し違った意味あいでの男性中心社会であるブルーテント村において,女性の居場所を作り続けているということ。それはとかく孤立しがちなホームレス社会のなかでの女性であるいちむらさんが自分自身の安全のためもあるが,同様の立場に立たされている女性たちの安全も確保するために,女性同士で連帯することを行ってきた。とはいえ,いちむらさんのすごいところは相手の立場や主体性を常に優先的に考え,無理やりにではなく,自主的に参加しやすい場を作り上げているところだ。
それから本書では,2020年に予定されていて2021年に開催された東京オリンピックに関することも書かれている。いちむらさんが反五輪の会のメンバーとして,2020年東京五輪大会で重要な反対運動をしていた(今でも続いている)ことはこのblogでも再三書いたが,本書ではホームレスとの関係で詳しく書かれている。オリンピック反対運動としては,明治公園でのホームレス追い出しの事件が中心だが,新国立競技場建て替えという大きな問題だけでなく,特に渋谷区に関しては現在まで続く公園の再開発とそれに伴うホームレスの追い出しは長期間にわたって繰り広げられているのだ。その筋では有名になった宮下公園(現ミヤシタパーク)から始まって,現在でも美竹公園が再開発進行中であって,その近辺では,公園という限定された空間だけでなく,公園と公園を線で結ぶような通り全体においてホームレスの痕跡を消し去り,きれいなものに置き換えていくというまさにジェントリフィケーションが進行しているのだ。そうした動きに対していちむらさんたちは抵抗し,ホームレスの痕跡を残し,自らの居場所を主張し,道行く人たちにもその存在を知らせ,かつ排除するのではなく共存していく道を考えさせるような活動を行っている。そう,ホームレスを追い出そうとするのは国家権力や行政だけではない。直接手を下すのは行政から委託された民間の建設業者であり,さらにそこから委託を受けた警備会社である。そして,道行く人もホームレスに嫌がらせをし,暴力をし,排除に手を貸すのだ。世界中で起きている宗教や民族,性的志向などマイノリティを社会から排除する力と同じ構造がそこかしこで進行していて,しかし一方では当事者が声を上げ,市民の一部がそれに連帯し,という動きもある。
ともかく,本書はそうしたマイノリティの生き方について深く考えるきっかけを与えていれるものであり,多くの人に読んでもらいたいと思う。

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【読書日記】『地平』創刊号,2024年7月特集「コトバの復興」

『地平』地平社,2024年7月創刊号,256p.,990円.

 

岩波書店の雑誌『世界』の編集長を務めていたという熊谷伸一郎氏が新しく出版社を立ち上げ,月刊誌を発行するということで話題になっていた。とりあえず創刊号は買っておこうと思ったら,パートナーが購入してきてくれた。早速読もうとは思っていたものの,後期の授業が近づいてきて授業準備のために読まなければいけない本があるのと,思ったよりも本誌が話題にされていて,何となく波に乗り遅れた感があり,なかなか読むことができなかった。月刊誌なので,そのうちにも次々と刊行されたが,購入はしなかった。とはいえ,パレスチナの特集もあって,早尾さんの文章は読んでおきたいと思って読み始めたら一気に読んでしまった。改めて編集者の力量を思い知らされた読書だった。とはいえ,結局8月号以降も買ってはいないのだが,私のなかでは毎号の特集は気にかけるべき雑誌となったことは間違いない。

創刊特集 コトバの復興
創刊にあたって
 酒井隆史:〝過激な中道〟に抗して――新しい地平を切り拓く作業へ
 師岡カリーマ・エルサムニー:圧政者が恐れるもの――言葉のただならぬ重みをめぐって
 三宅芳夫:「リベラルな国際秩序」の終焉?――グローバル冷戦と米覇権秩序
 雨宮処凛:消費されない言葉を!――貧困の現場からの模索
 吉田千亜:言葉と原発 根を張る言葉、葬られる言葉
 尾崎孝史:(新連載)ウクライナ通信 ドンバスの風に吹かれて
 阿部 岳:沖縄に倚りかからず
 神子島健:雑誌と同志――青鞜・世界文化・近きより
 花田達朗:(短期連載)第三のジャーナリズム
緊急特集 パレスチナとともに
 岡 真理:ガザ 存在の耐えられない軽さ
 早尾貴紀:イスラエルの過剰な攻撃性に関する三つの問いをめぐって
 ムハンマド・セーラム:Photos:GAZA
 栗田禎子:ガザ侵攻に抗うグローバルサウス
 三牧聖子:ジェノサイドを否定するアメリカ ジェノサイドに抗するアメリカ
【座談会】杉原浩司×松下新土×古瀬菜々子×溝川貴己 暴力と不公正に声をあげつづける
 アーティフ・アブー・サイフ:軍事侵攻下のパレスチナから
 中野真紀子:パレスチナの声を聴く
知層 News In-Depth
 山本昭代:メキシコ「麻薬戦争」と新政権の課題
 小池宏隆:脱プラスチック社会へ――国際社会の動きと日本政府
 武田真一郎:国は何を「指示」したいのか―地方自治法改正の問題点
 鈴木雅子:移民なき「共生」社会?――入管法改正の問題点
●【特別鼎談】地域・メディア・市民:岸本聡子、南 彰、内田聖子
●短期連載
 天笠啓祐:フッ素の社会史 PFAS問題の淵源 第1回 メロン財閥と「夢の物質」
 佐藤 寛:イエメン――忘れられし者の存在証明
●新連載
 七沢 潔:ルポ・震源地からの伝言 珠洲原発を止めた人々 第1回 孤立集落の連携プレー
 樫田秀樹:ルポ・会社をどう罰するか? 第1回 笹子トンネル天井板崩落事故
 山岡淳一郎:ルポ・薬と日本人 第1回 市販薬依存 修羅からの脱出
 後藤秀典:ルポ・司法崩壊 第1回 原発訴訟にみる最高裁の堕落
 栖来ひかり:台湾・麗しの島だより 第1回 移行期正義の練習帳①
 石田昌隆:Sounds of World 第1回 スザンヌ・ヴェガ
 池内 了:危機に瀕するアカデミア――軍拡バブルのもとで
 小林美穂子:桐生市事件 生活保護が半減した市で何が起きていたか
●書評 Independent Book Review
 清田義昭:七万冊を是とする—出版とはどのような営為か
 今福龍太:〈詩の親密圏〉へのいざない—『シュテファン・バチウ』をめぐって
 大森皓太:風を感じる本

目次を見た時,ちょっとすぐに読もうという気は起らなかった。編集長はおそらく出版界では有名な方で,彼が声をかければ多くの人がそれに答えるのだろう。私が普段観ているYouTube番組などに登場する著名な方の多くが寄稿しているのが分かったからだ。そのなかには大学の研究者もいるのだが,出版界で,あるいは独立系報道YouTube番組などで重用される人がそこそこ限定されていることが多少気になっている。もちろん,執筆やYouTubeなどでのトークはそこそこ訓練が必要で,回を重ねればそれだけ熟達することは間違いない。しかし,多様な意見を集めたり,新たな執筆者や発言者を見出していくということが編集者の力量だとも思う。もちろん,本誌には私の知らない人も多く執筆されているので,その力量は私が言わずとも十分すぎるほどあるということは読んでみて分かったが,読む前の印象はそんな感じだった。
ちなみに,岡 真里さんは,『現代思想』の論文で知り,いくつか読んだ後,2000年に岩波書店から出ている「思考のフロンティア」というシリーズで出ている『記憶/物語』という本を読んだ切り,それが難解だったために,彼女の文章を読んでこなかった。今は,ガザの問題で呼ばれればどこでも話すという感じでの講演活動をしているが,こういう形で活字でしっかり読んでおくのも重要だ。早尾貴紀さんは私が非常勤で務める東京経済大学の教員であるにもかかわらず,202310月以前は知らなかった。Twitterでパレスチナ関連の情報源としてお世話になっていたが,彼の著書や訳書もまだ手には取っていない。本誌に掲載された文章はまだまだ知られていなかったり考えの及んでいないことがあるということを思い知らされる素晴らしいもの。
栗田さんや三牧さんも最近知った研究者だが,やはりこうして一定の分量のある文章を活字で読むことの大切さを改めて感じる。
創刊特集の「コトバの復興」というタイトルの意味するところはあまり汲み取れなかった。まあ,いわゆる大手新聞を代表とするマス・メディアの凋落についてはいわずもがなだが,このタイトルはそれに加えて紙の新聞からネットメディアに,文字情報から映像へと流れていく傾向に対して本誌はあるべき姿のジャーナリズムの場を作っていこうという宣言だといえる。以前,NoHateTVでも話題になった極中=過激な中道(extreme center)が酒井さんの手でしっかり説明されているし,原発,ウクライナ,沖縄といったホットな話題の最前線が報告される。
鼎談はいずれも,地平社から著書を出している人物3人によるものなので,かなり宣伝的なものではあるが,宣伝として魅力的な対談になっているともいえる。桐生市の生活保護の問題は複数のYouTube番組でかなり詳しく知ったものではあるが,こうして活字に残されるということは大きい。デモクラシータイムスのMCで知っていた山岡淳一郎氏の記事を読むというのも新鮮で,また市販薬物依存というテーマも嬉しい。笹子トンネル事故に関する記事は非常に貴重なものである。今福龍太さんというのは失礼ながら今更なんて思ってしまったが,昨年出版された阪本佳郎さんの『シュテファン・バチウ』というあまり知られていない人物についての研究書を評者自身とバチウ,そして著者との関係性を紐解きながら紹介するその手腕はさすがだと思った。
いずれにせよ,毎月出されるのは少しもったいないと思うような雑誌だった。季刊くらいにしてもらったら,じっくり読めるのにな,なんて思ったり。

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【映画日記】『推しの子 The Final Act』『侍タイムスリッパ―』『ありきたりな言葉じゃなくて』

2024年1221日(土)

府中TOHOシネマズ 『推しの子 The Final Act
『推しの子』はアニメ化されるかどうかという時期に娘が注目していた。アニメ化された頃,作中の設定が木村花さんの事件に似ているところがあるということで批判が相次いだし,個人的には小学生に読ませるような漫画ではないと思ったが,娘はそこそこアニメを観,コミックも数冊家にある。ただ,さすがに実写については当初娘は観たくないといっていたが,徐々に心変わりして,結局観ることとなった。公開に合わせて発売されたコミック最終巻と合わせて,実写版のドラマが進行し,映画はその結末を描くというところが気になったようだ。
公開2日目に観ることとなり,映画館に向かう前に最終巻コミックを購入し,電車の中で娘が読む。読み終わったので私も映画館で少し読む。2日目にしては客の入りはよくない。冒頭は一応コミックやアニメ,ドラマなどを観たことがない人向けに一通りの説明がある。途中の展開の説明はほとんどなく,最終話についてもかなり省略や脚色があるが,あまり物語展開を理解していない私のような観客にも十分に楽しめる内容だった。私が知っている俳優が少なかったのも楽しめた一つの要因だったかもしれない。
https://oshinoko-lapj.com/

 

2024年1229日(日)

立川シネマシティ 『侍タイムスリッパ―』
息子と二人で出かけることになり,観たい映画を探してもらって選ばれたのがこちら。以前にも似たような設定の映画があったが,こちらはパートナーも薦めていたし(彼女は文化系に詳しいインスタグラム仲間がいて,その手の情報に詳しい),予告編を観ても面白かったので観ることにした。
幕末の武士が決闘中に雷に打たれ,現代にタイムスリップするという話。たまたま来たところが京都の時代劇撮影所ということで俳優として身を立てていくという展開。作り手の時代劇愛が溢れた素晴らしい作品。パートナー情報によるとこの作品は池袋シネマロサでの単館上映が話題になって全国に広まったという。シネマロサという旧来の映画館でまだやっているところはほとんどなくなってしまったし,こういうヒットは嬉しい限り。ちなみに,本作で重要な役どころである,時代劇の助監督を演じている沙倉ゆうのさんはエンドロールで何度も名前が出てきたが,出演俳優というだけでなくスタッフとしても働いていてまさに役どころそのもの。30年前には時代劇があたり前のようにテレビで放映されていたが(実際にはもう少し前だと思うが),最近で週に一回観られればいいもの,という状況に対して本格時代劇映画を作るというのが後半の見どころ。それは作中だけのことではなく,本作そのものがそうした心意気による作品だと思う。ちょうどそんなところに,松平健の『暴れん坊将軍』のテレビシリーズが復活するというニュースがあった。なんと脚本が大森美香さんで監督が三池崇史さんだという。時代劇映画は最近少なくないと思うが,テレビドラマも盛り上がってくるかもしれない。
https://www.samutai.net/

 

2025年12日(木)

吉祥寺アップリンク 『ありきたりな言葉じゃなくて』
この日は個人行動が許されたので,久し振りに吉祥寺に出かけた。チリの女性運動に関するドキュメンタリー映画『私の想う国』が観たかったが,他の上映作品を探したら,この作品が気になってしまったので,日本映画を観ることにした。
主演の前原滉さんという俳優さんは初めて観るが,台湾映画の俳優のような雰囲気があって好感が持てたが,前半の演技には少し違和感があった。しかし,後半のクライマックスではとても良かった。なお,本作はテレビ朝日の番組制作チームによるものだという。実話をベースにしているということもあり,私もジャンルは違えど物書きであるので,主人公と同じような経験があった。なお,主人公はジェンダー関係の意識が低いというところにリアリティがある。かといって,明らかなセクハラをするということではなく,女性の立場に立てないというところを克服しようとする努力を放棄しているともいえるもので,ジェンダーやフェミニズムをそれなりに学んできた私も同じようなことをしてきたと反省させられた。この作品としては,その辺りに非常に意識して丁寧に描いている。演技に違和感のあった主人公に対し,相手役の女性を演じる小西桜子さんの役どころと演技はなかなか良かった。とにかく,なかなかいい映画だった。
https://www.arikitarinakotobajyanakute.com/

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