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【読書日記】吉見義明『従軍慰安婦』

吉見義明(1995):『従軍慰安婦』岩波書店,238p.,780円.

 

日本軍の従軍慰安婦についての本は,朴 裕河『帝国の慰安婦』についで2冊目だが,本書を読んでさらに分かった気になってしまう。それくらい,私の貧しい想像力では思いもしない衝撃的な内容が本書には網羅されている。でも,本書は1995年時点の日本で書かれた新書だし,まだまだこのテーマは奥が深いのだろうと想像してしまう。とはいえ,本書でもそれ以前に書かれた書籍についても言及されているのでこのテーマについて知るべきことはまだまだ多いと思うし,本書以降に研究が進んだ側面も大きいと思う。


I 設置の経過と実態――第一次上海事変から日中戦争期まで
II 東南アジア・太平洋地域への拡大――アジア太平洋戦争期
III 女性たちはどのように徴集されたか――慰安婦たちの証言と軍人の回想
IV 慰安婦たちが強いられた生活
V 国際法違反と戦犯裁判
VI 敗戦後の状況
終章

本書は本当にこのテーマについてコンパクトに整理されていて,それをさらに私がまとめるというのも気がひけるというか,知りたかったら本を読んでください,の一言しかない。
旧ユーゴスラビアなど1990年代以降の比較的最近の戦争でも兵士による侵攻地での性暴力がまさに,戦術の,あるいは一種の攻撃として重要なものであることが示された。当然,第二次世界大戦のなかでも世界中の多くの戦地で兵士による現地住民への強姦は多く確認され,日本軍による慰安所の設置はそうした個人的な犯罪を軍組織としてなくしていくという目的によるものだということが理解できる。ということもあり,本書では他の国の軍隊はどうだったのかをしっかり示し,似たような施設は他の国にもあったことが示されている。しかし,その一方で国際法の次元で,そのようなものがいつからどのような形で禁じられ,各国の批准状況に照らし合わせた作業も行われている。そうした国際比較をしても日本軍の慰安所は特殊でひどいものであることが示される。
さらに,一概に日本軍による慰安所といっても,アジア太平洋戦争で日本が侵攻した場所は数多く,それらも一律に同じではないので,地域による違いも論じられているし,また,各地の慰安所で集められた女性についても各地の状況でさまざまであることも示され,そういう意味では非常に地理学的想像力の豊かな書であるといえる。そしてその日本軍の特殊性を支えているのが,日本特有の男女観,性に関する価値観にある。当時であれば,性交の経験のない若い兵士も多かったわけで,死ぬ前に女くらい抱いておけ的なノリや,兵士としての士気と精力とを同一視する見方など,いわゆるマスキュリニティの度合いと精力とを,兵士としての能力と結びつけるような価値観,認識が強かったといえる。もちろん,それは現代社会でも息づいていて,今では少なくなったものの,エロ談議で盛り上がる体育会系男子や,会社の男性同士で性風俗店やキャバレーなどで絆を深めるようなホモソーシャルな関係などは日本人的な精神風土といえるかもしれない。
そして,本書は戦後の状況にも配慮しているところがぬかりない。敗戦後の日本では,連合軍の兵士が駐留することとなり,自分たちがやってきたことを同じように外国の兵士もやるだろうと想定している。つまり,日本国内の女性たちが性暴力の被害に遭うという想定だ。その被害をなくすために,外国兵士を相手とする慰安所を積極的に設置したのだ。これは短期間で閉鎖されたようだが,結局,大きな戦争で負けても自分たちがしたことを反省していないが故に,根本的に変わっていないように思う。
そもそもが日本政府は自分たちの戦争加害を反省していないし,研究者がこれだけの本を書いても,第二次安倍政権以降従軍慰安婦を否定しようとする勢力が増している。一方で,特に沖縄県での米兵による性暴力が相次いでいて,この場合は日本側は被害者にはなるのだが,ともかく根本的な解決に向けて日本政府が本腰を入れていないということが一番の原因だと思う。

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