【読書日記】加藤直樹『九月、東京の路上で』
加藤直樹(2014)『九月、東京の路上で――1923年関東大震災ジェノサイドの残響』ころから,215p.,1,800円.
2023年9月1日、私は東京都庁の前にいた。関東大震災から100年目のこの日、都庁前で「小池百合子、東京都知事は関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式に追悼文を送れ」デモに参加したのだ。関東大震災100年ということで、東京都の「東京都人権プラザ」で開催された企画展で飯山由貴さんの映像作品『In-Mates』が上映中止となったことを受けて、東京都の人権に対する姿勢、そして関東大震災の朝鮮人虐殺についての小池都知事の理解などに対して抗議するという意味でも、単に100年ということ以上に大掛かりなデモだった。
その頃は、この飯山さんをめぐるすったもんだに関するNoHateTVなどのYouTube番組をよく見ていたが、なかなか関東大震災の朝鮮人虐殺に関する書物を読むところまではいけていなかった。本書についても、そうした番組でも本当に基本的な文献として触れられていたのに、入手することもしていなかった。今年に入って、またまた古書で見つけ、そんなに安い値段にはなっていなかったが、状態も良かったので購入しておいた。これまた読む機会がなかなか訪れなかったが、今年(2025年)の9月1日は意を決して、両国にある横網町公園で開催される関東大震災朝鮮人犠牲者追悼式に参列することとしたのだ。そして、まさに読むのはこの日だろう、と久しぶりの電車での遠出となることもあって、本書を往復の電車で読むこととなった。
まえがき 新大久保の路上から
年譜
本書に登場する事件の現場地図
凡例
第1章 1923年9月、ジェノサイドの街で
第2章 1923年9月、地方へと拡がる悪夢
第3章 あの9月を生きた人々
第4章 90年後の「9月」
参考文献一覧
関東大震災の朝鮮人・中国人虐殺をもっと知るためのブックガイド
あとがき
本書は私が普段読んでいるような、そしてそうした日常的な読書から想定するような構成ではない、とても凝った作りになっている。巻末の著者プロフィールには本書が初の著書であるとあるが、肩書に「ジャーナリスト」という言葉はない。「フリーランス」とは書かれているが、安田浩一さんのように、ジャーナリストと多少活動を狭めるのではなく、もっと広く「ライター」というような位置づけなのだろうか。ともかく、本書は綿密な取材に基づいたルポルタージュとはいいがたい。しかし、読者のことをよく考えて構成されていて、そしてこの事柄、関東大震災時に起きた朝鮮人等に対する虐殺に関して、それほど知識がない読者に対しても、また私のようにある程度知識を持っている読者に対しても興味深く読めるような、そして多くの学びと気づきを得られるような本となっている。また、一度読んですっと頭に入るような形での「読みやすい」構成になっているとは必ずしもいえない。とはいえ、読みにくいわけではなく、読むたびに味わえる、なんとも不思議な構成だというのが私の印象である。
第1章はおそらく、関東大震災時に起きた朝鮮人虐殺に関する具体的な資料を手に、その出来事が起こった現場を訪れ、当時のようすに想いを馳せながら現在の風景を眺める、あるいはその事件にかかわる痕跡を見出す、そういうフィールドワークを基に執筆されていると思われる。そして、それを1923年9月1日から時系列的にたどっていくような構成で配置している。場所としては、9月2日の品川警察署前から始まり、旧四ツ木橋付近、神楽坂下、亀戸駅付近、千歳烏山、3日に入って上野公園、東大島、永代橋付近、4日に入って京成線・荒川鉄橋上、亀戸署といった具合。
第2章では、それが地方に広がる様子を同じようにたどっている。9月4日熊谷、5日江東区旧羅漢寺付近、6日寄居警察分署、9日池袋、12日逆井橋、など。第3章は朝鮮人虐殺を当時記録したものを、文学者や子どもたち、ノンフィクション作家、国会議員などの言葉・絵画表現などをたどる。そして、第4章は現代のようすを伝えている。一つには「ほうせんか」のような、この出来事を市民の手で明らかにし、風化させないような活動。一方では、この現代において同様の朝鮮人差別を行う人々。そして、2005年の米国でもハリケーンという自然災害において黒人に対するヘイトクライムが発生してしまう。最後の文章は「「非人間」化に抗する」と題されている。まさにこの一言に尽きる。人権の問題はもちろん難しい問題だが、究極的に単純化すれば、他人を自分と同等の人間とみなす、ということに過ぎない。もちろん、なかには自分の命を粗末にする人、自分の存在を肯定できない人もいるが、自分が傷つけられたり卑しめられたりするのが嫌だという人は、他人が自分と同じ人間存在であると考える以上、その他人を傷つけたり卑しめたりはしないはずだ。


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